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桃青

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 そう言うと父は大きく深呼吸をして、空を眺めた。私も空を眺める。空って果てがない。私は自分と同類の人に会うということが、本当にこの空のように、果てしなく『無い』ことだと思っていた。でもシンプルに考えれば、私がいるのなら、誰かが他にいてもおかしくないはずだ。その出会いが現実的に迫ってきたこの感覚。怖くもあったが、楽しみな気持ちもある。それなのに―。
 父が口を開いた。
「父さんは水希の味方だが、」
「うん」
「お前がかわいそうだなと思うこともあったよ。何というか、仲間に出会ったことがないだろう、自分の思うことを正直に話した時に、共感してくれる人に。なんとも孤独じゃないか。それがいるとするなら―」
「奇跡に近い出会いだよね」
「うん。いい出会いになるだろうと思ったんだが、そうじゃないのか」
「……父さんなら分かってくれると思ったんだ、今私が抱いている複雑な気持ちを」
「会いたいけれど、会うなら会うで、不安ってことか」
「そう。自分の力の、ある意味異常な所を知っているから、同じことができる人はやっぱり、どこか異常なんだと思うの。自分のことを分かっている分、怖くもある。どんなことをしてくるのだろうって」
「異常というよりも、特異なんだと思うよ。同音異義語で得意、つまり優れているとも言えるだろう? 良い言い方をするならば」
「特異と得意か……」
「そうそう。水希、原点回帰してみたらいい」
「うん? 」
「この森で昔、私と色々試したよな。水希の言うハーモニーを探し求めて。あの感覚を、ここでもう一度探ってみたら」
「調和について理解し直せ、ってこと? 」
「まあそんな所だ。父さんはお前の感覚を推察することしかできないから、昔の練習を思い出しつつ、自分の力について理解し直してみたらどうだろうと。何となくそう思っただけなんだが」
「いいかもしれない。ありがとう、とてもいいことを聞けた気がする」
「なら、私は仕事に戻るからね。水希は昔から私を、大なり小なり振り回してきたが、何というか、憎めない所が長所というか、利点というのか」
「ふふ。父さんは仕事に戻って。私はここで、これから色々試してみる」
「森をぶっ壊さないでくれよ。じゃあな! 」
 父はそう言うとベンチから立ち上がり、私の肩をポン! と叩いてから、小走りで事務所へ戻っていった。その後ろ姿を目で追うと、私は我に返り、すっと立ち上がって、心を落ち着かせながら、辺りの気配を探る。
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