極悪人

桃青

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 家族に今の心境を話してすっきりした僕は、夕食を食べ終えてから実家を後にして、自分の自宅へ帰る夜道を歩き始めた。そしてその道すがら、僕は携帯電話を取り出して、何となく彼女のミキに、電話を掛けてみる事にした。

「・・・ハイ?」
「あ、ミキ?僕です。ケンちゃんですけれど・・・。」
「ああ、はい。どうかしたの?」
「うん。さっきまで実家にいたんだけれど、何だか今、頭の中がモヤモヤしていて・・・、」
「ウン。」
「それにミキにちょっと聞いてみたい事があって、電話を掛けたんだ。」
「ウン。それは何?」
「あのさ。僕って・・・、
 悪人かな?それとも善人かな?」
「また、随分と哲学的なテーマね。ケンちゃん、もしかして今、人生について何か悩んだりしているの?」
「まあ、そんな所だ。」
「そうね、そんな事を考え始めたら、何だか眠れなくなりそうだけれど・・・。

 私は、人間である限り、そもそもその定義に当てはめるのには、無理があると思う。
きっと、善人も悪人も表裏一体なのよ。
誰しもがその両方の顔を持っているでしょ?そしてケースバイケースでその2つを、使い分けているの。・・・そうやって社会との歩調を、みんなうまく合わせていく。」
「たぶん、ミキの言う通りだと思う。」
「でもどうあろうと、ケンちゃんはケンちゃんじゃない。
 私は悪かろうとよかろうと、全部ひっくるめてケンちゃんの事が好きなの。それが私の答えだよ。」
「・・・僕も、そう言ってくれるミキの事が好きだ。」
「もう。そんなあけすけな告白で、私を惑わさないで。今ちょっとドキッとしちゃった。
 じゃあ、納得がいった?
他に話す事がないなら、電話を切るけれど。私、明日仕事があるし。」
「うん、じゃあ僕も電話を切るよ。
 ・・・ありがとう、ミキ。」
「いえいえ。じゃあ、ラヴ・ユー☆
 おやすみ、ケンちゃん。」
「おやすみ。」
 ミキとの電話はそこで切れた。
☆☆☆
 つまりだ。

 善行は善行であり、罪は罪である。

 その真実が揺らぐことはないが、仮にどちらに傾いだとしても、

 ―僕が僕であることに変わりはない。

 それがただ一つの答えであって、僕が僕である事については、正しいだの間違っているだのという判断を超越して、
 ・・・何も悪い事はないのだ。
 
 それよりも、僕が最も恐れるべき事は、僕自身のモラルに反する事なのだ。

 たとえ世間から、悪人だとか、善人だとか言われようとも、僕は揺らぐことなく、これからはずっと・・・、

 僕らしくありたい。

 ☆☆☆
 そんな事を思って、僕は夜空を見上げた。空では都会特有の黒い空の中に、わずかな星たちが瞬いていたが、その星の彼方、宇宙に存在する何かが、何だかそっと僕の背中を、押してくれている気がした。

 きっと、僕は大丈夫。

 僕は感謝を込めて、空に向かって小さく手を振ると、小声で、
「ありがとう。」
 と呟いた。それから後は家路を、迷う事なくしっかりと歩き始めたのだった。
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