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chapter1 黒き萌芽と執行者
第15話 深淵からの帰還
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―――永い、夢を見た。
―――永い、幻を見た。
穏やかな夢でありながら、激しい幻を見た。
いや、『見た』のではない。
『感じた』のだ。
自分が多くの人を殺し尽くす夢を。
多くの人を操る幻を。
けっして、頭がソレを見たのではない。
―――記憶として、感じたのだ。
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「ううぅ…」
気付いた時には、そこにいた。
目が覚めた時には、そこにいた。
見上げても見上げても、けっしてソラが見えるわけじゃない。
かといってそこが地上なのか深海なのか、または宙の果てなのか。
そんな疑問すら一掃する、『何もない』感覚。
「……ここは、どこだ?」
そんな素朴な疑問に答えるように、一人の男が現れた。
『 おはよう 琉輝《オレ》。 』
『 ようこそ 深淵へ。 』
「……んなぁ~んて!気分はどうだぁ?お~い。最高かぁ!?最高かぁ!?!?
―――ヴァ~ッッッカ!!!んなわけねえだろくそったれ!サイッッッテェ!!!最低辺の最底辺だよ!ド畜生がァーーーー!!
……そうだよ!ここは深淵っていう最ッッ高にくそったれなディストピアでユートピアだよ!ウェルカム壱原琉輝!ようこそ壱原琉輝!わかったらとっととクソして寝ろ!……あっ。ここってクソするとこじゃないし、そもそもそういう事出来ない場所だったわーーーー!!!!ギャーッはッハッハっは!!!」
―――オレにそっくりな気狂い男が、一人で勝手に盛り上がってら^^
てか、深淵?
深淵って確か……水の深い深い位置だった気がするな。
「深淵って、あの深淵か?」
オレはオレにそっくりな男に話しかける。
「 ち げ ぇ - よ ! ヴ ァ - カ ! 」
「そういうリアルな深淵じゃなくて、概念的な深淵だよ!!!」
物凄い剣幕でキレられた。
「概念的な…深淵・・・?」
「そうだよ。(便乗)ここはまぁーなんつーかー……イド…っていうか、リビドー……とも違う……
いわば、心持つものの終着点って感じィ~?」
……なんかすげぇ定まらないな。
ふざけてるのかわざとだろうか……うん。間違いなく前者だな。
「……それで、お前は誰なんだ?」
オレは男に三度問う。
「だぁ~かぁ~rrrルァ~……オレはオレ。壱原琉輝だよ。」
「は?」
「は?って言いたいのはこっちのほうだよぉ(´・ω・`)おめーシンナーヤッた?」
「やってねぇーわ!!つか誰がやるかそんなの!!」
「だよなー。オレってばそういうこと言うよね~wwwww」
「てめぇいい加減にしろ!!さっきから好き放題やりやがって!!何が壱原琉輝だ!ふざけてないで説明したらどうなんだよ!あぁ!?」
「おお、こわいこわい^^これ以上ふざけてってとからくりバレっしもうやめるか。」
だったらはじめからそうしろよ……(#^ω^)ピキピキ
あまりのくだらなさにため息をついた。
こいつ覚吏並みにめんどくせぇな…
「……マジレスすっとオレはお前。琉輝《おまえ》は琉輝《オレ》。」
「はいはい聞いた聞いた」
「最後まできけや(#^ω^)」
「すいませんでした(´・ω・`)」
なんだこのコント。
「…まぁこの態度から分かるように…
オレはお前が抱えてきれなくなって分裂した悪意の化身。
つまり壱原琉輝ダークサイドというわケ。」
「悪意だって…?」
にわかには信じられないが、『この世界は何でもあり』だからな…きっとそういうことだってあるだろう。
「普段の鉄のように冷たくて、多少の犠牲を厭わない。身内にはすっげー優しい、思考回路が猛禽類みたいなおっかないアンタが善意だとすれば、どんな汚い手ですら良しとし、困っている奴はつい見逃せず助ける。時には他人にすら寄生し、操り人形だったり苗床にしたりと、いろいろ情熱的なオレが、アンタにとっては『悪意』みたいなもんなんだよ。」
待て。見逃せない単語がいくつか出てきたぞ。
「おい、もう一度言ってくれ。」
「( ゚Д゚)ハァ?バッカじゃネーの!?アンタが善意ガワで、オレが悪意ガワだっつってんだよ!このとんちんかん!!」
「そうじゃねーよ!!!他人に寄生!?操り人形に苗床!?そんな昆虫じみた発言がよく出てきたな!!」
「ああ、それね!まあ都合がいいし、この深淵の奥でゆっくりと話そうや!」
そう言ってオレの悪意は奥へと姿を消した。
「…行けってんだろ。分かったよ。」
思わずボヤキが出てしまい、オレは先へと向かった。
=*=*=*=*=**=*=*=*=*==*=*=*=*=**=*=*=*=*=
足を踏み入れた先は、表現するのならば、内臓の中とも取れる肉の洞窟だった。
常に蠢く壁や足元。そして肥大した水膨れのような肉塊。
そして―――
「ようこそ地獄へ!お前を待ってたぜ!オレ!!」
―――もう一人のオレが、そこに立っていた。
「…ここは?」
「記憶の貯蔵庫。悪意《オレ》が体験した今までの記憶を、善意《お前》に渡そうと思ってな。」
「記憶の…貯蔵庫?」
「ああそうさ。あの薬はどうやらオレを一つに戻す薬だったらしい。」
「一つに戻す…薬…?」
「ま、実際はどうだか分かんねぇ。なぜなら、オレはその中に封じ込められたからだ。」
「封じ込められた…?」
「誰の仕業か知らねぇけど、そいつはフードコートを着てたからな。だれかを見分けるのは至難の業だ。…ただ、どうも気に食わないカンジだったけどな。」
気に食わない…?
言っている意味が分からない。分からないが……
オレはあいつが嘘を言っているようには見えない。
というより、嘘をつくはずがない。
あいつもオレだというのなら、自分に嘘をつくメリットがない。
…なのに、この違和感はなんだ?
「…そんなこたぁ今はいい。大事なのは―」
あいつはオレに近づいた。
そして―――
ドンッ!
「ちょ、おま―――!」
「―――お前の記憶を取り戻す事だろう?」
オレはあいつに蹴飛ばされた。
あまりにも一瞬で反応出来なかった。
そして。
ボチョンッ。
オレは肉塊に呑み込まれた。
「ッッッ―――!!!」
息が出来ない。
全身が溶けていく。
だんだんと意識すら遠のいてくる。
ああ、生臭い。非常に生臭い。
肉と魚の腐ったような臭いが蔓延する肉の密室の中で、オレは段々と抵抗するのをやめた。
眼前が点滅し、頭がぼんやりして。
……そのまま深い眠りに付いた。
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「・・・、・・・!・・・い!」
……嗚呼、五月蠅い。
今ひとが寝てるってのに、なんでこんなに五月蠅いんだ?
起きたら文句の一つぐらい言ってやろうか…
「・・・おい!さっきからなぁ~にを突っ立っんじゃい!このグズが!!」
「!?」
〔ここは…どこだ?〕
〔夢……か?〕
〔……夢にしてはずいぶんとリアリティのある夢だな。〕
〔それに、目の前にいるのは……う~わ。酔っぱらってるおっさん共じゃねぇか。1…2……3人か。〕
〔それに奥には……ダメだ。意識がはっきりしねぇ。〕
〔ともかく、ここが路地裏。薄暗くて、いかにも人通りがなさそうな感じなのは所にいるということは把握した。〕
「さっきから何を見ているかと聞いただしとんのに、なぁ~にを突っ立っとんじゃ!」
「ガキはとっととお家に帰んな!それとも、痛い目にあいてぇのか!?あぁん!?」
〔うわぁ……これまた厄介な。〕
〔関わるのも面倒くさいし、とっととトンズラして―――〕
『 痛イ目を見るのは…… 』
「!?」
―――一瞬だったが、無意識のうちに身体は動いていた。
『 テメェらの方だ。』
ガシィ!
何の躊躇もなく、ただその首を握りしめていた。
それこそ、『時が止まったと認識される』ぐらいの速さで。
「アッ…うぅ…ッ!!」
〔―――おい…なんでオレ、勝手におっさんの首根っこ掴んでんだ!?〕
〔ぜんぜん、そんなこと思ってもなかったのに……!〕
「ガ……な…ニ、して…」
オレより少し大きいであろうおっさんをいとも簡単に持ち上げている。
手に伝わる感覚は、夢を見て感じてるというには、あまりにも生々しすぎる…!!
―――ゴギャァ!!
オレの手は、おっさんの首根っこを握り潰した。
その口からは、血と嘔吐物が飛び出てきた。
いとも簡単に握り潰してしまった…まるで、ペットボトルを潰すかのように…!!
『 フン…きたネェなぁ… 』
そのままオレは、おっさんを壁に叩き付けた。
ゴミを放り投げるかのように、軽く投げ捨てた。
バギゴシャァ……
投げ捨てられた死体から、大量の骨が折れる音。
軽くといっても、ぶつかっただけで多くの骨を折るほどに強く投げ捨てたのか…!?
「バ…化け物だ…」
「に、逃げるぞ!!さっさと逃げるぞ!!!!!」
「「ヒィィィィィィィ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」」
残りの二人も、たまらず逃げ出した。
〔正直言って、オレ自身も逃げ出したいさ。………だけどなぁ!〕
『 逃ガさん… 報いを受けロ……! 』
〔―――今逃げ出したいと思ってる相手は、オレ自身なんだよぉ!!!〕
ブオッ!!!
―――また一瞬で動いた。即席の突風かと思うぐらい速く動いた。
……ゴロン。ゴロン。
……そして振り返ると、残りの2人の首が転がっていた。
ふと目を向けると、オレの腕は鎌のような形状に変わっていた。
〔あ、ああ…………〕
きっとこの鎌で、あの2人の首を刎ねたんだろう。
〔……………………!!!〕
オレは悪人であらば容赦なく叩きのめしてきたが、せいぜい死なない程度に抑えていた。
どんな悪人だろうと、法律で裁かれるべしと。そう定められているなら、従うまでだ。
だが、今実際に見てる事と言えば、オレ自身がこの手で人を殺してしまったことだ…………!
『 ………… 』
〔―――ああうん。きっとこれは夢なんだ。いくらリアリティがあっても、所詮は夢の中で起きた幻。現実のオレには一切関係ない。きっと、きっとな!アハハハハハハ…………〕
『大丈夫ですか?』
先程とは打って変わって、優しめな雰囲気を出して喋った。
相手は高校生ぐらいの女の子。服装が少し乱れている。
「えっ…あ、はい。ありがとうございます…………」
女の子は少し泣いている。服装から、恐らく部活帰りの途中に出くわしたのだろうか。
―――すると。
『 そうですか。 』
『 それは良かった。 』
ヌルヌル…ぬちゃぬちゃ…
「え…ぁ…」
オレはおもむろに、女の子の耳に液体化させた腕を入れた。
『心配しなくてもいいですよ。ちょっと辛いことを忘れさせるだけです。』
…違う。
辛いことを忘れさせるなんて、人聞きのいいことを言ってはいるが―――
『 …埋入完了。 』
―――実際やっていることは、脳の中に身体の一部を埋め込んでいるだけだ!!
〔何を…何を企んでいるんだ!?〕
―――突然、激しい頭痛に襲われた。
〔ガッ・・・!?な、なんだ・・・!?これぇ!!〕
その時、声が聞こえてきた。
『〔人間というのは脆いものだ。すぐ何かと危機に陥って壊れちまう。だからオレは、オレを埋め込むことにした。細胞や生体因子の活動を活発化させるのはもちろんのこと、肉体的・精神的な不老長寿は約束されたようなものだ。〕』
何を・・・言って・・・!?
『〔まあ、しばらくの間は感情の抑制は効かなくなり繫殖欲求が異常なほど膨れあがるが、最終的には記憶すらオレに喰われ、赤ん坊のように泣きわめくようにしてある。何しろ身体はオレを埋め込んだ時のままだからなぁ。どうなるのか見当もつかねえや^^〕』
げ…外道だ…
オレ自身が、こんな外道だったなんて…!
今までのオレがして来た事は…全部『偽善』に過ぎなかったのか…!?
キィィィィィィィィィィィイィィン…………
―――また、頭痛がする。
〔な、ん、なん・・・だ・・・こ、レ……また、頭ガ…!〕
無情にもこの頭痛は問答無用で意識を奪う。
目の前の景色が、解像度を低くし、感覚を暗黒に引き落とす。
〔…………?〕
また、景色が変わった。
〔ここは…飲食店だろうか?〕
明るい雰囲気が持ち味を体現したような所だが、何故か賑わいが少ない気がする。
〔…………それで、この状況はどうなっているんだ?〕
身体一つ動かないのは変わらない。相も変わらず意識だけの状態だ。
まあ、こんな明確な状態なのもおかしいけどな。
『 ………… 』
〔あっ、動いた。〕
突然景色が動き始め、何処かにと向かう。
〔一体何処に行くんだ?〕
景色の感覚から、オレが天井に張り付いて何かを探しているということだけはなんとなく分かった。
『 ミツケタ… 』
そしてオレは突如動きを止め、ここで働く女性らしき人に近付き―――
ぐちゃ!ねちゃんちゃ!
「!!!」
その女性を取り込んでしまった。
その様子は、アメーバ状の生物が捕食をするようだった。
じっくり、じわじわと。相手の自我ごと、自身と同化するように蝕む。
『…………~ッ。』
背伸びをした。
他人の身体を奪い、自身に馴染ませるように。
『さぁ~て。せっかくだから運んでもらうか。』
そう言うと、オレは活動を抑え、奪った女性に身体を返す。
「あれ…?私、何を…?」
「お~い!■■■!!早くしてくれー!」
この女性を呼ぶ声だろうか。はっきりとは聞こえなかったが、誰かを待たせてることは確かだろう。
「あ、はーい!今行きまーす!!」
これは意識を共有しているからだろうか。
不思議と女性の身体に入ると、安らかな気持ちになる。
〔…ところで、状況としてはどうなっているんだ?〕
ふと、カレンダーを見る。
【2023年11月14日/本日西条会御一行様ご来店】
カレンダーにはそう書かれてあった。
〔…待て?2023年って、確か五年前だよな?それに、西条会って…まさか、あの西条会か!?〕
オレはふと思い出した。西条会大量猟奇殺人事件を。
とある食堂で、日本の裏社会を牛耳るとされていた異能指定暴力団である西条会の会員が、謎の猟奇的死体となった、最大級にして最悪の殺人事件の事を…!!
〔おい、まさか…オレが今いるのが、その西条会事件の発生現場かぁ!? …………いやいやいや。まさかそんなこたぁないだろぉ。もしそうだとしても、犯人を特定できるだけで、意識だけのオレがどうこう出来る問題じゃ…〕
「お待たせいたしました。西条会の皆様。」
そうこうしているうちに、それなりに広い所に出た。
「おぉ~?やっと来たか!」
「おやっさん、待たせたんとちゃいますかぁ?」
〔う~わぁ~。どこもかしこもヤクザヤクザヤクザ……早く出ていかないと…〕
「落ち着け、お前ら。貸切とはいえ、よそ様に迷惑を掛けん程度にはしゃぎやがれ。」
「「「「うっす!!!」」」
あれが当時の西条会の頭首、西条マサユキか。
優れた手腕で、東京の裏社会の王に君臨し、一代にして、多くの勢力から指示を受けている日本モンスター界のドン。
その頃は、政治活動にも精力的で、多くの政治家にも援助を行っていたな。
…やれやれ。悪のカリスマってのは、ああいう奴を指すんだろうな。
「それでは、ごゆっくり…」
「待ちな姉ちゃん。俺らと呑んでけや。」
オイオイオイ、誘って来やがったぞ…!
「え、ええと、その、私は…」
「気にすんなや。パーっと呑んで騒いでこうぜ?」
「「「「フヘヘヘ…」」」
〔―――これはやべぇ。〕
ブチン…
突如として店内は暗黒に包まれた。
「あぁ?こんな時に停電かよぉ。」
「オイ、おとなしくしとけよ。」
突如として騒ぎ出す一員達。
「まあ取り敢えず、明かりが戻すまで、座ってようぜ。」
「「「うい!」」」
こうして、西条会の一員はおとなしくなった。
『それでいいんだよ―――』
〔それでいいんだよ―――〕
そして、静寂な虐殺は人知れず始まった。
ある時は串刺しに、またある時は溺死させ、はたまたある時は四肢を全て斬り落とした。
決して被ることのない豊富な暗殺を、この一瞬で行った。
〔( ´Д`)=3 フゥ…疲れたぁ。〕
その時気付いた。
西条会大量猟奇殺人事件の犯人は、オレ自身だということに。
〔―――。〕
もう誤魔化しようはない。
本心だ。
この虐殺は、自らの意思にて行われ、それは余りにも無惨極まりないものだ。
〔―――あ。〕
また意識は消え失せる。
だけど今度は先ほどのような激しい痛みを伴うものじゃない。
心の底から優しい感覚で―――
「やあ~初めまして!いや、俺が君と会うのは初めましてと、訂正するところかな?」
「…誰だ、あんたは。」
今度は明確に身体の自由は効く。
だが、目の前のコイツとは何処かであったような感じはある。
それも、遥か昔に―――
「突然だけど、君には眠ってもらうね!」
「は?」
そして、視界が圧縮されるような感覚を最後に、心のつっかかえが消えた。
*=*=*=*=**=*=*=*=*=*=*=*=*=**=*=*=*=*=
「!?」
そして、気付いた時には深淵の入り口にいた。
「お疲れちゃ~ん!!!気分はどぉ~お?」
「……ああ。最高だよ。」
「ほえ?」
唐突に現れたもう一人のオレに、そう告げた。
「おやぁ?もう一人のオレさんよぉ~~~。本当にオレなら、これくらいで驚かれては困るなぁ^^」
煽る煽る。
「どういうこったい!オレが偽物だって言うのか!?」
「そうだ。もう猿芝居は十分だろ?八十神?」
オレはそう言った。
目の前の男に、嘗ての幼馴染の名を。
「―――――アッハハハハハ!!流石だなリューキ!まあ、お前なら俺のからくりは見抜けると思ったよ!!」
この純粋ゆえに含まれるおぞましい狂気に満ちた笑い。
間違いない。八十神磊徒《やそがみらいと》張本人だ!
「どうしてこんなマネをした!何を企んでいる!」
「まあ焦るなよリューキ。俺とオマエはいずれ会える。その時にきちんと話し合うとするか。」
そして、意識は光に飲まれていく。
きっと肉体が目覚めたんだろう。
「最後に一つだけ言っておく。現実に帰ったらこう言い放て。」
―――――――――。
そしてそのまま、オレの身体は目覚め、その言葉を発した。
当然、その後意識を失った。
―――永い、幻を見た。
穏やかな夢でありながら、激しい幻を見た。
いや、『見た』のではない。
『感じた』のだ。
自分が多くの人を殺し尽くす夢を。
多くの人を操る幻を。
けっして、頭がソレを見たのではない。
―――記憶として、感じたのだ。
*=*=*=*=**=*=*=*=*=*=*=*=*=**=*=*=*=*=*=*=*=*=**=*=*=*=*=
「ううぅ…」
気付いた時には、そこにいた。
目が覚めた時には、そこにいた。
見上げても見上げても、けっしてソラが見えるわけじゃない。
かといってそこが地上なのか深海なのか、または宙の果てなのか。
そんな疑問すら一掃する、『何もない』感覚。
「……ここは、どこだ?」
そんな素朴な疑問に答えるように、一人の男が現れた。
『 おはよう 琉輝《オレ》。 』
『 ようこそ 深淵へ。 』
「……んなぁ~んて!気分はどうだぁ?お~い。最高かぁ!?最高かぁ!?!?
―――ヴァ~ッッッカ!!!んなわけねえだろくそったれ!サイッッッテェ!!!最低辺の最底辺だよ!ド畜生がァーーーー!!
……そうだよ!ここは深淵っていう最ッッ高にくそったれなディストピアでユートピアだよ!ウェルカム壱原琉輝!ようこそ壱原琉輝!わかったらとっととクソして寝ろ!……あっ。ここってクソするとこじゃないし、そもそもそういう事出来ない場所だったわーーーー!!!!ギャーッはッハッハっは!!!」
―――オレにそっくりな気狂い男が、一人で勝手に盛り上がってら^^
てか、深淵?
深淵って確か……水の深い深い位置だった気がするな。
「深淵って、あの深淵か?」
オレはオレにそっくりな男に話しかける。
「 ち げ ぇ - よ ! ヴ ァ - カ ! 」
「そういうリアルな深淵じゃなくて、概念的な深淵だよ!!!」
物凄い剣幕でキレられた。
「概念的な…深淵・・・?」
「そうだよ。(便乗)ここはまぁーなんつーかー……イド…っていうか、リビドー……とも違う……
いわば、心持つものの終着点って感じィ~?」
……なんかすげぇ定まらないな。
ふざけてるのかわざとだろうか……うん。間違いなく前者だな。
「……それで、お前は誰なんだ?」
オレは男に三度問う。
「だぁ~かぁ~rrrルァ~……オレはオレ。壱原琉輝だよ。」
「は?」
「は?って言いたいのはこっちのほうだよぉ(´・ω・`)おめーシンナーヤッた?」
「やってねぇーわ!!つか誰がやるかそんなの!!」
「だよなー。オレってばそういうこと言うよね~wwwww」
「てめぇいい加減にしろ!!さっきから好き放題やりやがって!!何が壱原琉輝だ!ふざけてないで説明したらどうなんだよ!あぁ!?」
「おお、こわいこわい^^これ以上ふざけてってとからくりバレっしもうやめるか。」
だったらはじめからそうしろよ……(#^ω^)ピキピキ
あまりのくだらなさにため息をついた。
こいつ覚吏並みにめんどくせぇな…
「……マジレスすっとオレはお前。琉輝《おまえ》は琉輝《オレ》。」
「はいはい聞いた聞いた」
「最後まできけや(#^ω^)」
「すいませんでした(´・ω・`)」
なんだこのコント。
「…まぁこの態度から分かるように…
オレはお前が抱えてきれなくなって分裂した悪意の化身。
つまり壱原琉輝ダークサイドというわケ。」
「悪意だって…?」
にわかには信じられないが、『この世界は何でもあり』だからな…きっとそういうことだってあるだろう。
「普段の鉄のように冷たくて、多少の犠牲を厭わない。身内にはすっげー優しい、思考回路が猛禽類みたいなおっかないアンタが善意だとすれば、どんな汚い手ですら良しとし、困っている奴はつい見逃せず助ける。時には他人にすら寄生し、操り人形だったり苗床にしたりと、いろいろ情熱的なオレが、アンタにとっては『悪意』みたいなもんなんだよ。」
待て。見逃せない単語がいくつか出てきたぞ。
「おい、もう一度言ってくれ。」
「( ゚Д゚)ハァ?バッカじゃネーの!?アンタが善意ガワで、オレが悪意ガワだっつってんだよ!このとんちんかん!!」
「そうじゃねーよ!!!他人に寄生!?操り人形に苗床!?そんな昆虫じみた発言がよく出てきたな!!」
「ああ、それね!まあ都合がいいし、この深淵の奥でゆっくりと話そうや!」
そう言ってオレの悪意は奥へと姿を消した。
「…行けってんだろ。分かったよ。」
思わずボヤキが出てしまい、オレは先へと向かった。
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足を踏み入れた先は、表現するのならば、内臓の中とも取れる肉の洞窟だった。
常に蠢く壁や足元。そして肥大した水膨れのような肉塊。
そして―――
「ようこそ地獄へ!お前を待ってたぜ!オレ!!」
―――もう一人のオレが、そこに立っていた。
「…ここは?」
「記憶の貯蔵庫。悪意《オレ》が体験した今までの記憶を、善意《お前》に渡そうと思ってな。」
「記憶の…貯蔵庫?」
「ああそうさ。あの薬はどうやらオレを一つに戻す薬だったらしい。」
「一つに戻す…薬…?」
「ま、実際はどうだか分かんねぇ。なぜなら、オレはその中に封じ込められたからだ。」
「封じ込められた…?」
「誰の仕業か知らねぇけど、そいつはフードコートを着てたからな。だれかを見分けるのは至難の業だ。…ただ、どうも気に食わないカンジだったけどな。」
気に食わない…?
言っている意味が分からない。分からないが……
オレはあいつが嘘を言っているようには見えない。
というより、嘘をつくはずがない。
あいつもオレだというのなら、自分に嘘をつくメリットがない。
…なのに、この違和感はなんだ?
「…そんなこたぁ今はいい。大事なのは―」
あいつはオレに近づいた。
そして―――
ドンッ!
「ちょ、おま―――!」
「―――お前の記憶を取り戻す事だろう?」
オレはあいつに蹴飛ばされた。
あまりにも一瞬で反応出来なかった。
そして。
ボチョンッ。
オレは肉塊に呑み込まれた。
「ッッッ―――!!!」
息が出来ない。
全身が溶けていく。
だんだんと意識すら遠のいてくる。
ああ、生臭い。非常に生臭い。
肉と魚の腐ったような臭いが蔓延する肉の密室の中で、オレは段々と抵抗するのをやめた。
眼前が点滅し、頭がぼんやりして。
……そのまま深い眠りに付いた。
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「・・・、・・・!・・・い!」
……嗚呼、五月蠅い。
今ひとが寝てるってのに、なんでこんなに五月蠅いんだ?
起きたら文句の一つぐらい言ってやろうか…
「・・・おい!さっきからなぁ~にを突っ立っんじゃい!このグズが!!」
「!?」
〔ここは…どこだ?〕
〔夢……か?〕
〔……夢にしてはずいぶんとリアリティのある夢だな。〕
〔それに、目の前にいるのは……う~わ。酔っぱらってるおっさん共じゃねぇか。1…2……3人か。〕
〔それに奥には……ダメだ。意識がはっきりしねぇ。〕
〔ともかく、ここが路地裏。薄暗くて、いかにも人通りがなさそうな感じなのは所にいるということは把握した。〕
「さっきから何を見ているかと聞いただしとんのに、なぁ~にを突っ立っとんじゃ!」
「ガキはとっととお家に帰んな!それとも、痛い目にあいてぇのか!?あぁん!?」
〔うわぁ……これまた厄介な。〕
〔関わるのも面倒くさいし、とっととトンズラして―――〕
『 痛イ目を見るのは…… 』
「!?」
―――一瞬だったが、無意識のうちに身体は動いていた。
『 テメェらの方だ。』
ガシィ!
何の躊躇もなく、ただその首を握りしめていた。
それこそ、『時が止まったと認識される』ぐらいの速さで。
「アッ…うぅ…ッ!!」
〔―――おい…なんでオレ、勝手におっさんの首根っこ掴んでんだ!?〕
〔ぜんぜん、そんなこと思ってもなかったのに……!〕
「ガ……な…ニ、して…」
オレより少し大きいであろうおっさんをいとも簡単に持ち上げている。
手に伝わる感覚は、夢を見て感じてるというには、あまりにも生々しすぎる…!!
―――ゴギャァ!!
オレの手は、おっさんの首根っこを握り潰した。
その口からは、血と嘔吐物が飛び出てきた。
いとも簡単に握り潰してしまった…まるで、ペットボトルを潰すかのように…!!
『 フン…きたネェなぁ… 』
そのままオレは、おっさんを壁に叩き付けた。
ゴミを放り投げるかのように、軽く投げ捨てた。
バギゴシャァ……
投げ捨てられた死体から、大量の骨が折れる音。
軽くといっても、ぶつかっただけで多くの骨を折るほどに強く投げ捨てたのか…!?
「バ…化け物だ…」
「に、逃げるぞ!!さっさと逃げるぞ!!!!!」
「「ヒィィィィィィィ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」」
残りの二人も、たまらず逃げ出した。
〔正直言って、オレ自身も逃げ出したいさ。………だけどなぁ!〕
『 逃ガさん… 報いを受けロ……! 』
〔―――今逃げ出したいと思ってる相手は、オレ自身なんだよぉ!!!〕
ブオッ!!!
―――また一瞬で動いた。即席の突風かと思うぐらい速く動いた。
……ゴロン。ゴロン。
……そして振り返ると、残りの2人の首が転がっていた。
ふと目を向けると、オレの腕は鎌のような形状に変わっていた。
〔あ、ああ…………〕
きっとこの鎌で、あの2人の首を刎ねたんだろう。
〔……………………!!!〕
オレは悪人であらば容赦なく叩きのめしてきたが、せいぜい死なない程度に抑えていた。
どんな悪人だろうと、法律で裁かれるべしと。そう定められているなら、従うまでだ。
だが、今実際に見てる事と言えば、オレ自身がこの手で人を殺してしまったことだ…………!
『 ………… 』
〔―――ああうん。きっとこれは夢なんだ。いくらリアリティがあっても、所詮は夢の中で起きた幻。現実のオレには一切関係ない。きっと、きっとな!アハハハハハハ…………〕
『大丈夫ですか?』
先程とは打って変わって、優しめな雰囲気を出して喋った。
相手は高校生ぐらいの女の子。服装が少し乱れている。
「えっ…あ、はい。ありがとうございます…………」
女の子は少し泣いている。服装から、恐らく部活帰りの途中に出くわしたのだろうか。
―――すると。
『 そうですか。 』
『 それは良かった。 』
ヌルヌル…ぬちゃぬちゃ…
「え…ぁ…」
オレはおもむろに、女の子の耳に液体化させた腕を入れた。
『心配しなくてもいいですよ。ちょっと辛いことを忘れさせるだけです。』
…違う。
辛いことを忘れさせるなんて、人聞きのいいことを言ってはいるが―――
『 …埋入完了。 』
―――実際やっていることは、脳の中に身体の一部を埋め込んでいるだけだ!!
〔何を…何を企んでいるんだ!?〕
―――突然、激しい頭痛に襲われた。
〔ガッ・・・!?な、なんだ・・・!?これぇ!!〕
その時、声が聞こえてきた。
『〔人間というのは脆いものだ。すぐ何かと危機に陥って壊れちまう。だからオレは、オレを埋め込むことにした。細胞や生体因子の活動を活発化させるのはもちろんのこと、肉体的・精神的な不老長寿は約束されたようなものだ。〕』
何を・・・言って・・・!?
『〔まあ、しばらくの間は感情の抑制は効かなくなり繫殖欲求が異常なほど膨れあがるが、最終的には記憶すらオレに喰われ、赤ん坊のように泣きわめくようにしてある。何しろ身体はオレを埋め込んだ時のままだからなぁ。どうなるのか見当もつかねえや^^〕』
げ…外道だ…
オレ自身が、こんな外道だったなんて…!
今までのオレがして来た事は…全部『偽善』に過ぎなかったのか…!?
キィィィィィィィィィィィイィィン…………
―――また、頭痛がする。
〔な、ん、なん・・・だ・・・こ、レ……また、頭ガ…!〕
無情にもこの頭痛は問答無用で意識を奪う。
目の前の景色が、解像度を低くし、感覚を暗黒に引き落とす。
〔…………?〕
また、景色が変わった。
〔ここは…飲食店だろうか?〕
明るい雰囲気が持ち味を体現したような所だが、何故か賑わいが少ない気がする。
〔…………それで、この状況はどうなっているんだ?〕
身体一つ動かないのは変わらない。相も変わらず意識だけの状態だ。
まあ、こんな明確な状態なのもおかしいけどな。
『 ………… 』
〔あっ、動いた。〕
突然景色が動き始め、何処かにと向かう。
〔一体何処に行くんだ?〕
景色の感覚から、オレが天井に張り付いて何かを探しているということだけはなんとなく分かった。
『 ミツケタ… 』
そしてオレは突如動きを止め、ここで働く女性らしき人に近付き―――
ぐちゃ!ねちゃんちゃ!
「!!!」
その女性を取り込んでしまった。
その様子は、アメーバ状の生物が捕食をするようだった。
じっくり、じわじわと。相手の自我ごと、自身と同化するように蝕む。
『…………~ッ。』
背伸びをした。
他人の身体を奪い、自身に馴染ませるように。
『さぁ~て。せっかくだから運んでもらうか。』
そう言うと、オレは活動を抑え、奪った女性に身体を返す。
「あれ…?私、何を…?」
「お~い!■■■!!早くしてくれー!」
この女性を呼ぶ声だろうか。はっきりとは聞こえなかったが、誰かを待たせてることは確かだろう。
「あ、はーい!今行きまーす!!」
これは意識を共有しているからだろうか。
不思議と女性の身体に入ると、安らかな気持ちになる。
〔…ところで、状況としてはどうなっているんだ?〕
ふと、カレンダーを見る。
【2023年11月14日/本日西条会御一行様ご来店】
カレンダーにはそう書かれてあった。
〔…待て?2023年って、確か五年前だよな?それに、西条会って…まさか、あの西条会か!?〕
オレはふと思い出した。西条会大量猟奇殺人事件を。
とある食堂で、日本の裏社会を牛耳るとされていた異能指定暴力団である西条会の会員が、謎の猟奇的死体となった、最大級にして最悪の殺人事件の事を…!!
〔おい、まさか…オレが今いるのが、その西条会事件の発生現場かぁ!? …………いやいやいや。まさかそんなこたぁないだろぉ。もしそうだとしても、犯人を特定できるだけで、意識だけのオレがどうこう出来る問題じゃ…〕
「お待たせいたしました。西条会の皆様。」
そうこうしているうちに、それなりに広い所に出た。
「おぉ~?やっと来たか!」
「おやっさん、待たせたんとちゃいますかぁ?」
〔う~わぁ~。どこもかしこもヤクザヤクザヤクザ……早く出ていかないと…〕
「落ち着け、お前ら。貸切とはいえ、よそ様に迷惑を掛けん程度にはしゃぎやがれ。」
「「「「うっす!!!」」」
あれが当時の西条会の頭首、西条マサユキか。
優れた手腕で、東京の裏社会の王に君臨し、一代にして、多くの勢力から指示を受けている日本モンスター界のドン。
その頃は、政治活動にも精力的で、多くの政治家にも援助を行っていたな。
…やれやれ。悪のカリスマってのは、ああいう奴を指すんだろうな。
「それでは、ごゆっくり…」
「待ちな姉ちゃん。俺らと呑んでけや。」
オイオイオイ、誘って来やがったぞ…!
「え、ええと、その、私は…」
「気にすんなや。パーっと呑んで騒いでこうぜ?」
「「「「フヘヘヘ…」」」
〔―――これはやべぇ。〕
ブチン…
突如として店内は暗黒に包まれた。
「あぁ?こんな時に停電かよぉ。」
「オイ、おとなしくしとけよ。」
突如として騒ぎ出す一員達。
「まあ取り敢えず、明かりが戻すまで、座ってようぜ。」
「「「うい!」」」
こうして、西条会の一員はおとなしくなった。
『それでいいんだよ―――』
〔それでいいんだよ―――〕
そして、静寂な虐殺は人知れず始まった。
ある時は串刺しに、またある時は溺死させ、はたまたある時は四肢を全て斬り落とした。
決して被ることのない豊富な暗殺を、この一瞬で行った。
〔( ´Д`)=3 フゥ…疲れたぁ。〕
その時気付いた。
西条会大量猟奇殺人事件の犯人は、オレ自身だということに。
〔―――。〕
もう誤魔化しようはない。
本心だ。
この虐殺は、自らの意思にて行われ、それは余りにも無惨極まりないものだ。
〔―――あ。〕
また意識は消え失せる。
だけど今度は先ほどのような激しい痛みを伴うものじゃない。
心の底から優しい感覚で―――
「やあ~初めまして!いや、俺が君と会うのは初めましてと、訂正するところかな?」
「…誰だ、あんたは。」
今度は明確に身体の自由は効く。
だが、目の前のコイツとは何処かであったような感じはある。
それも、遥か昔に―――
「突然だけど、君には眠ってもらうね!」
「は?」
そして、視界が圧縮されるような感覚を最後に、心のつっかかえが消えた。
*=*=*=*=**=*=*=*=*=*=*=*=*=**=*=*=*=*=
「!?」
そして、気付いた時には深淵の入り口にいた。
「お疲れちゃ~ん!!!気分はどぉ~お?」
「……ああ。最高だよ。」
「ほえ?」
唐突に現れたもう一人のオレに、そう告げた。
「おやぁ?もう一人のオレさんよぉ~~~。本当にオレなら、これくらいで驚かれては困るなぁ^^」
煽る煽る。
「どういうこったい!オレが偽物だって言うのか!?」
「そうだ。もう猿芝居は十分だろ?八十神?」
オレはそう言った。
目の前の男に、嘗ての幼馴染の名を。
「―――――アッハハハハハ!!流石だなリューキ!まあ、お前なら俺のからくりは見抜けると思ったよ!!」
この純粋ゆえに含まれるおぞましい狂気に満ちた笑い。
間違いない。八十神磊徒《やそがみらいと》張本人だ!
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「まあ焦るなよリューキ。俺とオマエはいずれ会える。その時にきちんと話し合うとするか。」
そして、意識は光に飲まれていく。
きっと肉体が目覚めたんだろう。
「最後に一つだけ言っておく。現実に帰ったらこう言い放て。」
―――――――――。
そしてそのまま、オレの身体は目覚め、その言葉を発した。
当然、その後意識を失った。
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