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桃青

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11.感じる

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 立ち並ぶ大木。木立。草や雑草。鳥。カラス。それから静けさ。
(ちょっと流れが悪いな。少しだけ良くしてみようか)
 私は手を細かく動かしながら、調和を整えだした。
(止まっているものを、少し壊して。あ、流れ始めた。少しずつ流れが強くなってゆく)
 風が吹いた。白い気配を感じる。たゆたう空気に様々な方向性が生まれていく。光りながらあちこちに広がり、何かを新鮮にする。
(自然の力だ)
 私は胸の中で呟いた。流れ始めて、自然の力が加われば、後は特にするべきことはない。良かれ悪しかれ、何らかの形が整いだす。自然が作り出す造形物。どういうものであれ美をはらんでおり、存在する意義があるものだ。私はその形ができてゆく有様を見守った。
(私も自然の一つ。特異故にそう思えないこともあるけれど、そう信じていいですか、神様)
 私は多分神と呼ばれる何者かに問うた。そもそも返事ははなから期待していない。言葉はわんわんとした響きを持って、森の中へ染み込んでいった。微かに何かがズレるが、ゆるゆると調和の波に溺れて、一つになってゆく、まるで不自然さを否定するように。私は幼いころから、この森や林にどれだけ癒されてきたか分からない。

 ―水希、どんな感じだ?

 私がまだ子供と呼ばれていたころ、父が調和についてコーチ役を果たしてくれた時に、何度も言った言葉だ。私は気持ちいいとか、楽しいとか、素直に湧き上がる感情をいつも父に伝えていたはずだ。
(どんな感じって……)
 私は心でそう言いながら、今の自分の気持ちを探る。
 森は完璧だ。不完全さがあちこちにチラチラ見えたりするが、それすら神のような絶対的存在であり、私がどうこうできるものではない。森の流れは相変わらず気持ちがいい。
(でも……)
 私は呟いた。不安。いつごろからだろう、主のように、私の心の片隅に不安が住み着くようになった。
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