8 / 10
厄日のサンドウィッチ。
しおりを挟む
……これはヒドい。
糸はほつれているし、生地の厚さも均等ではない。
色むらもヒドイし、正直鑑定スキルを使うまでもない。
私は内心ため息をつきながら、鑑定受付のカウンターに出された綿織物を見た。
どこぞのキャラバンだという話だったが、よくこんな品物を仕入れたな。
とても売り物に出来るような物ではない。
一応、目に集中して鑑定スキルを使ってみる。
鑑定結果は、やはり五反全て〈不可〉。
……最低でも2割くらいは、どうにか〈可〉に引っ掛かるものなのだが。
「申し訳ありません。こちら全て〈不可〉との鑑定結果なので、商業ギルドとしては鑑定書を出すわけにはいきません」
私の言葉に、小太りの中年男性はむっとした表情を浮かべた。
「いいから、鑑定書を出せ!」
「出来ません」
鑑定書は「商業ギルドとしてお墨付きを与えた」とイコールなのだ。
こんな代物に鑑定書を出すわけにはいかない。
信用問題に関わる。
中年男性は、ばんっとカウンターを叩き声をあらげた。
「いいから出せ! お前程度、どうとでもできるんだからな!」
はぁっ!?
何、脅して鑑定書をもぎ取ろうってこと!?
ふざけた事ぬかしてんじゃないわよ!
これでも、自分の仕事にはプライド持ってんだから!
この世界に迷い込んだ私が、仕事も住む所もどうにかなったのは鑑定スキルを持っていたからだ。
私と中年男性はカウンター越しに睨みあった。
「出せ!」
「出来ません!」
鑑定を待って並んでいた人達がざわつきだした。
そこへ商業ギルドの警備部門の人が現れ、中年男性に声をかけた。
「申し訳ありませんが、お引き取りを」
言葉遣いこそ丁寧なものの眼光は鋭く、腰に下げた剣の鞘に手をかけている。
抵抗するなら力ずくでも排除する気だ。
中年男性はちっと舌打ちをすると、カウンターにあった綿織物を持ち、逃げるように商業ギルドを出ていった。
ったく、なんなのよ、もう!
「お待たせしました。次の方、どうぞ!」
休憩時間になったので受付を交代する。
休憩室に入ると赤毛の女の子が声をかけてきた。
私と同じ鑑定部門に所属している子で、名前はフィア。
確か、私より2、3歳年下のはずだ。
「なつき、外に食べに行かなかったの? 珍しいじゃん」
「美味しいパン屋さんを見つけたから、今日は自分で作ってきたんだ」
丸い形のパンが主流の中、珍しく山型の食パンを焼いて売っている店を見つけたのだ。
同じテーブルにつくと、フィアは同情するように私を見た。
「変なのに、からまれてたね」
「ホントだよ」
「私も最初に来たのが変な人でさぁ、リラーナさんが交代してくれたんだよね」
確か、フィア達は2人とも早番だったはずだ。
「今日はブツメツってやつだよ、きっと」
「そ、そうだね」
誰だ、仏滅とか広めた日本人は!
いや、真珠国から伝わった言い回しの可能性もあるのか……?
「じゃあ、私戻るね」
「がんばってねー」
席を立つフィアに手を振り、私は作ってきたお昼ごはんをひろげた。
耳を切り落としたパンに、マスタードのような味がするハーブの葉を刻んでバターに混ぜたものを塗り、ワイルドボアのハムとトマトに似たレントという野菜を輪切りにして挟んできた。
ちなみに、切り落としたパンの耳はスカイビーの蜜を混ぜて甘くした牛乳に浸したものを軽く焼いて、おやつとして食べた。
休憩室に備品として置いてある紅茶も淹れた。
「いっただきまぁす!」
大きな口を開けてかぶりつく。
潰して食べるなど、邪道!!
厚めに切ったパンにピリ辛のバター。
少々クセのあるワイルドボアのハムは、香りの強い木でスモークしているらしく、逆に風味がアップしている。
歯応えのあるハムに酸味の強いレントが合わさり、たまらない美味しさだ。
「うっまぁ……!」
しばし無言で、サンドウィッチをひたすら咀嚼する。
美味しいものを食べると、嫌なこととか、どうでもよくなるよね……。
うん、大丈夫。
私は、この世界でもちゃんと幸せになるために頑張れる。
……ま、美味しいものさえあればいいっていう、お手軽な幸せだけどね。
糸はほつれているし、生地の厚さも均等ではない。
色むらもヒドイし、正直鑑定スキルを使うまでもない。
私は内心ため息をつきながら、鑑定受付のカウンターに出された綿織物を見た。
どこぞのキャラバンだという話だったが、よくこんな品物を仕入れたな。
とても売り物に出来るような物ではない。
一応、目に集中して鑑定スキルを使ってみる。
鑑定結果は、やはり五反全て〈不可〉。
……最低でも2割くらいは、どうにか〈可〉に引っ掛かるものなのだが。
「申し訳ありません。こちら全て〈不可〉との鑑定結果なので、商業ギルドとしては鑑定書を出すわけにはいきません」
私の言葉に、小太りの中年男性はむっとした表情を浮かべた。
「いいから、鑑定書を出せ!」
「出来ません」
鑑定書は「商業ギルドとしてお墨付きを与えた」とイコールなのだ。
こんな代物に鑑定書を出すわけにはいかない。
信用問題に関わる。
中年男性は、ばんっとカウンターを叩き声をあらげた。
「いいから出せ! お前程度、どうとでもできるんだからな!」
はぁっ!?
何、脅して鑑定書をもぎ取ろうってこと!?
ふざけた事ぬかしてんじゃないわよ!
これでも、自分の仕事にはプライド持ってんだから!
この世界に迷い込んだ私が、仕事も住む所もどうにかなったのは鑑定スキルを持っていたからだ。
私と中年男性はカウンター越しに睨みあった。
「出せ!」
「出来ません!」
鑑定を待って並んでいた人達がざわつきだした。
そこへ商業ギルドの警備部門の人が現れ、中年男性に声をかけた。
「申し訳ありませんが、お引き取りを」
言葉遣いこそ丁寧なものの眼光は鋭く、腰に下げた剣の鞘に手をかけている。
抵抗するなら力ずくでも排除する気だ。
中年男性はちっと舌打ちをすると、カウンターにあった綿織物を持ち、逃げるように商業ギルドを出ていった。
ったく、なんなのよ、もう!
「お待たせしました。次の方、どうぞ!」
休憩時間になったので受付を交代する。
休憩室に入ると赤毛の女の子が声をかけてきた。
私と同じ鑑定部門に所属している子で、名前はフィア。
確か、私より2、3歳年下のはずだ。
「なつき、外に食べに行かなかったの? 珍しいじゃん」
「美味しいパン屋さんを見つけたから、今日は自分で作ってきたんだ」
丸い形のパンが主流の中、珍しく山型の食パンを焼いて売っている店を見つけたのだ。
同じテーブルにつくと、フィアは同情するように私を見た。
「変なのに、からまれてたね」
「ホントだよ」
「私も最初に来たのが変な人でさぁ、リラーナさんが交代してくれたんだよね」
確か、フィア達は2人とも早番だったはずだ。
「今日はブツメツってやつだよ、きっと」
「そ、そうだね」
誰だ、仏滅とか広めた日本人は!
いや、真珠国から伝わった言い回しの可能性もあるのか……?
「じゃあ、私戻るね」
「がんばってねー」
席を立つフィアに手を振り、私は作ってきたお昼ごはんをひろげた。
耳を切り落としたパンに、マスタードのような味がするハーブの葉を刻んでバターに混ぜたものを塗り、ワイルドボアのハムとトマトに似たレントという野菜を輪切りにして挟んできた。
ちなみに、切り落としたパンの耳はスカイビーの蜜を混ぜて甘くした牛乳に浸したものを軽く焼いて、おやつとして食べた。
休憩室に備品として置いてある紅茶も淹れた。
「いっただきまぁす!」
大きな口を開けてかぶりつく。
潰して食べるなど、邪道!!
厚めに切ったパンにピリ辛のバター。
少々クセのあるワイルドボアのハムは、香りの強い木でスモークしているらしく、逆に風味がアップしている。
歯応えのあるハムに酸味の強いレントが合わさり、たまらない美味しさだ。
「うっまぁ……!」
しばし無言で、サンドウィッチをひたすら咀嚼する。
美味しいものを食べると、嫌なこととか、どうでもよくなるよね……。
うん、大丈夫。
私は、この世界でもちゃんと幸せになるために頑張れる。
……ま、美味しいものさえあればいいっていう、お手軽な幸せだけどね。
0
お気に入りに追加
8
あなたにおすすめの小説
無能なので辞めさせていただきます!
サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。
マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。
えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって?
残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、
無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって?
はいはいわかりました。
辞めますよ。
退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。
自分無能なんで、なんにもわかりませんから。
カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。
私、パーティー追放されちゃいました
菜花
ファンタジー
異世界にふとしたはずみで来てしまった少女。幸いにもチート能力があったのでそれを頼りに拾ってもらった人達と働いていたら……。「調子に乗りやがって。お前といるの苦痛なんだよ」 カクヨムにも同じ話があります。
私の代わりが見つかったから契約破棄ですか……その代わりの人……私の勘が正しければ……結界詐欺師ですよ
Ryo-k
ファンタジー
「リリーナ! 貴様との契約を破棄する!」
結界魔術師リリーナにそう仰るのは、ライオネル・ウォルツ侯爵。
「彼女は結界魔術師1級を所持している。だから貴様はもう不要だ」
とシュナ・ファールと名乗る別の女性を部屋に呼んで宣言する。
リリーナは結界魔術師2級を所持している。
ライオネルの言葉が本当なら確かにすごいことだ。
……本当なら……ね。
※完結まで執筆済み
姫騎士様と二人旅、何も起きないはずもなく……
踊りまんぼう
ファンタジー
主人公であるセイは異世界転生者であるが、地味な生活を送っていた。 そんな中、昔パーティを組んだことのある仲間に誘われてとある依頼に参加したのだが……。 *表題の二人旅は第09話からです
(カクヨム、小説家になろうでも公開中です)
【完結】6歳の王子は無自覚に兄を断罪する
土広真丘
ファンタジー
ノーザッツ王国の末の王子アーサーにはある悩みがあった。
異母兄のゴードン王子が婚約者にひどい対応をしているのだ。
その婚約者は、アーサーにも優しいマリーお姉様だった。
心を痛めながら、アーサーは「作文」を書く。
※全2話。R15は念のため。ふんわりした世界観です。
前半はひらがなばかりで、読みにくいかもしれません。
主人公の年齢的に恋愛ではないかなと思ってファンタジーにしました。
小説家になろうに投稿したものを加筆修正しました。
(完結)足手まといだと言われパーティーをクビになった補助魔法師だけど、足手まといになった覚えは無い!
ちゃむふー
ファンタジー
今までこのパーティーで上手くやってきたと思っていた。
なのに突然のパーティークビ宣言!!
確かに俺は直接の攻撃タイプでは無い。
補助魔法師だ。
俺のお陰で皆の攻撃力防御力回復力は約3倍にはなっていた筈だ。
足手まといだから今日でパーティーはクビ??
そんな理由認められない!!!
俺がいなくなったら攻撃力も防御力も回復力も3分の1になるからな??
分かってるのか?
俺を追い出した事、絶対後悔するからな!!!
ファンタジー初心者です。
温かい目で見てください(*'▽'*)
一万文字以下の短編の予定です!
【完結】拾ったおじさんが何やら普通ではありませんでした…
三園 七詩
ファンタジー
カノンは祖母と食堂を切り盛りする普通の女の子…そんなカノンがいつものように店を閉めようとすると…物音が…そこには倒れている人が…拾った人はおじさんだった…それもかなりのイケおじだった!
次の話(グレイ視点)にて完結になります。
お読みいただきありがとうございました。
うちの娘が悪役令嬢って、どういうことですか?
プラネットプラント
ファンタジー
全寮制の高等教育機関で行われている卒業式で、ある令嬢が糾弾されていた。そこに令嬢の父親が割り込んできて・・・。乙女ゲームの強制力に抗う令嬢の父親(前世、彼女いない歴=年齢のフリーター)と従者(身内には優しい鬼畜)と異母兄(当て馬/噛ませ犬な攻略対象)。2016.09.08 07:00に完結します。
小説家になろうでも公開している短編集です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる