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194 匂いのする夢
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『なにこれ、なんか酸っぱい匂いがする!』
その朝、目が覚めて、あれが夢だと気づいて改めて驚いた。
─匂いの記憶があるのだ!
黄色い液体をもう一度みたい、どう作るのかどうしてもみたいと思い続けて数日。
夢の中で液体に顔を近づけると、鼻をつくツンと酸っぱいにおいに思わず顎を上げた!
「鼻がツンツンするにおい?本当ににおいがわかったのかな」
他に覚えていることがないか、思い出そうとするが。
「・・・・・」
においしか頭に浮かばない。
学院に行く前に離れへ寄り、ボンディに報告する。
「夢なのに匂いがわかる?それはすごい!」
ボンディは素直に賞賛し、すぐ頭を切り替えた。
「酸っぱい液体ですか・・・。うーん?ちょっと記憶がないですね。後で他の料理人たちにも聞いておきます。そうだ!馬車でこれをどうぞ」
卵の白身の泡立て焼き、所謂メレンゲクッキーを小さなかごに入れてレイドに渡してやると、くんと鼻を鳴らしたドレイファスがにっこりと笑った。
「ボンディありがとう。行ってくる」
学院に行く途中に食べようとしたが、トレモルに取り上げられてしまう。
「なんで!」
「ダメだよ、歯が汚れるからランチのときにみんなで食べよう」
みんなに分けるのは構わないのだが、食いしん坊にはランチまで待つのがつらい。
「一口だけ」
「だーめ」
トレモルはドレイファスを守ることに注力している。命だけではない、ある時は兄のようにドレイファスを虫歯からも守っているのだ。
「ちぇっ」
「公子様がちぇっなんて言わないの」
二人のやりとりは御者とともに御者台にいるワーキュロイにも聞こえており、その可愛らしさにくすくすと笑った。
学院に着くと既にシエルドとアラミスが待っており、手を振りながら合流すると、辺りを見回してドレイファスが話を切り出した。
「酸っぱい匂い?」
「うん、それしか覚えていないんだけど、顔を寄せたらツンっとしたと思う」
「ボンディさんには?」
「朝話してきたけど、わからなかった。みんなに聞いておいてくれるって」
「そっか。あとでうちの図書室でも調べてみるよ」
カルルドがやって来た。
そばにはモルトベーネがいる。
「本当に仲いいよね、あの二人」
ドレイファスの言葉に呆れた目を向けたシエルドが言う。
「そう言うドルだってルートリア嬢とすっごく仲いいだろう」
意外と自分自身は気づかないものである。
ぱっと赤くなったドレイファスを肘で突付いてからかったシエルドは、カルルドたちに手を振り出迎えた。
その日の午後もシエルドはドレイファスと一緒に公爵家へと帰って行った。ボンディに会うため、そしてローザリオに会うため。
既に伝言鳥を飛ばすことが出来るシエルドが、ローザリオに光の鳥を飛ばすと公爵家のシエルドの実験室にいるとの事。
「師匠に会うの、五日ぶりだ」
「珍しいね」
ほぼ毎日一緒にいる仲良し師弟にしては、かなり珍しい。
「王都に出かけていたんだ」
「ふーん」
「土産があるらしい」
「食べ物だといいなあ」
「ドルにはないぞ、素材だし」
「なーんだ」
ちぇっと言いかけてトレモルの視線を感じ、慌てて口を噤む。
その様子にトレモルはニッと笑った。
帰宅し、稽古に行くトレモルと別れると、シエルドを連れて離れに向かう。
まずはローザリオを探すと、錬金釜でフラワーオイルを作っていた。
「師匠!」
「ああ、おかえり」
抱きつかんばかりに走り寄るシエルドに、ぷんぷんと振られたふさふさの尻尾が見えた気がしたドレイファスは、思わず目を擦った。
「ドレイファス様も、お久しぶりですね」
「はい、ローザリオ先生」
「酸っぱい匂いの液体はどうなりました?」
「まだわかりません、これからボンディのところに聞きに行きます」
「では私もともに」
厨房に向かう廊下には、甘く香ばしい香りが充満している。
「これはウィーを焼いているのではないか?」
ローザリオがうれしそうに呟く。
ボンディのことだから、皆が帰る時間に合わせておやつを作っているに違いない。
「ドレイファス様、おかえりなさい!おや、ローザリオ様とシエルド様もご一緒でしたか」
足りないと踏んだボンディが、鉄鍋に新たなウィーを入れて焼き始めた。
「ねえボンディ、聞いておいてくれた?」
「はい、本館でも聞いてみたのですが、やはりわかる者がおりませんでした」
「そうかぁ・・・」
「また探してみますから、気を落とさずに。まずはおやつをどうぞ」
焼き立てのウィーに生クレーメをこってりと乗せ、はちみつをたっぷりと回しかける。
ウィーにもサトー粉が入れられて、生地も甘いのだがさらなる甘さ!トレモルがいたらとドレイファスは今朝方のことを思い出していた。
ローザリオが精製に成功したサトーカブは、最近収穫も安定してきて、公爵家やその傘下の貴族家ではサトー粉という甘い粉が新しい甘味として使われ始めている。
そうはいっても、やはり主流ははちみつだ。
キラキラと淡い琥珀の液体をかけると、それだけで美味しさが倍増するのが不思議である。
そして貴族が好む特別なブランドはちみつを独占しているのが、カルルドがトロンビーたちと作り出すスートレラはちみつというわけだ。
「うん、うまいっ!」
誰よりも大きな声で、大満足を表明したのはおとなこどもを代表するローザリオである。
その満たされた笑顔に、レイドまでが吹き出した。
その夜からドレイファスは何度も同じ夢を見続けた。
どこかの厨房に女性がひとり。
赤いアプルに良く似た丸い実を二つ取り出すと、それを布で拭き取り、ざくざくと切っていく。
瓶に切ったアプルを詰め込み、水?をひたひたに入れた。
蓋をゆるく閉めた瓶を暗がりに置くと、女は手を洗ってどこかへ行ってしまうのだ。
いままでの夢と少し違うのは、夢の世界の時間が進むのが早いこと。
女が時々厨房に現れては、いくつかの料理を作るのも見られた!
割った卵を溶いて笊で溶いた卵を漉したあと、刻んだ野菜とミンチの肉を薄鉄鍋で炒めてそれを皿に乗せる。
薄鉄鍋を洗って拭き取り、透明な液を鍋に入れ火にかけると、ぐるりと鍋を回してのばしていく。
─何あの透明なやつ─
油である。
ドレイファスの世界では主に肉の油を使う。最近はドレイファスががんばって生み出したバターを使うこともあるのだが、植物性の油は今のところ存在しない。
鍋が温まると、溶いた卵を入れて。
まだ表面が半生くらいで、さっき炒めた肉と野菜を卵の半分に乗せて巻き込んでいく。
鍋から皿に移されたそれは、木の葉のような形をしてつやつやととっても美味しそう!
女性はそれに真っ赤なソースをとろりとかけている。
─あの赤いソースはなんだ?─
トマトケチャップであるが、トモテラは生食するためドレイファスの世界にはまだないものだ。
女性がテーブルについて、卵焼きにナイフを入れると中からとろりと肉や野菜が顔を出し、赤いソースも一緒に口に運んだ。
表情の変化で美味さがわかるようだ。
─あれ、食べてみたい─
オムレツ、そして新たな調味料ケチャップを知ったのだった。
そのあとも暗くなり、明るくなるたびに料理するところを覗いていた。
見たことがない食べ物ばかりが続くが、どれもとても美味そうで。
自分も女性の隣りに座りたいと思ったほどだ。
三回目の朝、彼女はアプルが入った瓶を蓋を閉め直して上下に振った。
─何故振るの?─
そしてまた蓋をほんの少し緩めると、先程の棚の暗がりに置いた。
初めの頃は記憶に残せるほどのスピードだったが、途中からとても覚えきれないほど時間の進み方が速くなっていく。暗くなり明るくなる。早回しで女性が料理するのを見たかと思うとあっという間に日が暮れていく。
そうして、定期的にアプルの瓶を振るのを見ることになった。
そういえば瓶にアプルを詰めてニ回目に振ったとき、泡の水のように小さなぷくぷくした泡が中に生まれては消えていた。
そして最初は透明だった瓶の水は、いつしか少し濁り始めていた。
何度瓶を降る姿を見たかわからなくなってきた頃、泡が出る量が増える。
あるときから瓶を振る間隔がかなり長くなったことに気づいた。
二回めの朝だったのが、七~八回めの朝くらいの割合で瓶を揺すっているような気がするが、もう覚えきれない。
さらに日が経つと泡の量はすごく増えた気がした。
ある時からぱったりと、女性は瓶に触れなくなる。もうどれくらい朝が来たかわからなくなった頃、瓶の水の色が変わってきた。
久しぶりに女性が瓶を手に取ると蓋を開け、匂いを嗅いでいる。液の上に張った膜を匙で掬って取り除くと、また蓋を閉めて棚に戻した。
また早送りの厨房を見ている。
目が追いついていかないのだが、一つだけ。
女性が作った物の中でこれだけは作り方を知りたいと思う物を見つけた。
トモテラのような実を、ブラックガーリーと玉ねぎととても細かく刻んで一緒に煮込み、黄色い液体やいくつかの粉を混ぜて、赤いソースを作るケチャップだ。
動きの早いそれを見つめていると、目がぐるぐるしてくるがなんとか頭に叩き込んだ。
トモテラが大好物のドレイファスにとって、このソースは本当に心から知りたいものの一つだったから!
そうして、ずいぶんと夜と朝が過ぎた頃、女性は笊と布巾で液体を濾しながら、中の実を取り出した。
アプルの実は清潔な布でくるんで絞ってから、ザルと布巾で濾して。
濾した汁は瓶へ戻し、このあとは意外なほど何もせず。
窓から見える景色が冬から春に、そして夏になる頃、瓶から出した液体を鍋でひと煮立ちし、また洗った瓶に戻してラベルを貼った。
どうやら出来上がりらしい!
─長かったぁ!─
夢だというのにため息が漏れ、夢の景色は遠のいていった。
その朝、目が覚めて、あれが夢だと気づいて改めて驚いた。
─匂いの記憶があるのだ!
黄色い液体をもう一度みたい、どう作るのかどうしてもみたいと思い続けて数日。
夢の中で液体に顔を近づけると、鼻をつくツンと酸っぱいにおいに思わず顎を上げた!
「鼻がツンツンするにおい?本当ににおいがわかったのかな」
他に覚えていることがないか、思い出そうとするが。
「・・・・・」
においしか頭に浮かばない。
学院に行く前に離れへ寄り、ボンディに報告する。
「夢なのに匂いがわかる?それはすごい!」
ボンディは素直に賞賛し、すぐ頭を切り替えた。
「酸っぱい液体ですか・・・。うーん?ちょっと記憶がないですね。後で他の料理人たちにも聞いておきます。そうだ!馬車でこれをどうぞ」
卵の白身の泡立て焼き、所謂メレンゲクッキーを小さなかごに入れてレイドに渡してやると、くんと鼻を鳴らしたドレイファスがにっこりと笑った。
「ボンディありがとう。行ってくる」
学院に行く途中に食べようとしたが、トレモルに取り上げられてしまう。
「なんで!」
「ダメだよ、歯が汚れるからランチのときにみんなで食べよう」
みんなに分けるのは構わないのだが、食いしん坊にはランチまで待つのがつらい。
「一口だけ」
「だーめ」
トレモルはドレイファスを守ることに注力している。命だけではない、ある時は兄のようにドレイファスを虫歯からも守っているのだ。
「ちぇっ」
「公子様がちぇっなんて言わないの」
二人のやりとりは御者とともに御者台にいるワーキュロイにも聞こえており、その可愛らしさにくすくすと笑った。
学院に着くと既にシエルドとアラミスが待っており、手を振りながら合流すると、辺りを見回してドレイファスが話を切り出した。
「酸っぱい匂い?」
「うん、それしか覚えていないんだけど、顔を寄せたらツンっとしたと思う」
「ボンディさんには?」
「朝話してきたけど、わからなかった。みんなに聞いておいてくれるって」
「そっか。あとでうちの図書室でも調べてみるよ」
カルルドがやって来た。
そばにはモルトベーネがいる。
「本当に仲いいよね、あの二人」
ドレイファスの言葉に呆れた目を向けたシエルドが言う。
「そう言うドルだってルートリア嬢とすっごく仲いいだろう」
意外と自分自身は気づかないものである。
ぱっと赤くなったドレイファスを肘で突付いてからかったシエルドは、カルルドたちに手を振り出迎えた。
その日の午後もシエルドはドレイファスと一緒に公爵家へと帰って行った。ボンディに会うため、そしてローザリオに会うため。
既に伝言鳥を飛ばすことが出来るシエルドが、ローザリオに光の鳥を飛ばすと公爵家のシエルドの実験室にいるとの事。
「師匠に会うの、五日ぶりだ」
「珍しいね」
ほぼ毎日一緒にいる仲良し師弟にしては、かなり珍しい。
「王都に出かけていたんだ」
「ふーん」
「土産があるらしい」
「食べ物だといいなあ」
「ドルにはないぞ、素材だし」
「なーんだ」
ちぇっと言いかけてトレモルの視線を感じ、慌てて口を噤む。
その様子にトレモルはニッと笑った。
帰宅し、稽古に行くトレモルと別れると、シエルドを連れて離れに向かう。
まずはローザリオを探すと、錬金釜でフラワーオイルを作っていた。
「師匠!」
「ああ、おかえり」
抱きつかんばかりに走り寄るシエルドに、ぷんぷんと振られたふさふさの尻尾が見えた気がしたドレイファスは、思わず目を擦った。
「ドレイファス様も、お久しぶりですね」
「はい、ローザリオ先生」
「酸っぱい匂いの液体はどうなりました?」
「まだわかりません、これからボンディのところに聞きに行きます」
「では私もともに」
厨房に向かう廊下には、甘く香ばしい香りが充満している。
「これはウィーを焼いているのではないか?」
ローザリオがうれしそうに呟く。
ボンディのことだから、皆が帰る時間に合わせておやつを作っているに違いない。
「ドレイファス様、おかえりなさい!おや、ローザリオ様とシエルド様もご一緒でしたか」
足りないと踏んだボンディが、鉄鍋に新たなウィーを入れて焼き始めた。
「ねえボンディ、聞いておいてくれた?」
「はい、本館でも聞いてみたのですが、やはりわかる者がおりませんでした」
「そうかぁ・・・」
「また探してみますから、気を落とさずに。まずはおやつをどうぞ」
焼き立てのウィーに生クレーメをこってりと乗せ、はちみつをたっぷりと回しかける。
ウィーにもサトー粉が入れられて、生地も甘いのだがさらなる甘さ!トレモルがいたらとドレイファスは今朝方のことを思い出していた。
ローザリオが精製に成功したサトーカブは、最近収穫も安定してきて、公爵家やその傘下の貴族家ではサトー粉という甘い粉が新しい甘味として使われ始めている。
そうはいっても、やはり主流ははちみつだ。
キラキラと淡い琥珀の液体をかけると、それだけで美味しさが倍増するのが不思議である。
そして貴族が好む特別なブランドはちみつを独占しているのが、カルルドがトロンビーたちと作り出すスートレラはちみつというわけだ。
「うん、うまいっ!」
誰よりも大きな声で、大満足を表明したのはおとなこどもを代表するローザリオである。
その満たされた笑顔に、レイドまでが吹き出した。
その夜からドレイファスは何度も同じ夢を見続けた。
どこかの厨房に女性がひとり。
赤いアプルに良く似た丸い実を二つ取り出すと、それを布で拭き取り、ざくざくと切っていく。
瓶に切ったアプルを詰め込み、水?をひたひたに入れた。
蓋をゆるく閉めた瓶を暗がりに置くと、女は手を洗ってどこかへ行ってしまうのだ。
いままでの夢と少し違うのは、夢の世界の時間が進むのが早いこと。
女が時々厨房に現れては、いくつかの料理を作るのも見られた!
割った卵を溶いて笊で溶いた卵を漉したあと、刻んだ野菜とミンチの肉を薄鉄鍋で炒めてそれを皿に乗せる。
薄鉄鍋を洗って拭き取り、透明な液を鍋に入れ火にかけると、ぐるりと鍋を回してのばしていく。
─何あの透明なやつ─
油である。
ドレイファスの世界では主に肉の油を使う。最近はドレイファスががんばって生み出したバターを使うこともあるのだが、植物性の油は今のところ存在しない。
鍋が温まると、溶いた卵を入れて。
まだ表面が半生くらいで、さっき炒めた肉と野菜を卵の半分に乗せて巻き込んでいく。
鍋から皿に移されたそれは、木の葉のような形をしてつやつやととっても美味しそう!
女性はそれに真っ赤なソースをとろりとかけている。
─あの赤いソースはなんだ?─
トマトケチャップであるが、トモテラは生食するためドレイファスの世界にはまだないものだ。
女性がテーブルについて、卵焼きにナイフを入れると中からとろりと肉や野菜が顔を出し、赤いソースも一緒に口に運んだ。
表情の変化で美味さがわかるようだ。
─あれ、食べてみたい─
オムレツ、そして新たな調味料ケチャップを知ったのだった。
そのあとも暗くなり、明るくなるたびに料理するところを覗いていた。
見たことがない食べ物ばかりが続くが、どれもとても美味そうで。
自分も女性の隣りに座りたいと思ったほどだ。
三回目の朝、彼女はアプルが入った瓶を蓋を閉め直して上下に振った。
─何故振るの?─
そしてまた蓋をほんの少し緩めると、先程の棚の暗がりに置いた。
初めの頃は記憶に残せるほどのスピードだったが、途中からとても覚えきれないほど時間の進み方が速くなっていく。暗くなり明るくなる。早回しで女性が料理するのを見たかと思うとあっという間に日が暮れていく。
そうして、定期的にアプルの瓶を振るのを見ることになった。
そういえば瓶にアプルを詰めてニ回目に振ったとき、泡の水のように小さなぷくぷくした泡が中に生まれては消えていた。
そして最初は透明だった瓶の水は、いつしか少し濁り始めていた。
何度瓶を降る姿を見たかわからなくなってきた頃、泡が出る量が増える。
あるときから瓶を振る間隔がかなり長くなったことに気づいた。
二回めの朝だったのが、七~八回めの朝くらいの割合で瓶を揺すっているような気がするが、もう覚えきれない。
さらに日が経つと泡の量はすごく増えた気がした。
ある時からぱったりと、女性は瓶に触れなくなる。もうどれくらい朝が来たかわからなくなった頃、瓶の水の色が変わってきた。
久しぶりに女性が瓶を手に取ると蓋を開け、匂いを嗅いでいる。液の上に張った膜を匙で掬って取り除くと、また蓋を閉めて棚に戻した。
また早送りの厨房を見ている。
目が追いついていかないのだが、一つだけ。
女性が作った物の中でこれだけは作り方を知りたいと思う物を見つけた。
トモテラのような実を、ブラックガーリーと玉ねぎととても細かく刻んで一緒に煮込み、黄色い液体やいくつかの粉を混ぜて、赤いソースを作るケチャップだ。
動きの早いそれを見つめていると、目がぐるぐるしてくるがなんとか頭に叩き込んだ。
トモテラが大好物のドレイファスにとって、このソースは本当に心から知りたいものの一つだったから!
そうして、ずいぶんと夜と朝が過ぎた頃、女性は笊と布巾で液体を濾しながら、中の実を取り出した。
アプルの実は清潔な布でくるんで絞ってから、ザルと布巾で濾して。
濾した汁は瓶へ戻し、このあとは意外なほど何もせず。
窓から見える景色が冬から春に、そして夏になる頃、瓶から出した液体を鍋でひと煮立ちし、また洗った瓶に戻してラベルを貼った。
どうやら出来上がりらしい!
─長かったぁ!─
夢だというのにため息が漏れ、夢の景色は遠のいていった。
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