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桃青

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56.白井の形

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 家の中に入ると、何ともがらんとした家だった。物がないわけじゃないのに、家が寂しそうな感じがする。勧められるまま、テーブルにつくと、白井は立ったまま言った。
「来ることは分かっていたよ」
 私も言う。
「なら、何で来たのかは、分かっている? 」
「もちろん。僕の試みを挫くためでしょう。僕は吉野さんに会いたいと思っていた」
「私に? 何故」
「あなたの能力を封じるために」
 そう言って、白井は指先をカタタと動かし始めた。
(私を調和させようとしている。完全なる調和へ、導こうとしているんだ)
 そう思い、私も細かく手を動かし始めた。
(白井のハーモニーを探る。私が『調和』させられる前に、理解して、歪みを正す)
(『完全』なる停止が、彼を包んでいる。いや? 違う。完全な停止は死と同義。これはフェイク、つまり作り物だ。この作り物の化けの皮を外す。歪ませるように圧力をかけて……)
(表層部分に決壊が起きた。ヘドロのようにたまった歪みが溢れて出てくる。まるで膿のよう。流れを起こせ。膿を全部洗い流せ)
 大丈夫、私はまだ力を使いこなせる。そのことを確認してから、さらに探りを入れた。
(この決壊は白井の能力が出入りする、ゲートの役割を果たすだろう。となると、決壊を決壊でなくなるようにしなければ。流れを引き寄せ強くして。そしてゲートをあるべき流れの一部にして。もっと流れて、お願い)
(停止によって生み出されたものの浄化は済んだ。決壊も融解している。あとはできてしまった穴を、パチンパチンとはめ込んで直してゆく)
(どうだろう。……大怪我が治った時のように、全てが自力で循環をし始めた。いいぞ。これが、歪みのない純粋な白井の形だ)
(これで、白井を一応、完全に調和させた気がするけれど……。その先にあるものは? )
(白井も私を調和させているはず。私はどうなったろう)
 その時、フッと意識が飛んだ。
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