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134 ロンドリン伯爵家の災難
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いつもお読みくださり、ありがとうございます。
各地で自然災害が起きている中、このエピソードを更新することには迷いがあったのですが。
雪崩の記載がありますので、それはちょっとと思われましたら134話、135話を読み飛ばされることをお勧めします。2話飛ばせば、それほど違和感なく繋げられると思います。
感染症と自然災害に心身とも疲弊しますが、どうか皆様ご自愛ください。
∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞
学院の冬休みは短い。
自宅での課題も少なく、ただ酷く寒い新年をのんびり過ごすだけのものだ。
ドレイファスと仲間たちは折につけ集まっているが、新年だけは各家族ごとに過ごしている。
トレモルは年末から実家に戻り、公爵一家は冬休みが終わるまでのんびりした日が続くはずだった。
「ドレイファス!」
「おとうさま?」
「話がある。ロンドリン伯爵家の裏山で雪崩があり、屋敷や領地に被害が出たそうだ。すぐ救援を出すが、アラミスたちを暫く預かることにした」
「え!アラミス来るんですか?」
「そうだ。ルマリ夫人とアラミスが避難してくる。兄のイルドアはダルスラと現地に残って復旧作業をするらしいが。服や学用品が足りなくなるかもしれないので、分けてやってくれるか?」
「もちろんです」
ロンドリン家では夏に冬にと自然災害が多い。そのための備蓄もしているのだが、不測の事態は避けられないようだ。
ドリアンはすぐ公爵家の治療師と土木士、土木作業の人足、穴掘り棒や防寒着、毛布、食料品などを詰め込んだ数台の馬車を送り出し、そのうちの一台で夫人とアラミスを乗せて戻るよう手配した。
ロンドリン伯爵家は屋敷の背後に景観美しいメリバ山があり、門扉正面に立つとまるで山を背負う壮大な屋敷のように見えるのが特徴だ。
先々代当主はそれが気に入りここに建てたのだが、雪の多い年はメリバ山の雪崩で屋敷に損害が出ることが何度もあった。
そのために冬季は屋敷裏手は人が立ち入らないようにしており、今回も死亡者は出なかったが、経験のない大雪崩で屋敷も想定以上の損壊だという。
アラミスやルマリ夫人の部屋もしばらく使えそうにないらしい。
「どうしたものか」
ダルスラは三代に渡り一族が愛してきた屋敷の、度々の損害に頭を痛めていた。
「あなた!イルドアが」
ルマリが顔色を変えて小走りで近寄る。
「ルマリ、ここは危ないぞ、奥にいなさい」
「いえ、イルドアが怪我を!」
「何っ?それで具合は?」
「倒木に当たって、足が折れたみたいで」
駆けつけると、治療師でなくともわかるほど明らかに変な方向に足が曲がっていた。イルドアの顔色は悪く、額には脂汗が浮かんで低い呻き声が間断なく聞こえる。
「イルドア、大丈夫か?」
「ち、父上、申し訳ありません自分の不注意で」
「馬鹿、謝ることなどないぞ。治療師を呼ぶよう手配するから待っていろよ」
しかし、治療師たちは既に現場に散らばっており、すぐには戻れないと伝言鳥が空しく言う。
「そうだ!ポーションはっ?」
「倉庫が潰されましたっ」
「ちっ。どうしたらいいんだ!」
ルマリとアラミスはイルドアの側について、汗を拭き、手を握って励ましている。
その間も続々と被害の報告が届き、対応をしなければならないのだ。家族のそばにいたくても領主としてやらねばならないことがある。
後ろ髪を引かれながらその場を離れようと踏み出したとき、見覚えのある彫刻を施した大きな馬車がエントランスに滑り込んできた。
「火急の事ゆえ先触れなしで失礼致します。フォンブランデイル公爵家より参りました、土木士、ジーライ・メゲと申します。ダルスラ・ロンドリン伯爵様にお取次願います!」
「おお!私だ!ここだ!来てくれてありがとう!」
ダルスラは手をぶんぶんと振り回して、呼び寄せ、メゲたち土木士と同道した公爵家の治療師プリスト・アコピも挨拶を交わす。
「治療師っ!なんと本当に?ありがたいっ!怪我人がいるんだ、すぐ見てやってくれ」
アコピの腕をつかんだダルスラはひっぱるように走りだした。
イルドアは今、家の中から運び出されたソファの上に寝かせられて、痛みのせいか意識が朦朧としている。
「これは足が!ポーションは?」
「それが雪崩が倉庫を直撃して」
「わかりました!すぐ馬車から取ってきますから」
アコピが立ち上がろうとしたが、アラミスが「ぼくが!」と走り出した。
それを見送り、アコピはすぐヒーリングを開始する。骨の修復はすぐには無理だが、ポーションを飲ませ、患部にかけながらヒーリングエネルギーを流せば効果が高くなる。少しづつ骨を動かしてもとの位置に戻してやり、固定するのだ。
ポーションの小瓶を数本手にアラミスが駆け戻ると、蓋を弾き飛ばしてイルドアの口に流しこんだ。
「飲んでくれ」
痛みのせいかはっきり反応しないが、こくんと喉が動いたのでさらに瓶を傾けて。暫くすると額の汗が引き始めた。
落ち着いた様子を見せたイルドアには、ルマリとアラミス、アコピが付き添い、使用人たちは公爵家の支援物資を下ろしていく。
「あの、馬車が空いたら奥様とご令息はお乗りください。この状態で体が冷えるとよろしくないので」
動かすとまたイルドアの額には汗が浮かぶが、なんとか馬車の座席に横たえ、魔石で車内を暖めてやる。
「こちらで奥様とアラミス様を公爵家にお連れすると聞いておりましたが、イルドア様もご一緒にお連れください」
アコピは強くルマリに告げた。
「ええ、助かりますわ。こちらからお願いしようと思っておりました」
「イルドア様は私がついておりますので、お持ちになる荷物を纏めていらしてください。使用人は何人連れていきますか?」
公爵家の馬車の中でも大型の物で来たが、イルドアを寝かせたまま連れて行くとなると、ここにはあまり乗せられない。
「使用人は四人、我が家の馬車を出そうかと」
「いや、災害時はここに足をなるべく残したほうがいいでしょう。公爵家の馬車は八人乗りですから、御者台に二人、車内に二人で全員乗れると思います」
「治療師様は?」
「私はここに残りますが、公爵領に入ったらすぐ別の治療師が合流するよう手配しますから」
そうして、ルマリとアラミス、イルドアは公爵家へと運ばれて行った。
ダルスラは見送ることも叶わず、ただイルドアの落ち着いた様子を聞いて安堵し、また現場へと身を投じた。
マーリアルとドレイファスは心配から、エントランスを覗いてはため息をつく。
さっきから行ったり来たりをくり返しているのだが、とうとう馬の蹄音が遠くから聞こえてきた。
「あれは!来たかしら?」
二人が外に飛び出すと、まさに門扉が開かれるところで。見慣れた公爵家の馬車が戻ってくる。
御者が扉を開けると、アラミスが飛び降りて叫んだ。
「兄上が怪我を!」
アコピが手配した治療師が途中から同乗し、車内で治療を続けていたがイルドアは顔色がよくない。
「急いで部屋へ」
庭にフラワーオイルを作りに来ていて事態を聞きつけたローザリオが、ポーションを差し入れてくれたので、イルドアに飲ませて治療を続けさせ、ルマリとアラミスには食事を摂らせることにして。
揺れることもなくなり、暖められた部屋で寝心地の良い寝台に包まれたイルドアは静かな寝息を立て始めた。
食事を半分も食べなかったルマリは、そのイルドアを見て涙をこぼしながらマーリアルに頭を下げる。
「ありがとうございます、本当に感謝しております」
ほっとしたのはマーリアルも同じだ。アラミスほどよく知るわけではないが、寝顔がよく似ている。歩けなくなるようなことがあれば、その人生は大変なものになっただろう。
「早く手当てができて、本当によかったわ。何も心配せずにゆっくりおやすみになってね。アラミスも。皆一緒がいいかしら?それともアラミスはドレイファスと眠る?」
「ここにいたいです」
強い意志を込めた瞳で答えたアラミスの頭を撫でてやる。
「では予備の寝台をここに運ばせるわ。アラミスも湯浴みをしてからゆっくりやすみなさい」
部屋の外から覗いていたドレイファスは、マーリアルが出てくると母に抱きついた。
イルドアの足は折れただけでなく、あちこち切れて出血しており、心配で怖くてたまらなくなったのだ。
「イルドアはもう大丈夫よ。落ち着いているからあなたも安心しておやすみなさい。アラミスとは明日話すといいわ」
そう言ったのだが、ドレイファスも不安そうな様子がおさまらない。
部屋へ送っていったマーリアルが、ドリアンにその様子を告げるとドレイファスの部屋へ向かい、眠れずに布団に潜っていたドレイファスを抱き上げて自分の部屋へと連れて行った。
「今夜はおとうさまと一緒に眠ろうな。そうすれば怖くないだろう?」
ドリアンはひとり奮闘しているダルスラのため、ドレイファスはアラミスとイルドアのために祈りを捧げ、身を寄せながら眠りについた。
翌朝。
食堂にアラミスやルマリの姿はない。
イルドアが起きたので、部屋で三人で食べることにしたのだ。
「おはよう」
ドレイファスが覗くと、頭をボサボサにしたアラミスが手を振った。
「おはようドル、昨日はありがとう」
「イルドア兄様は?」
手招きされて部屋へ入ると、イルドアは寝台の背もたれに上半身を起こして寄りかかっているが、ドレイファスを見て力なく微笑んだ。
「おはようございますドレイファス様」
「イルドア兄様、大丈夫?」
「ありがとうございます。痛み止めが効いて、今のところは落ち着いています」
「よかった!はー、よかった本当に」
大きく息を吐いて、にっこりすると。
「ぼくもここで食べ・・・」
そう言いかけたが、マーリアルが目を吊り上げたのが見え
「ぼ、ぼくは食堂に行って食べてくるよ。あとでまた来るね」
母の目に触れないように顔をそらして食堂へ逃げて行った。
「朝からお邪魔してごめんなさいね。少し御家族だけでゆっくりしたいでしょうから、ドレイファスには邪魔をしないよう言っておきますわ」
謝るマーリアルにルマリは言う。
「いえ、アラミスもここに閉じこもっていたら辛いと思うので誘ってやってほしいとお伝えください」
この日から屋敷の復旧まで、ルマリたちは約三ヶ月もの間公爵邸に逗留し続け、冬休みが終わるとアラミスはドレイファス、トレモルとともに公爵邸から通学することとなった。
各地で自然災害が起きている中、このエピソードを更新することには迷いがあったのですが。
雪崩の記載がありますので、それはちょっとと思われましたら134話、135話を読み飛ばされることをお勧めします。2話飛ばせば、それほど違和感なく繋げられると思います。
感染症と自然災害に心身とも疲弊しますが、どうか皆様ご自愛ください。
∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞
学院の冬休みは短い。
自宅での課題も少なく、ただ酷く寒い新年をのんびり過ごすだけのものだ。
ドレイファスと仲間たちは折につけ集まっているが、新年だけは各家族ごとに過ごしている。
トレモルは年末から実家に戻り、公爵一家は冬休みが終わるまでのんびりした日が続くはずだった。
「ドレイファス!」
「おとうさま?」
「話がある。ロンドリン伯爵家の裏山で雪崩があり、屋敷や領地に被害が出たそうだ。すぐ救援を出すが、アラミスたちを暫く預かることにした」
「え!アラミス来るんですか?」
「そうだ。ルマリ夫人とアラミスが避難してくる。兄のイルドアはダルスラと現地に残って復旧作業をするらしいが。服や学用品が足りなくなるかもしれないので、分けてやってくれるか?」
「もちろんです」
ロンドリン家では夏に冬にと自然災害が多い。そのための備蓄もしているのだが、不測の事態は避けられないようだ。
ドリアンはすぐ公爵家の治療師と土木士、土木作業の人足、穴掘り棒や防寒着、毛布、食料品などを詰め込んだ数台の馬車を送り出し、そのうちの一台で夫人とアラミスを乗せて戻るよう手配した。
ロンドリン伯爵家は屋敷の背後に景観美しいメリバ山があり、門扉正面に立つとまるで山を背負う壮大な屋敷のように見えるのが特徴だ。
先々代当主はそれが気に入りここに建てたのだが、雪の多い年はメリバ山の雪崩で屋敷に損害が出ることが何度もあった。
そのために冬季は屋敷裏手は人が立ち入らないようにしており、今回も死亡者は出なかったが、経験のない大雪崩で屋敷も想定以上の損壊だという。
アラミスやルマリ夫人の部屋もしばらく使えそうにないらしい。
「どうしたものか」
ダルスラは三代に渡り一族が愛してきた屋敷の、度々の損害に頭を痛めていた。
「あなた!イルドアが」
ルマリが顔色を変えて小走りで近寄る。
「ルマリ、ここは危ないぞ、奥にいなさい」
「いえ、イルドアが怪我を!」
「何っ?それで具合は?」
「倒木に当たって、足が折れたみたいで」
駆けつけると、治療師でなくともわかるほど明らかに変な方向に足が曲がっていた。イルドアの顔色は悪く、額には脂汗が浮かんで低い呻き声が間断なく聞こえる。
「イルドア、大丈夫か?」
「ち、父上、申し訳ありません自分の不注意で」
「馬鹿、謝ることなどないぞ。治療師を呼ぶよう手配するから待っていろよ」
しかし、治療師たちは既に現場に散らばっており、すぐには戻れないと伝言鳥が空しく言う。
「そうだ!ポーションはっ?」
「倉庫が潰されましたっ」
「ちっ。どうしたらいいんだ!」
ルマリとアラミスはイルドアの側について、汗を拭き、手を握って励ましている。
その間も続々と被害の報告が届き、対応をしなければならないのだ。家族のそばにいたくても領主としてやらねばならないことがある。
後ろ髪を引かれながらその場を離れようと踏み出したとき、見覚えのある彫刻を施した大きな馬車がエントランスに滑り込んできた。
「火急の事ゆえ先触れなしで失礼致します。フォンブランデイル公爵家より参りました、土木士、ジーライ・メゲと申します。ダルスラ・ロンドリン伯爵様にお取次願います!」
「おお!私だ!ここだ!来てくれてありがとう!」
ダルスラは手をぶんぶんと振り回して、呼び寄せ、メゲたち土木士と同道した公爵家の治療師プリスト・アコピも挨拶を交わす。
「治療師っ!なんと本当に?ありがたいっ!怪我人がいるんだ、すぐ見てやってくれ」
アコピの腕をつかんだダルスラはひっぱるように走りだした。
イルドアは今、家の中から運び出されたソファの上に寝かせられて、痛みのせいか意識が朦朧としている。
「これは足が!ポーションは?」
「それが雪崩が倉庫を直撃して」
「わかりました!すぐ馬車から取ってきますから」
アコピが立ち上がろうとしたが、アラミスが「ぼくが!」と走り出した。
それを見送り、アコピはすぐヒーリングを開始する。骨の修復はすぐには無理だが、ポーションを飲ませ、患部にかけながらヒーリングエネルギーを流せば効果が高くなる。少しづつ骨を動かしてもとの位置に戻してやり、固定するのだ。
ポーションの小瓶を数本手にアラミスが駆け戻ると、蓋を弾き飛ばしてイルドアの口に流しこんだ。
「飲んでくれ」
痛みのせいかはっきり反応しないが、こくんと喉が動いたのでさらに瓶を傾けて。暫くすると額の汗が引き始めた。
落ち着いた様子を見せたイルドアには、ルマリとアラミス、アコピが付き添い、使用人たちは公爵家の支援物資を下ろしていく。
「あの、馬車が空いたら奥様とご令息はお乗りください。この状態で体が冷えるとよろしくないので」
動かすとまたイルドアの額には汗が浮かぶが、なんとか馬車の座席に横たえ、魔石で車内を暖めてやる。
「こちらで奥様とアラミス様を公爵家にお連れすると聞いておりましたが、イルドア様もご一緒にお連れください」
アコピは強くルマリに告げた。
「ええ、助かりますわ。こちらからお願いしようと思っておりました」
「イルドア様は私がついておりますので、お持ちになる荷物を纏めていらしてください。使用人は何人連れていきますか?」
公爵家の馬車の中でも大型の物で来たが、イルドアを寝かせたまま連れて行くとなると、ここにはあまり乗せられない。
「使用人は四人、我が家の馬車を出そうかと」
「いや、災害時はここに足をなるべく残したほうがいいでしょう。公爵家の馬車は八人乗りですから、御者台に二人、車内に二人で全員乗れると思います」
「治療師様は?」
「私はここに残りますが、公爵領に入ったらすぐ別の治療師が合流するよう手配しますから」
そうして、ルマリとアラミス、イルドアは公爵家へと運ばれて行った。
ダルスラは見送ることも叶わず、ただイルドアの落ち着いた様子を聞いて安堵し、また現場へと身を投じた。
マーリアルとドレイファスは心配から、エントランスを覗いてはため息をつく。
さっきから行ったり来たりをくり返しているのだが、とうとう馬の蹄音が遠くから聞こえてきた。
「あれは!来たかしら?」
二人が外に飛び出すと、まさに門扉が開かれるところで。見慣れた公爵家の馬車が戻ってくる。
御者が扉を開けると、アラミスが飛び降りて叫んだ。
「兄上が怪我を!」
アコピが手配した治療師が途中から同乗し、車内で治療を続けていたがイルドアは顔色がよくない。
「急いで部屋へ」
庭にフラワーオイルを作りに来ていて事態を聞きつけたローザリオが、ポーションを差し入れてくれたので、イルドアに飲ませて治療を続けさせ、ルマリとアラミスには食事を摂らせることにして。
揺れることもなくなり、暖められた部屋で寝心地の良い寝台に包まれたイルドアは静かな寝息を立て始めた。
食事を半分も食べなかったルマリは、そのイルドアを見て涙をこぼしながらマーリアルに頭を下げる。
「ありがとうございます、本当に感謝しております」
ほっとしたのはマーリアルも同じだ。アラミスほどよく知るわけではないが、寝顔がよく似ている。歩けなくなるようなことがあれば、その人生は大変なものになっただろう。
「早く手当てができて、本当によかったわ。何も心配せずにゆっくりおやすみになってね。アラミスも。皆一緒がいいかしら?それともアラミスはドレイファスと眠る?」
「ここにいたいです」
強い意志を込めた瞳で答えたアラミスの頭を撫でてやる。
「では予備の寝台をここに運ばせるわ。アラミスも湯浴みをしてからゆっくりやすみなさい」
部屋の外から覗いていたドレイファスは、マーリアルが出てくると母に抱きついた。
イルドアの足は折れただけでなく、あちこち切れて出血しており、心配で怖くてたまらなくなったのだ。
「イルドアはもう大丈夫よ。落ち着いているからあなたも安心しておやすみなさい。アラミスとは明日話すといいわ」
そう言ったのだが、ドレイファスも不安そうな様子がおさまらない。
部屋へ送っていったマーリアルが、ドリアンにその様子を告げるとドレイファスの部屋へ向かい、眠れずに布団に潜っていたドレイファスを抱き上げて自分の部屋へと連れて行った。
「今夜はおとうさまと一緒に眠ろうな。そうすれば怖くないだろう?」
ドリアンはひとり奮闘しているダルスラのため、ドレイファスはアラミスとイルドアのために祈りを捧げ、身を寄せながら眠りについた。
翌朝。
食堂にアラミスやルマリの姿はない。
イルドアが起きたので、部屋で三人で食べることにしたのだ。
「おはよう」
ドレイファスが覗くと、頭をボサボサにしたアラミスが手を振った。
「おはようドル、昨日はありがとう」
「イルドア兄様は?」
手招きされて部屋へ入ると、イルドアは寝台の背もたれに上半身を起こして寄りかかっているが、ドレイファスを見て力なく微笑んだ。
「おはようございますドレイファス様」
「イルドア兄様、大丈夫?」
「ありがとうございます。痛み止めが効いて、今のところは落ち着いています」
「よかった!はー、よかった本当に」
大きく息を吐いて、にっこりすると。
「ぼくもここで食べ・・・」
そう言いかけたが、マーリアルが目を吊り上げたのが見え
「ぼ、ぼくは食堂に行って食べてくるよ。あとでまた来るね」
母の目に触れないように顔をそらして食堂へ逃げて行った。
「朝からお邪魔してごめんなさいね。少し御家族だけでゆっくりしたいでしょうから、ドレイファスには邪魔をしないよう言っておきますわ」
謝るマーリアルにルマリは言う。
「いえ、アラミスもここに閉じこもっていたら辛いと思うので誘ってやってほしいとお伝えください」
この日から屋敷の復旧まで、ルマリたちは約三ヶ月もの間公爵邸に逗留し続け、冬休みが終わるとアラミスはドレイファス、トレモルとともに公爵邸から通学することとなった。
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ありがとうございました!
--4月7日--
感想ありがとうございます。
削除希望されていた方のものは削除させていただきました。
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