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桃青

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24.気配を探る

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 私はどんてんフラワー植物園のハーモニーに、耳を傾けだした。調和がズレたり、ひずんだりはしていないのだが、パワーが小さい。ふと足元に咲く、プリムラ・ジュリアンを見ると、植物らしい澄んだ力をぷくぷくと出している。花達は囁き合い、匂うような心地いい空気を出している。植物に間違いはない。それは最初から分かっていたことだった。
(となると、問題は働いている人間……)
 この温室に入ってから感じていることは、『支配』というキーワードだ。雄大君の言う通り、何か自由がない。非日常的な解放感を求めてここを訪れる人達は、自由の代わりに支配を感じて帰ってゆくことだろう。なるほど、客足が遠のくはずだと私は思った。

 否定の流れがある。NOという言葉がこの場を、どんてんフラワー植物園を、支配している。

 (実験)
 フッとそのワードが頭に浮かんだ。誰かがここで何かを試している。そのせいで、実験場であるこの場を支配する力が働き、結果として人々が逃げていったに違いない。
(つまり、人が来なくなったのは、副産物のようなもので、それが目的じゃなかったんだ)
(自然とある種のコミュニティーがあるこの場所で、新しい流れが流れ出した。その新勢力に負けて、自然なハーモニーが弱まり、本来ある心地良さまで奪われてしまった。きっとそう)
「水希さん」
 雄大君の言葉で、ハッと我に返った。私が彼の顔を見上げると、彼も私を見て怪訝な顔で言う。
「白いんですよね」
「何が? 」
「この植物園、白いオーラが充満しています。もちろん各々の人には、その人自身の色があるんですが、霧みたいに、ベースに白いオーラがまき散らされている」
「白井タクヤだ」
「へ?」
「雄大君、彼のオーラが白だって言っていたでしょ。そのオーラの影響で、この植物園が白く染まっているの」
「あいつがここにいる? 何やってんですか、こんな所で」
「自分の力を使って、練習を。言い方を変えれば、悪影響を及ぼしてしまう修行」
「他人に『悪』をもたらすのが目的なんですか? 」
「違う。悪い結果になっているだけであって、今の所、それが目的じゃない。白井タクヤがここにいて、実験をやめない限り、人が来ない状況が続くわ」
「そういや、数人アルバイトの子を雇ったって……。それから空気が変わったとか。その中に白井タクヤがいるとか? 」
「その可能性は、十分ある」
「水希さんの力でどうにかできないですか」
「そうだね。ちょっとやってみる」
 私はそう言ってから、深呼吸をして、この温室に漂う気配と向き合った。
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