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呪われたエザリア

呪い

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「おはようございまあす、起きてますかぁ」

 メイドがエザリアを起こしに部屋に入ると、暖炉に火を入れなかった部屋は耳が切れそうな冷たい空気に満ちていた。

「もう、あのケチ親子ったら薪くらいくれてやればいいのに!部屋に入るあたしの身にもなってもらいたいよ。ん?」

 メイドはベッドにエザリアではなく、一匹の白猫が眠り込んでいることに気がつく。

「コラァ!おまえどこから入り込んだぁぁぁぁッ!」

 箒を振り上げるとしゅっと音がして、猫が目を覚まし、驚いたように目を見張っている。

「まったく、エザリア様どこに行ったんだ?ちゃんと閉めていかないから猫なんかが入るんだよ。ほら、おまえは出ていけ」

 窓を開け放ったメイドがベッドを箒で叩くと、猫は怯えて飛び退いた。

「ほらっ、早く行け」

 箒でバンバンと床や壁を叩くと、それに追われて猫は窓辺に飛び乗った。

「外に行けーっ!」

 大きく箒を振りかぶると、猫は窓から外にジャンプして逃げていった。
あとにはエザリアが眠る前に着込んでいた服が残されているが、ちらりと目をやったメイドは脱ぎ散らかされたようなそれを畳むこともせず、床だけささっと掃き終える。

「全く油断も隙もありゃしないよ!」

 エザリアは花摘みに行っているくらいに考え、カチャリと扉を閉めて出ていった。





(はあはあ。何?何が起きたの)

 エザリアはメイドに部屋を叩き出されたらしいと気づいたが、その理由がよくわからなかった。

(なんだかおかしいわ?)

 異常に目線が低いのだ。それにさっき窓から飛び降りた気がする。

(窓から?私が?嘘でしょ?何?う・・うう?そお!)

 窓ガラスに写った自分のはずの姿は。

(うそ、なんで?)

 エザリアの姿があるべきところに、毛並みの長い白猫が映っているではないか!

 一体何が起きたのか?パニックに陥る。
元の姿に戻れるのかも気になるが、自分にこんな異変が起きるような何かを仕組むとしたら、あの母娘のどちらかしかいない!
気を取り直したエザリアは二人の部屋の下に行ってみることにした。



「かあさん、ねえエザリアがいなくなったそうよ!代わりに猫がいたから追い出したってメイドが」
「ふふ。そうかい、本当に成功したんだね!呪いで猫にすると聞いたときはまさかと思ったけど!
せいせいするねえ、厄介者が消えて」
「でもとうさんが帰ったらどうするの?」

 にやっと口を歪ませながら母親が笑う。

「盗みやロズリン、使用人への虐めが酷くて叱ったら、へそを曲げて出ていってしまったみたいなのですぅ」

 そこで今度はわざとらしい泣き真似をした。

「どうだい?それっぽく聴こえるだろう?」
「ふふっ、それならとうさんも騙されそう!あの人ちょろいもんね」


 窓の下にエザリアが潜んでいるとは知らず、やれこれでこの家の財産は自分たちのものだとか、不穏なことを憚りなく話し始めた父の後妻シュマーと連れ子のロズリン。

「ところでどんな猫になったんだろうね」
「白猫だったらしいわよ」
「そうか。ふふ。あれは自分では解呪できないからね、ずーっと猫のままで死ぬこった」

 それを聞いたエザリアはゾッとした。

「へえ、じゃあ元には戻れなくなったの?」
「ん、いや、確かかけた本人が解くか、神殿でなら解呪できるらしい。
しかしだ、誰が神殿に猫を連れていき、呪われて猫になった娘だから解呪してくれって頼むんだい?金を払ってさ」
「あはは。確かにね。ただの猫がエザリアだと気づく人なんかいるわけないか」
「そうさ。だからあの娘は死ぬまで猫でいるしかないんだよ。いいね、旦那様が戻ってきても絶対にボロを出すんじゃないよ!」

 一層声が小さくなり、耳を欹ててもひそひそとしか聞こえなくなってしまう。暫く様子をうかがっていると。

「・・・に感謝しないと!・・・・・ふっ、はははっ」

 笑い声とドアが開く音。
バタンと音と振動が響いて気配が消えると、白猫はフーっと息を吐いた。


■□■

作者、訳あって庭にやってくる子猫たちを保護することになり、ただいま医療費ヤベー!状況でございまして(;^ω^)
少しでも足しになってほしいという邪な考えで書き上げた作品です(*_*;

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