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呪われたエザリア

デールの店のやりとり

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 森のデールの店では珍しく、またもベルがカラコロと鳴った。

「はあい、いらっしゃあ、れ?ジョルさん」
「エザリア嬢にもう一度会わせてもらいたいんだが」
「ちょっと待っててください。因みにご用件は?」
「騎士団長と会ってもらえるか確認したいんだ」
「き、騎士団長?」

 セインはびっくり眼でジョルを見上げた。

「ちょっと待っててください」

 くり返すと、店の奥へと入っていく。



 暫くしてセインだけが戻ってきた。

「エザリアは了承しました。いつ来ますか?」
「うまくいけば今夜」
「夜は危ないですよ、あっ!貴方がたには余計な心配でしたね」
「ああ。今はエザリア嬢には会えないのだろうか?」
「実はさっきジョルさんが帰ったあとに結界を張り直したんですけど、ちょっと厳重にやりすぎちゃって。次に来るまでに入れるようにしておくので」
「そんな結界を張れるとは!やはり魔法医薬師はすごいな。それなら安心だ。私と騎士団長は夜の森でも大丈夫だから、少し遅くに来るかもしれないんだが」
「安全に来られるならこっちは大丈夫ですよ」

 腹の探り合いのような会話を暫く交わしたあと、ジョルは騎士団へと戻っていった。




「エザリア、早ければ今日にも騎士団長も来てくれるらしいよ」

 心配のあまり何重にも結界を張り、奥の部屋に自分しか出入りできなくなったセインは、エザリアの安全が確認できるまではここから出す気はこれっぽっちもなかった。
 誰かが訪ねて来ても、スミル以外部屋まで入る者もないだろうと思っていたが、また騎士団長がエザリアに会いに来るとは思ってもみなかった。

「僕も考えが浅いなぁ、ちょっと考えたら調べてくれる騎士団が来ないわけがないのに」

 溜息を零すと、パチンと掌で両頬を叩いて自分に喝を入れ、高度な結界の張り直しを始めた。





 森の日暮れは早い。
 高い木がそびえ立つため、日が傾くと影が広がり暗くなってしまうのだ。
暗くなり始めたらあっという間に日が落ちる。

「団長、暗くなると危ないらしいですよ。早く行きましょう」
「阿呆か。この森にいるのはせいぜいブラックベアーくらいだ。おまえなら簡単に討伐できるから私と馬を守れ」
「ちょっと、冗談やめてくださいよ!私が簡単にできるというなら、団長なら小指で突けば討伐できます!団長が私を守ってくださいよ」

 しょうもない会話を楽しみながら、ジョルとイグルスは馬で薄暮の森を行く。

 薄暗がりの中、小さく灯りが見えた。

「何も出なかったな」

 つまらなそうなイグルスだが、ジョルは私服を汚さずに済んだとホッとした顔だ。

「あれですよ」
「ああ。ジョル、おまえの言う猫を見るのが楽しみだ。令嬢はさぞかわいい耳とシッポが生えたんだろうな」

 やっぱり信じていないイグルスの軽口に、今に吠え面かくぞとニヤリと笑うジョルである。



 カラコロと音を立てながらドアを開けると、店の奥からセインが顔を出した。

「ジョルさん遅かったですね、道中は大丈夫でしたか?」
「ああ遅くなってすまなかった、団長がなかなか戻られなくてな。団長、こちらがこの店の主で魔法医薬師セイン・デールさんです。こちらは我が騎士団の団長です」
「王立騎士団団長を拝命するイグルス・ベイトリールだ。遅くに訪問し申し訳ない」
「いえ、こちらは大丈夫です。早速ですが奥の部屋にどうぞ」

 カウンターのスイングドアを開けてやる。

「エザリアはそこに」

 そう言われたが、猫耳娘はどこにもいなかった。
 イグルスが部屋を見回すと、クッションに埋もれるように寛いでいる白猫が一匹。

「え?」
「あの白猫ですよ、エザリア・サリバー男爵令嬢は」

心なしかうれしそうにジョルが囁いた。

「え?」

 イグルスは理解に時間がかかっているようだ。

「いや、これは猫だろう?」
「だから猫にされたんですって」
「はあ?いやこれは猫だ!」
「だからこれが呪われて猫になったエザリア・サリバーなんですってば!」

 ジョルがなにかを堪えながら、きっぱりと断言した。
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