男が怖い

桃青

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 当時、中学1年生だった私は、学校から家へ帰り、母と2人きりのお茶会を楽しんでいた。

 私が小学生から中学生へと進級すると同時に、両親との関係は、いつしかガラリと様変わりしていたのだった。

 かつて私が小学生の時には、母は毎日私の鞄の中身をチェックし、宿題の有無について必ず、きつく問責したものだ。正直言って、その頃私は、そんな母のおせっかいな態度が、心の底から嫌いだった。
 一方父は、母と対照的で、私には物凄く甘かった。それはまるで、口の中で蕩ける砂糖菓子のごとくだった。

 そして私に対していささか過干渉な、アメトムチである父と母は、たぶん2人で相談した結果なのだろう、私が中学生になった途端、2人で声を揃えたように態度を改めた。

 両親は私に対して、殆ど口出しをしないようになったのである。

 私はいきなり授けられたこの自由に、正直始めはどうしたらいいのか分からなくなり、戸惑ってしまったものだ。そんな父と母の態度が、寂しく感じられることも間々あった。

 でも母は、やはり私の様子が知りたかったのだろう、私が学校から帰ってくると、ティータイムの準備をして待っていて、長くはないけれども2人で話し合う時間を、毎日設けてくれた。
 そして気がつくと私は、小学生だった頃とは大分違う、やや大人な視点で、今まできちんと話し合おうとしなかったことも、このお茶会を通して、母と2人で色々話し合うようになっていたのである。
 
 ・・・きっとこれは母なりの、精一杯の思いやりだったに違いない。

 それで今私は母と紅茶を啜りながら、毎日の恒例であるお茶会の真っ最中だったというわけなのである。
 
私はふと思いついたことを、母に質問した。
「ねぇ、お母さん。」
「はい。」
「あのね、・・・子供ってどうやったらできるの?」
 ・・・そう、その頃の私は驚くべき事に、セックスについての予備知識が全くなかったのだ。
 すると母はこう答えた。
「サキ。(私の名前だ)それはね、コウノトリよ。」
「は?」
 私は意味が分からず母に問い質すと、母は何処か遠くに焦点を合わせ、片手を高く、空中に差し伸べてから言った。
「コウノトリがね、神様の指図に従って、赤ちゃんを運んでくるの。それがあなたのお腹までやってきてね、子供が宿るのよ。」
 母はまるで夢見るようにそう言うとその後、それ以上は何も言うまいといった感じで、深く押し黙ってしまった。それで私も何だかもう、何も聞けない気がして、さらに質問を押し進める事を止めてしまったのだった。
 ☆☆☆
 学校で女子だけが体育館に集められて、意味深な特別授業が開かれた後でも、どうやらもともとかなり鈍感であるらしい私は、ずっと母の言葉を信じていたの。
 その頃はまだ生理が始まっていなかったせいもあって、私の異性に対する知識は、長らく幼稚園児レベルを脱する事はなかった。

 だって、あの頃の私はこう思っていたものね。
 テレビドラマや映画で、男女が裸で睦み合う光景を見ても、
(あの人たちはあんな格好で、一体何をやっているのだろう?2人でバタバタしたり、奇声を発したりして・・・。
 もしかして、変態なの?)
 と思い、納得いかない気持ちで、その理由について考え込んだりしていた。

 でもそれから中学2年、3年、さらに高校生へと進学していくうちに、次第に周囲の友達と交わされる、恋だの愛だのといった、男と女についての深遠なる話題についていけなくなった私は、こう思って、やっと我に返ったのだった。
(・・・どうやら私は、男というものについて、何か勘違いしているらしいぞ。)

 だから、私は決めた。
 年頃の娘に対して、いささか思いやりが利きすぎたのだろうか、『コウノトリが云々・・・』のくだりしか説明しようとしない母の意見は、ひとまず無視する事にした。
 そして男女の関係についての真実を、己の力で解明してやろうと、私は思ったのである。

 後になって気付いたことだが、まあ冷静になって考えてみれば、常識から言っても、コウノトリが赤ん坊を運んでくるはずがなかった!
 ・・・何しろコウノトリはすでに、この日本では絶滅していたからである。(えっ、そういう問題ではないですって?)
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