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桃青

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37.ハブアブレイク

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 渋谷の雑踏は相変わらずで、その中に紛れてしまうと、さっきまで繰り広げていた戦いが、益々非現実的な存在に見える。ここにいる殆どの人達は、一生そんなものに触れないし、気付きもしないに違いない。雄大君は街を闊歩しながら言った。
「水希さん、そろそろ昼だし、時間もあるので、どこかでお茶しません? 」
「うん? いいけど……。次の予約は大丈夫なの? 」
「一時間くらいのフリータイムなら、余裕でありますよ。あそこの喫茶店、空いていそうなので入りましょうよ」
「なら、行こうか」
 私と雄大君は道路を横切って、穴場のような雰囲気漂う小さな喫茶店へ入っていった。中に入ると、驚いたことに目つきの悪い男性が、一人で店を切り盛りしている。私達が注文を済ませると、無言で頷いて店の奥へ消えてゆく。何だか面白い空気の店だなと思いながら、私は言った。
「雄大君、疲れていない? 」
「疲れているのは水希さんの方でしょ。へろっとしていますよ」
「うん。疲れた」
「この店、人があまりいなくてよかったですね。俺達、人の気に敏感だから、こう、疲れている時は、人が多いと余計疲れるんですよね」
「ありがとう」
「ん? 何が? 」
「私が疲れているのを知って、気をきかせてくれたんだね」
「褒めないでください。どうしたらいいか分からなくなりますから」
 そう言って、珍しく硬い表情で下を向いた雄大君を見つめながら、私は直ちに運ばれてきたコーヒーに口をつけつつ言った。
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