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116 ドリアンの憂鬱
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錬金術師ローザリオ・シズルスは半日もかからずにまた公爵邸にやって来た。
まっすぐ厨房に向かい、顔を覗かせるとさっきボンディが持ち歩いていた木の深皿が放り出されている。ボンディは厨房の奥で背を向け、何か作っていた。
「ボンディ?」
振り返った前髪に玉子の黄身がはね飛んでいる。
「ローザリオ様!どうしました?」
「ほら、さっきの持ってきたぞ」
「ええ?もう?作ってきたんですか?」
「まあな。こんなの私の風魔法で削ればちょちょいのちょいだ。さっきの粒を貸してくれ」
ボンディが籠から一握りのウィーを取り、ローザリオが抱えた薬研に入れる。
それをテーブルに置くと、ローザリオは薬研車をゆっくり動かし始めた。押して引いてと繰り返すと、確かにゴリゴリと音がする。
どんどん茶色い皮が裂けて潰れ、皮と粉が混じり合い、ミルケラが作っていた細かい目の笊に皮ごと入れて左右に振って粉を落とす。
「これでどうだろう?」
語尾をあげ、訊ねるような言葉ではあるが、その顔は満足気だ。
ボンディも粉を見たことがあるわけではないが、焼いてみれば結果が出る。
目分量で粉に玉子を割り入れ、牛乳で溶いた。どろりと鉄鍋に垂れ落ちるとポタンと音がして、丸く鍋の中で拡がっていく。火にかけるとウィーの縁からプツプツと小さな穴が開き、表面も乾いてくる。
それとともにほんのりと香ばしい香りが漂って、ローザリオも鍋から目が離せなくなった。
木べらで端を軽く捲るとこんがりしてきたので、深くヘラを差し込み、ぽんとひっくり返してみせる。少し鍋にこびりついたが、全体がこんがりしてとてもおいしそう!
「まだ焼けないのか?」
待ちきれなくなったローザリオに急かされても、それに惑わされずにしっかり火を通しきったボンディが、木べらを使って皿に移し、はちみつをかけた。
じゅわっと染み込んでいくと、香りを含んだ湯気に鼻がヤラれる。
「ま、まだか?」
「うん、まだ熱いが気をつけて試食してみよう」
切り分けて一口づつ。
「ぅうんまいっ!」
玉子焼きとは違うふんわり感!
モチッとするようなそれは、ナイフをいれると沈むが、切り離された断面はまた、ふわあっと膨らむのだ。
ボンディの目分量はうまくいきすぎた!
「これは、やわらかいっていう神様じゃないか?美味すぎる!」
ローザリオが芝居がかったように褒め称えた。
いつもならまた大袈裟なと小馬鹿にするところだが、今日はボンディもそのとおりだと頷いた。
「ああ、本当になんていうやわらかさ!」
よほど気に入ったらしい。
ローザリオは、粒をもっと効率よく潰せるように薬研を改良してくると言って、持ってきたものはボンディにあげて帰って行った。
帰る前にもう一度多めに粉を作り、その粉をもらうことももちろん忘れずに。
そのあと、ひとり厨房に残ったボンディはせっせとウィーを潰して粉を振り分けた。
夕餉の支度に入る頃にはモリエールにもらった粒は全部粉に変わり、牛乳と玉子を用意すると、デザート用に一人でじゃんじゃん焼き始めた。
ロイが覗くと「後で食べさせてやる」とニッとするが細かいことは何も教えない。
まず焼き上がりは庭師たちに最初に届けられた。新参のものたちは寮住まいではあるが、食事はログハウスの食堂でわいわいと食べている。それを知るボンディは、自分でトレーに皿を乗せてログハウスへ運び込んだ。
「誰か扉を開けてくれ」
声をかけながら靴で扉をコツコツと蹴ると、ミルケラが開けてくれ、両手にトレーを持つ姿を見て一枚受け取ってくれた。
「モリエール!ウィーの粒で作ってみたぞ」
紫の瞳が大きく見開かれ、更に手を伸ばす。
くんと香りを嗅いで、にっこりした。
「ウィーの粉?朝言っていたやつか?」
タンジェントが訊くと
「そう、それだ」返事がくる。
「俺のアレは役に立った?」
ミルケラが訊いてきたことには正直に
「それがな、うまくいかなかったんだ。それを言いに来たらちょうどローザリオ様に出くわして。錬金術で使う薬研という鉢に似てるって言うんで、それをもらったのさ」
「やげん?」ミルケラは不満そう。
「うん、錬金術師や薬師くらいしか使わない道具らしいよ。でも似たものがあったから早くできた。最初の試食は俺たちがしたが、次は君たちに食べてもらいたいんだ。ささっ早く冷めないうちに」
勧められて一口大にカットされたひと切れをつまむと、ふにっと潰れるほどのやわらかさにびっくりする。
「うわ、なにこれ?やわらかい」
だれかそんなことを言ったが、それより早く食べたいという気持ちが大きい。
モリエールが口に放り込んだあと、ハッと息を吐いた。
「うまいっ!」
一斉に賛美の声があがる。
唯一の女性モイラが蕩けるような顔でため息をついた。
皆の表情を見て満足したボンディは、皿を残して厨房に戻った。今度はウィーを溶いた液を深皿に移し、地下通路を屋敷へ向かう。
屋敷の厨房では、ちょうど公爵一家の夕餉が始まっていた。今日のデザートも既に用意されているが。
ボンディは総料理長に声をかけると、新しいレシピを披露したいと鉄鍋を借りた。
メイン料理が出たあと、竈の火口に鉄鍋を六つ乗せて温まった頃を見計らい、持ち込んだウィーの溶かし液を流し込んでいく。
「ボンディ?それ一体何だ?」
総料理長シズルが覗く。
「新しい材料で作るデザートですよ」
ニヤっとすると親指をグッと立てた。
こんがり焼き目がついたそれを鉄鍋から皿へ滑り落とすと、はちみつをかけてシズルに渡す。
「どうぞ試食を」
シズルの反応は予想通り。
「うまい!うん、いいなこれは。卵焼きとは違うやわらかさなのに食べごたえもある。なんという食感だ」
「では夕餉に出しますよ」
「ああ、今日のデザートは豪華版だな」
もとより準備されたぷるんもあるのだが、一緒に出すと決めたようだ。
「では少し小さめに焼きましょう」
ボンディが手際よく焼いては皿に移していく。小瓶にはちみつを入れて添えると、給仕が運んで行った。
「ドレイファス様、気がつくかなぁ」
夕餉も残すところデザートだけとなったとき、開いた扉から給仕たちがワゴンを押してきた。乗せられていた皿を各人の前にそっと置くと
「あ!」
ドレイファスが大きな声を出してしまったが、ハッとして自分の口をかわいく押さえる。
「どうした?」
父、ドリアンが諌めるより先に理由を訊ねてくれたので
「これ、ぼくの夢のです!朝カイドに話して」
「ほう、朝話してもう作れたのか?すごく頑張ってくれたのだな。せっかくだから冷めないうちにいただこう」
はちみつをほんの少し垂らすドリアンに対し、けっこうな量をかけ回すように垂らしたのはマーリアルとドレイファスだ。グレイザールとトレモルはまず何もつけずに食べるらしい。
「ふわっ!だ」
ドレイファスがナイフが入った瞬間の沈み方に喜びの声をあげた。
「本当に、ふんわりだわ」
「おーいしいー」
マーリアルやグレイザールはもちろんだが。
「うむ。はちみつを調整すると甘味もちょうどよく、なにより軽いしやわらかさが上質のものと言える」
ボンディがこの場にいたら大声で叫んで飛び跳ねただろう!公爵閣下の最大限の褒め言葉だ。
「うん、うまいな」
もう一度褒めて、すべてを食べ終えた。
「この料理を作ってくれたものに礼を伝えておいてくれ」
ドリアンがナプキンで口を拭う頃には、皆も食べ終え、二つのデザートに大変満足した顔をしている。
「なんて素晴らしい食事かしら、また期待してしていると伝えてね」
部屋へ引き上げていく公爵たちを見送ると、給仕たちが顔を寄せ 、さきほどのデザートの噂を始めた。
「シズル様もすごくうまいってほめられたそうだよ」
「ああ、早く食べてみたいなあ」
「食べたい!早く片付けよう」
その夜、使用人たちの話題は新しいデザートで大いに盛り上がった。
ドレイファスも夢で見た食べ物がその日に出されたのは初めてで、興奮したまま眠りについたが、眠る直前まで考えていたせいか昨日の夢がくり返された。
あ?また焼いてる。
とろりとパンケーキにはちみつ、
『€†££‡§#』
『€†££‡§#^%@&%』
あー、なんて言ってるんだろう?
どうしても聴き取りたくて、音や声に集中する。
『Pan‡§ki№ki』
ん?いまなにか聴こえたかも!
ぱん‡§き?
これなに?
もっとハッキリ聴こえたらいいのに!
頑張って聞き耳を立てたが、それ以上は聴こえなかった。
でも、クレーメを乗せてはちみつを垂らし、おいしそうに食べるところを見て、自分もやってみようと・・・思いながら夢見から遠ざかっていった。
深夜。
公爵家の執務室では眠れないドリアンが眉間に皺を寄せて唸っている。
何を悩んでいるかというと。
「穴掘り棒と水やり樽、乾燥スライムの濁りガラスに、ラバンとミンツのフラワーウォーターやフラワーオイル、薄鉄鍋まですべて順調だ」
「そうでございますね」
付き合って夜更かしのマドゥーンが相槌を打つ。
「グゥザヴィ商会やシズルス、サンザルブと利益を分けてもまだ十分なほど、公爵家の利益はうなぎのぼりだ」
「けっこうなことで」
「いや、もっと利益を皆で分けて我が家の潤いを目立たせないようにせねば、王家に目をつけられる日も近い。これでもまだ畑の作物やぷるんなど新しい菓子は外に出していないのだぞ。これらを世に出したら我らの利益は一体どうなってしまうだろう?
カイドの言うとおり、本当にドレイファスがレベルアップしていたとしたら、まだまだ続くということだ」
ドリアンの心配はもっともだった。
「では・・・今グゥザヴィ商会に出資しているように公爵家工作部に出資を募って分配したらいかがでしょう?利益分配をするからこそ新製品開発にも力を入れているというのは隠れ蓑にはならないでしょうか?」
「そうだな・・・だとしたら公爵家工作部を違う名称にして、傘下の複数貴族との共同事業としたほうがより自然かもしれぬな。皆で集まるときに相談してみることにしようか」
外ではフクロウの声が響いている。
月が雲に隠されて暗い空に星だけが瞬いて、眠気に負けそうなマドゥーンが言った。
「ところで、そろそろ本当におやすみになってはいただけないでしょうか?」
まっすぐ厨房に向かい、顔を覗かせるとさっきボンディが持ち歩いていた木の深皿が放り出されている。ボンディは厨房の奥で背を向け、何か作っていた。
「ボンディ?」
振り返った前髪に玉子の黄身がはね飛んでいる。
「ローザリオ様!どうしました?」
「ほら、さっきの持ってきたぞ」
「ええ?もう?作ってきたんですか?」
「まあな。こんなの私の風魔法で削ればちょちょいのちょいだ。さっきの粒を貸してくれ」
ボンディが籠から一握りのウィーを取り、ローザリオが抱えた薬研に入れる。
それをテーブルに置くと、ローザリオは薬研車をゆっくり動かし始めた。押して引いてと繰り返すと、確かにゴリゴリと音がする。
どんどん茶色い皮が裂けて潰れ、皮と粉が混じり合い、ミルケラが作っていた細かい目の笊に皮ごと入れて左右に振って粉を落とす。
「これでどうだろう?」
語尾をあげ、訊ねるような言葉ではあるが、その顔は満足気だ。
ボンディも粉を見たことがあるわけではないが、焼いてみれば結果が出る。
目分量で粉に玉子を割り入れ、牛乳で溶いた。どろりと鉄鍋に垂れ落ちるとポタンと音がして、丸く鍋の中で拡がっていく。火にかけるとウィーの縁からプツプツと小さな穴が開き、表面も乾いてくる。
それとともにほんのりと香ばしい香りが漂って、ローザリオも鍋から目が離せなくなった。
木べらで端を軽く捲るとこんがりしてきたので、深くヘラを差し込み、ぽんとひっくり返してみせる。少し鍋にこびりついたが、全体がこんがりしてとてもおいしそう!
「まだ焼けないのか?」
待ちきれなくなったローザリオに急かされても、それに惑わされずにしっかり火を通しきったボンディが、木べらを使って皿に移し、はちみつをかけた。
じゅわっと染み込んでいくと、香りを含んだ湯気に鼻がヤラれる。
「ま、まだか?」
「うん、まだ熱いが気をつけて試食してみよう」
切り分けて一口づつ。
「ぅうんまいっ!」
玉子焼きとは違うふんわり感!
モチッとするようなそれは、ナイフをいれると沈むが、切り離された断面はまた、ふわあっと膨らむのだ。
ボンディの目分量はうまくいきすぎた!
「これは、やわらかいっていう神様じゃないか?美味すぎる!」
ローザリオが芝居がかったように褒め称えた。
いつもならまた大袈裟なと小馬鹿にするところだが、今日はボンディもそのとおりだと頷いた。
「ああ、本当になんていうやわらかさ!」
よほど気に入ったらしい。
ローザリオは、粒をもっと効率よく潰せるように薬研を改良してくると言って、持ってきたものはボンディにあげて帰って行った。
帰る前にもう一度多めに粉を作り、その粉をもらうことももちろん忘れずに。
そのあと、ひとり厨房に残ったボンディはせっせとウィーを潰して粉を振り分けた。
夕餉の支度に入る頃にはモリエールにもらった粒は全部粉に変わり、牛乳と玉子を用意すると、デザート用に一人でじゃんじゃん焼き始めた。
ロイが覗くと「後で食べさせてやる」とニッとするが細かいことは何も教えない。
まず焼き上がりは庭師たちに最初に届けられた。新参のものたちは寮住まいではあるが、食事はログハウスの食堂でわいわいと食べている。それを知るボンディは、自分でトレーに皿を乗せてログハウスへ運び込んだ。
「誰か扉を開けてくれ」
声をかけながら靴で扉をコツコツと蹴ると、ミルケラが開けてくれ、両手にトレーを持つ姿を見て一枚受け取ってくれた。
「モリエール!ウィーの粒で作ってみたぞ」
紫の瞳が大きく見開かれ、更に手を伸ばす。
くんと香りを嗅いで、にっこりした。
「ウィーの粉?朝言っていたやつか?」
タンジェントが訊くと
「そう、それだ」返事がくる。
「俺のアレは役に立った?」
ミルケラが訊いてきたことには正直に
「それがな、うまくいかなかったんだ。それを言いに来たらちょうどローザリオ様に出くわして。錬金術で使う薬研という鉢に似てるって言うんで、それをもらったのさ」
「やげん?」ミルケラは不満そう。
「うん、錬金術師や薬師くらいしか使わない道具らしいよ。でも似たものがあったから早くできた。最初の試食は俺たちがしたが、次は君たちに食べてもらいたいんだ。ささっ早く冷めないうちに」
勧められて一口大にカットされたひと切れをつまむと、ふにっと潰れるほどのやわらかさにびっくりする。
「うわ、なにこれ?やわらかい」
だれかそんなことを言ったが、それより早く食べたいという気持ちが大きい。
モリエールが口に放り込んだあと、ハッと息を吐いた。
「うまいっ!」
一斉に賛美の声があがる。
唯一の女性モイラが蕩けるような顔でため息をついた。
皆の表情を見て満足したボンディは、皿を残して厨房に戻った。今度はウィーを溶いた液を深皿に移し、地下通路を屋敷へ向かう。
屋敷の厨房では、ちょうど公爵一家の夕餉が始まっていた。今日のデザートも既に用意されているが。
ボンディは総料理長に声をかけると、新しいレシピを披露したいと鉄鍋を借りた。
メイン料理が出たあと、竈の火口に鉄鍋を六つ乗せて温まった頃を見計らい、持ち込んだウィーの溶かし液を流し込んでいく。
「ボンディ?それ一体何だ?」
総料理長シズルが覗く。
「新しい材料で作るデザートですよ」
ニヤっとすると親指をグッと立てた。
こんがり焼き目がついたそれを鉄鍋から皿へ滑り落とすと、はちみつをかけてシズルに渡す。
「どうぞ試食を」
シズルの反応は予想通り。
「うまい!うん、いいなこれは。卵焼きとは違うやわらかさなのに食べごたえもある。なんという食感だ」
「では夕餉に出しますよ」
「ああ、今日のデザートは豪華版だな」
もとより準備されたぷるんもあるのだが、一緒に出すと決めたようだ。
「では少し小さめに焼きましょう」
ボンディが手際よく焼いては皿に移していく。小瓶にはちみつを入れて添えると、給仕が運んで行った。
「ドレイファス様、気がつくかなぁ」
夕餉も残すところデザートだけとなったとき、開いた扉から給仕たちがワゴンを押してきた。乗せられていた皿を各人の前にそっと置くと
「あ!」
ドレイファスが大きな声を出してしまったが、ハッとして自分の口をかわいく押さえる。
「どうした?」
父、ドリアンが諌めるより先に理由を訊ねてくれたので
「これ、ぼくの夢のです!朝カイドに話して」
「ほう、朝話してもう作れたのか?すごく頑張ってくれたのだな。せっかくだから冷めないうちにいただこう」
はちみつをほんの少し垂らすドリアンに対し、けっこうな量をかけ回すように垂らしたのはマーリアルとドレイファスだ。グレイザールとトレモルはまず何もつけずに食べるらしい。
「ふわっ!だ」
ドレイファスがナイフが入った瞬間の沈み方に喜びの声をあげた。
「本当に、ふんわりだわ」
「おーいしいー」
マーリアルやグレイザールはもちろんだが。
「うむ。はちみつを調整すると甘味もちょうどよく、なにより軽いしやわらかさが上質のものと言える」
ボンディがこの場にいたら大声で叫んで飛び跳ねただろう!公爵閣下の最大限の褒め言葉だ。
「うん、うまいな」
もう一度褒めて、すべてを食べ終えた。
「この料理を作ってくれたものに礼を伝えておいてくれ」
ドリアンがナプキンで口を拭う頃には、皆も食べ終え、二つのデザートに大変満足した顔をしている。
「なんて素晴らしい食事かしら、また期待してしていると伝えてね」
部屋へ引き上げていく公爵たちを見送ると、給仕たちが顔を寄せ 、さきほどのデザートの噂を始めた。
「シズル様もすごくうまいってほめられたそうだよ」
「ああ、早く食べてみたいなあ」
「食べたい!早く片付けよう」
その夜、使用人たちの話題は新しいデザートで大いに盛り上がった。
ドレイファスも夢で見た食べ物がその日に出されたのは初めてで、興奮したまま眠りについたが、眠る直前まで考えていたせいか昨日の夢がくり返された。
あ?また焼いてる。
とろりとパンケーキにはちみつ、
『€†££‡§#』
『€†££‡§#^%@&%』
あー、なんて言ってるんだろう?
どうしても聴き取りたくて、音や声に集中する。
『Pan‡§ki№ki』
ん?いまなにか聴こえたかも!
ぱん‡§き?
これなに?
もっとハッキリ聴こえたらいいのに!
頑張って聞き耳を立てたが、それ以上は聴こえなかった。
でも、クレーメを乗せてはちみつを垂らし、おいしそうに食べるところを見て、自分もやってみようと・・・思いながら夢見から遠ざかっていった。
深夜。
公爵家の執務室では眠れないドリアンが眉間に皺を寄せて唸っている。
何を悩んでいるかというと。
「穴掘り棒と水やり樽、乾燥スライムの濁りガラスに、ラバンとミンツのフラワーウォーターやフラワーオイル、薄鉄鍋まですべて順調だ」
「そうでございますね」
付き合って夜更かしのマドゥーンが相槌を打つ。
「グゥザヴィ商会やシズルス、サンザルブと利益を分けてもまだ十分なほど、公爵家の利益はうなぎのぼりだ」
「けっこうなことで」
「いや、もっと利益を皆で分けて我が家の潤いを目立たせないようにせねば、王家に目をつけられる日も近い。これでもまだ畑の作物やぷるんなど新しい菓子は外に出していないのだぞ。これらを世に出したら我らの利益は一体どうなってしまうだろう?
カイドの言うとおり、本当にドレイファスがレベルアップしていたとしたら、まだまだ続くということだ」
ドリアンの心配はもっともだった。
「では・・・今グゥザヴィ商会に出資しているように公爵家工作部に出資を募って分配したらいかがでしょう?利益分配をするからこそ新製品開発にも力を入れているというのは隠れ蓑にはならないでしょうか?」
「そうだな・・・だとしたら公爵家工作部を違う名称にして、傘下の複数貴族との共同事業としたほうがより自然かもしれぬな。皆で集まるときに相談してみることにしようか」
外ではフクロウの声が響いている。
月が雲に隠されて暗い空に星だけが瞬いて、眠気に負けそうなマドゥーンが言った。
「ところで、そろそろ本当におやすみになってはいただけないでしょうか?」
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