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55.光
しおりを挟む「新しいですね」
「何が? 」
「確かに、雰囲気から察して歪みは感じるけど、普通の街では感じることのない、明るいオーラを感じます。光っていうか? 」
「いいことなの? 」
「俺には良さげに見えるけれど、実際に起きていることはそうじゃないんでしょ。水希さんは何か感じないんですか? 」
「今、探ってみる」
私はそう言って、空気を読んだ。確かに微かに明るい。新しい世界と新たな可能性。人々の連鎖によって生み出された、逆説的な切断。新しい力だからこそ、新しい繋がりができずにいるのだ。物凄く魅力的な異性のパワーが凄すぎて、告白できないような、良く例えれば、そんな感じがする。白井の場合は異性というより、悪魔というべきか。
たまにすれ違う人々も、何かを閉ざし、自分を守りつつ何かから逃げている。逃げてもどうしようもない、そんな白井の声が響き渡るかのようだ。私は言った。
「この気配が流れてくる方向は分かっているの」
「マジですか? で、どうするんです? 」
「流れを遡って行きましょう」
私は雄大君を先導して歩き出した。気の流れを感じていると、白井についてまで深く感じることになり、私は涙が零れそうになった。
悲しみ、絶望、孤立、哀愁。
彼の力によって結果的に生み出された、悲しみの記憶たち。
どんなに孤独だったろう。どんなに苦しい気持ちを乗り越えながら、ここまで来たろう。
一人で立ち、一人で世界と向き合った彼が出した答えが、これなのか。いや、答えじゃない。流れてこそ世界であり、停止によって生み出されているこの空間は、未来へ続かない作り物の世界にしかなれない。そのことに気付いてよ。
「あの前に見えてきた、殺風景な一軒家。あそこから何となく光を感じるんですけどね」
「私も同感。あの家へ行きましょう」
私達は無言で、足並みを揃えてその家まで行き、玄関のベルを押した。数秒の空白の後、ギイィィィィと扉が開いていき、中から白井タクヤがゆっくりと姿を現して言った。
「来たね」
私達がたじろいで立ち尽くしていると、彼は言う。
「どうぞ、家の中へ入れば? 」
私と雄大君は無言のまま頷き合うと、門を押し開き、中へ入っていった。
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