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呪われたエザリア

水色の瞳

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 顎からたらりと血を垂らしたスミルは、両手をあげてエザリアに降参してみせた。
 満足したような白猫はこくりと頷いたあと「ニャッ」と鳴いてみせる。


「ええと、いくつか質問してみても?」
「にゃっ」

 ジョルの問いに答えたのは白猫だ。

(よろしいわよ)





「貴女がエザリア・サリバーだと証明するための質問です。ま、まあ、すでに間違いないとは思ってますがね。
では貴女の生年月日と両親の名からお願いします」



 白猫から一問の答えを得るごとに、ジョルは信じがたいが信じるしかないと思い知らされている。
 最後に、以前ナレスが話していた思い出を聞いてみることにした。

「ナレスは小さな貴女と池に行ったことがあると言ってましたが、覚えていますか?」
「もちろん なれす いけおちてたすけた」

 そう。
 普通こういうときはお嬢様が池に落ちたのを使用人が助けたというのが多いが、ナレスは自分のしくじりで足を滑らせて落ちた。
 エザリアが気がついて皆を呼び、助けてやったのだ。
 今でこそ副商会長に納まり、キレ者と言われているが、昔はうっかりの失敗が多かった。

「ハアア。やっぱり本当にエザリア・サリバー嬢なんですね。さっきから私は信じがたいが、信じるしかない、信じられなくても信じるしかないとずっと揺れていたんですよ」

『わかる わたしも』

「ですよね、ご自身が誰より驚いたでしょう!しかしよく立ち直り、生きる術を見つけ出したと感銘を受けました。
最初、私は神官を連れて来ようと思っていましたが、それは呪いを解くときにしましょう」

 スミルが「騎士団はそれでいいのか?」と口を挟む。

「ああ。ここまで強力な呪いを発動できる者は聞いたことがない。邪悪で危険極まりない存在だと思う。
相手は令嬢を猫に変えたことで安心しているだろうが、こうして意思疎通ができることがどこかからでも漏れたら、令嬢の安全が守れなくなるかもしれない。
神官だから必ず口が堅いとは限らないからな。騎士団には報告をしなければならないが、団長に直接極秘として報告する」

『きしだん しんようできるの』
「ああ、団長は信用できる」

 ちろりとエザリアの水色の瞳がジョルを見る。
ジョルはナレスに用があり、商会に行った時にエザリアを見かけたことがあった。

 ─印象的な水色の目をしていた─

 髪色もまったく反映しないのに、瞳だけは本人の目なのかといまさら気づく。


 ─しかしこれほどの呪いを解くことができる神官が都にいただろうか?


 仕事柄神殿にいくことも多いが、そんな力のある神官となると、大神官かそれに連なる数人くらいしかいないのではないか。
 しかし彼らは都の神殿ではなく、神が降臨した聖地と言われる辺鄙な町にいる。
 王家が国の宗教と認めて王都に招聘しようとしたが、頑なに聖地にしがみついて離れない。
 何かあるたびにいちいち馬車で片道2週間はかかる僻地から出てくるので、大神官の力を借りねばならない重大事が起きたら間に合わないのではないかと心配されていた。


 エザリアの呪いを発端に、のちに王家と神殿との確執が深くなるとは、このときは誰も考えもしなかった。
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