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38.両立はない
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「ある意味、白井タクヤの言うことは正しい」
「えっ。ロクなことをしないあいつの、どこに正しさが? 」
「人にはその人の形、分かりやすく言うと個性があって、思い描く理想像は多分、全ての人が違うんだよね」
「まぁ……。白井タクヤも何かしらのビジョンを元に、動いているのは分かります、確かに」
「彼は彼のビジョンを追い、私は私の『正しさ』の名の下に、ビジョンを追う。どちらも交わることはなく、いたちごっこが続いてしまう。馬鹿馬鹿しいような、仕方ないような、意味のないせめぎ合いが続く。調和師が一人なら、そんなことにはならないのに」
「ああ、調和師は一人でいいっていう、あいつの言葉か。でもそこを妥協して、大きな人間になるのが、人間の目的みたいなものでしょ。それが人としての成長の一つでもあるわけで。そ・れ・が、あ・い・つ・に・は・な・い。協力しあえるなら、調和師が二人いてもいいんですよ」
「ここのコーヒー美味しいね。二百五十円でこの味なんだ」
「そうすか。俺も運ばれてきたオムライス、冷めないうちに頂きます」
「私が言いたかったのは、彼から見て、私が本当に邪魔だろうな、と思ったということ」
「このオムライス、味濃い目で美味いです。白井タクヤが危険人物にならないといいですが」
「ん? 」
「水希さんを消してやるみたいなこと、チャットでぼやいていましたよね」
「言っていたね」
「俺の世界を壊すなら、その相手を殺すっていうのは、殺人犯によくある心理だと思います。だから水希さんをリアルに殺しに来る可能性も、あるかもしれない」
「少し怖いな。でも私はあの人と、ちゃんと話し合いたい。協力し合って、この力を真っ当に使わないかって、提案したいの」
「通じると思います? 」
「思えないな、今の所は」
「水希さん、俺も男ですから」
「うん、そうだけど? 」
「物理的な危害からは、俺が守ります、水希さんを」
「あ……、ありがとう」
私は少し驚きながら雄大君を見ると、私には目もくれず、ガツガツとオムライスを食べている。それでも彼の優しさはほんのり伝わってきた。
白井タクヤと私。どちらのビジョンが正しいかなんて、本当は分からない。私は私を貫き、彼は彼を貫く。それを罪と呼ぶのか。でもこのいたちごっこは、いつかは終わらせなくてはならず、となると。
私達が一つになるか、どちらかの力が消えるか。
今の所、それ以外の選択肢が分からずにいた。私は冷めたコーヒーを飲み干して、大きく息を吐いたのだった。
「えっ。ロクなことをしないあいつの、どこに正しさが? 」
「人にはその人の形、分かりやすく言うと個性があって、思い描く理想像は多分、全ての人が違うんだよね」
「まぁ……。白井タクヤも何かしらのビジョンを元に、動いているのは分かります、確かに」
「彼は彼のビジョンを追い、私は私の『正しさ』の名の下に、ビジョンを追う。どちらも交わることはなく、いたちごっこが続いてしまう。馬鹿馬鹿しいような、仕方ないような、意味のないせめぎ合いが続く。調和師が一人なら、そんなことにはならないのに」
「ああ、調和師は一人でいいっていう、あいつの言葉か。でもそこを妥協して、大きな人間になるのが、人間の目的みたいなものでしょ。それが人としての成長の一つでもあるわけで。そ・れ・が、あ・い・つ・に・は・な・い。協力しあえるなら、調和師が二人いてもいいんですよ」
「ここのコーヒー美味しいね。二百五十円でこの味なんだ」
「そうすか。俺も運ばれてきたオムライス、冷めないうちに頂きます」
「私が言いたかったのは、彼から見て、私が本当に邪魔だろうな、と思ったということ」
「このオムライス、味濃い目で美味いです。白井タクヤが危険人物にならないといいですが」
「ん? 」
「水希さんを消してやるみたいなこと、チャットでぼやいていましたよね」
「言っていたね」
「俺の世界を壊すなら、その相手を殺すっていうのは、殺人犯によくある心理だと思います。だから水希さんをリアルに殺しに来る可能性も、あるかもしれない」
「少し怖いな。でも私はあの人と、ちゃんと話し合いたい。協力し合って、この力を真っ当に使わないかって、提案したいの」
「通じると思います? 」
「思えないな、今の所は」
「水希さん、俺も男ですから」
「うん、そうだけど? 」
「物理的な危害からは、俺が守ります、水希さんを」
「あ……、ありがとう」
私は少し驚きながら雄大君を見ると、私には目もくれず、ガツガツとオムライスを食べている。それでも彼の優しさはほんのり伝わってきた。
白井タクヤと私。どちらのビジョンが正しいかなんて、本当は分からない。私は私を貫き、彼は彼を貫く。それを罪と呼ぶのか。でもこのいたちごっこは、いつかは終わらせなくてはならず、となると。
私達が一つになるか、どちらかの力が消えるか。
今の所、それ以外の選択肢が分からずにいた。私は冷めたコーヒーを飲み干して、大きく息を吐いたのだった。
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