男が怖い

桃青

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 私は注文取りに来た店員さんに、肉じゃがとウーロン茶を頼むと、それから後は大人しく、しばしの間男性陣の会話に耳を傾ける事にしたの。
 三田君は手元にある飲み物をグイッと煽るように飲んでは、言った。
「でもね、そもそも男と女の脳って、80%くらいは中身が違うらしいよ。
 この間テレビでそんな事を言ってた。」
「えっ、そうなの?」
 背が低くて可愛いウサギみたいな男の人が、大袈裟に驚いてみせて言った。
「そうなんだ。それじゃあそもそも最初から男と女が分かり合えなくても・・・。
 それは当然って事?」
 本田君は目の前に置かれたポテトフライを摘まみながら、三田君に訊ねた。
「まあ、たぶん。この説が本当だとしたら、そういう事になるだろうね。」
 三田君は少し考え深げに答えると、オタク青年(私が勝手にそう名付けたのです)は、気弱そうに言った。
「ということは・・・、お互いに何か通じ合っていると感じる、『恋』というのも・・・、所詮は幻、ということになるのかな?」
 するとスポーツマン青年(これも私が名付けました)は、彼にぐっと突っ込んで言った。
「おまえはさ、恋だけじゃなくて、現実世界の全てが“虚構”なんだろう?
 この妄想アニメオタク青年。」
「あ、あっ、言ったなあ、三井。」
 オタク青年は情けない声で言い返して、気弱く反抗を試みた。(でも私が見た所、迫力は全くなかったけれど。)
 … … …
 そこに注文した料理が運ばれてきた。私は店員さんから肉じゃがを受け取ると、テーブルの上に置いて、小さな声で頂きますと言ってから、早速箸を伸ばし、料理を食べてみた。
 私の隣でそんな私の有様を窺っていた本田君は、
「お味はどう?」
 と訊ねてきたので、私は感動に包まれながら言ったの。
「・・・凄く、美味しい。」
 スポーツマン青年、もとい、三井君は快活に、私に向かって質問してきた。
「井上さんはさあ、やっぱり女の人だから、料理とかするの?」
「はい、します。
 ときどき無性に手料理が食べたくなる事があって、そういう時に本を見たりしながら作ったりするんですけれど・・・。
 でもここのお店の料理みたいには、美味しくないです。」
「じゃあさ。今度俺に手料理を、作ってきてくれない?」
 私は三井君の問いに答えようとすると、その時本田君がいきなり会話に割って入り、言った。
「駄目だ。」
「・・・は?いきなりなんだよ、本田。」
「僕はお前の、そういう軽い部分を信用していないんだ。」
「ア?
 つまり何が言いたいんだよ、おまえは?」
 私はどうしたのだろうと思い、目を大きく見開いて本田君を見つめると、彼は真剣な瞳で、真っ直ぐ私の事を見つめていた。
 その時私は、その揺るぎない眼差しに、胸がズキンときたのだった。
 … … …
 するとウサギ青年は、そんな私達のやりとりを完全に無視して、自分の感じた事について素直に述べた。
「でも、もしかすると根本から男と女が違うからかもしれないけれど・・・。
 女性だけじゃなく男性だって、女の人が『怖い』と思うことってあるよね。女の人を苦手に感じる時があるっていうか・・・。」
「あ、分かるな~、ソレ。」
「確かにあるよな、そういう部分。」
 三田君とオタク青年が同意を示して、口々にそう言うと、どうやらすでにすっかり気を取り直した様子の三井君が、口を挟んだ。
「あのさ、あのね、俺は・・・、実は美人の女の人が苦手なの!」
「あっ、今僕の胸にずきんと来た、その言葉。
 うん、あるある。」
「分かるな~、それ。」
 三井君はさらに考えを深めて、自分の意見を述べた。
「もちろん綺麗な女の人をものにしたいという思いはさ、確かに俺の中に存在しているよ。
でもいざ目の前にしてみると、何だ、
 ・・・どうしたらいいのか分からなくなってしまうんだな、これが。」
「自分とは別世界の人間って感じがするよね。だから僕なんかが手を出しちゃいけないっていう・・・、」
 本田君がそう言って言葉に詰まると、私は彼に助け舟を出すように、こう言ったわ。
「分かります。」
「えっ?」
 男性陣一同は、一斉に奇声を発し、私を見た。
「私もハンサムだったり、綺麗な男の人っていうのは、・・・確かに見惚れはするけれど、あんまり得意じゃありません。」
「そうか、女の人もそうなんだ。」
 ウサギ青年は納得したように言った。
「私、昔からアイドルとか、ビジュアル系の人とかに、全然興味がなくて・・・。
 美しい人は自分とは別世界の人、と割り切って考えてしまう所があるので、そういう人が例えば私の恋人になったり、身近な存在になるとか・・・。
 そういう発想は殆どした事がないんです。」
「へぇ~。」
 男性陣は感心したように、声を揃えて感声を上げた。
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