13 / 13
13.
しおりを挟む
家族に今の心境を話してすっきりした僕は、夕食を食べ終えてから実家を後にして、自分の自宅へ帰る夜道を歩き始めた。そしてその道すがら、僕は携帯電話を取り出して、何となく彼女のミキに、電話を掛けてみる事にした。
「・・・ハイ?」
「あ、ミキ?僕です。ケンちゃんですけれど・・・。」
「ああ、はい。どうかしたの?」
「うん。さっきまで実家にいたんだけれど、何だか今、頭の中がモヤモヤしていて・・・、」
「ウン。」
「それにミキにちょっと聞いてみたい事があって、電話を掛けたんだ。」
「ウン。それは何?」
「あのさ。僕って・・・、
悪人かな?それとも善人かな?」
「また、随分と哲学的なテーマね。ケンちゃん、もしかして今、人生について何か悩んだりしているの?」
「まあ、そんな所だ。」
「そうね、そんな事を考え始めたら、何だか眠れなくなりそうだけれど・・・。
私は、人間である限り、そもそもその定義に当てはめるのには、無理があると思う。
きっと、善人も悪人も表裏一体なのよ。
誰しもがその両方の顔を持っているでしょ?そしてケースバイケースでその2つを、使い分けているの。・・・そうやって社会との歩調を、みんなうまく合わせていく。」
「たぶん、ミキの言う通りだと思う。」
「でもどうあろうと、ケンちゃんはケンちゃんじゃない。
私は悪かろうとよかろうと、全部ひっくるめてケンちゃんの事が好きなの。それが私の答えだよ。」
「・・・僕も、そう言ってくれるミキの事が好きだ。」
「もう。そんなあけすけな告白で、私を惑わさないで。今ちょっとドキッとしちゃった。
じゃあ、納得がいった?
他に話す事がないなら、電話を切るけれど。私、明日仕事があるし。」
「うん、じゃあ僕も電話を切るよ。
・・・ありがとう、ミキ。」
「いえいえ。じゃあ、ラヴ・ユー☆
おやすみ、ケンちゃん。」
「おやすみ。」
ミキとの電話はそこで切れた。
☆☆☆
つまりだ。
善行は善行であり、罪は罪である。
その真実が揺らぐことはないが、仮にどちらに傾いだとしても、
―僕が僕であることに変わりはない。
それがただ一つの答えであって、僕が僕である事については、正しいだの間違っているだのという判断を超越して、
・・・何も悪い事はないのだ。
それよりも、僕が最も恐れるべき事は、僕自身のモラルに反する事なのだ。
たとえ世間から、悪人だとか、善人だとか言われようとも、僕は揺らぐことなく、これからはずっと・・・、
僕らしくありたい。
☆☆☆
そんな事を思って、僕は夜空を見上げた。空では都会特有の黒い空の中に、わずかな星たちが瞬いていたが、その星の彼方、宇宙に存在する何かが、何だかそっと僕の背中を、押してくれている気がした。
きっと、僕は大丈夫。
僕は感謝を込めて、空に向かって小さく手を振ると、小声で、
「ありがとう。」
と呟いた。それから後は家路を、迷う事なくしっかりと歩き始めたのだった。
「・・・ハイ?」
「あ、ミキ?僕です。ケンちゃんですけれど・・・。」
「ああ、はい。どうかしたの?」
「うん。さっきまで実家にいたんだけれど、何だか今、頭の中がモヤモヤしていて・・・、」
「ウン。」
「それにミキにちょっと聞いてみたい事があって、電話を掛けたんだ。」
「ウン。それは何?」
「あのさ。僕って・・・、
悪人かな?それとも善人かな?」
「また、随分と哲学的なテーマね。ケンちゃん、もしかして今、人生について何か悩んだりしているの?」
「まあ、そんな所だ。」
「そうね、そんな事を考え始めたら、何だか眠れなくなりそうだけれど・・・。
私は、人間である限り、そもそもその定義に当てはめるのには、無理があると思う。
きっと、善人も悪人も表裏一体なのよ。
誰しもがその両方の顔を持っているでしょ?そしてケースバイケースでその2つを、使い分けているの。・・・そうやって社会との歩調を、みんなうまく合わせていく。」
「たぶん、ミキの言う通りだと思う。」
「でもどうあろうと、ケンちゃんはケンちゃんじゃない。
私は悪かろうとよかろうと、全部ひっくるめてケンちゃんの事が好きなの。それが私の答えだよ。」
「・・・僕も、そう言ってくれるミキの事が好きだ。」
「もう。そんなあけすけな告白で、私を惑わさないで。今ちょっとドキッとしちゃった。
じゃあ、納得がいった?
他に話す事がないなら、電話を切るけれど。私、明日仕事があるし。」
「うん、じゃあ僕も電話を切るよ。
・・・ありがとう、ミキ。」
「いえいえ。じゃあ、ラヴ・ユー☆
おやすみ、ケンちゃん。」
「おやすみ。」
ミキとの電話はそこで切れた。
☆☆☆
つまりだ。
善行は善行であり、罪は罪である。
その真実が揺らぐことはないが、仮にどちらに傾いだとしても、
―僕が僕であることに変わりはない。
それがただ一つの答えであって、僕が僕である事については、正しいだの間違っているだのという判断を超越して、
・・・何も悪い事はないのだ。
それよりも、僕が最も恐れるべき事は、僕自身のモラルに反する事なのだ。
たとえ世間から、悪人だとか、善人だとか言われようとも、僕は揺らぐことなく、これからはずっと・・・、
僕らしくありたい。
☆☆☆
そんな事を思って、僕は夜空を見上げた。空では都会特有の黒い空の中に、わずかな星たちが瞬いていたが、その星の彼方、宇宙に存在する何かが、何だかそっと僕の背中を、押してくれている気がした。
きっと、僕は大丈夫。
僕は感謝を込めて、空に向かって小さく手を振ると、小声で、
「ありがとう。」
と呟いた。それから後は家路を、迷う事なくしっかりと歩き始めたのだった。
0
お気に入りに追加
0
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
金サン!
桃青
ライト文芸
占い師サエの仕事の相棒、美猫の金サンが、ある日突然人間の姿になりました。人間の姿の猫である金サンによって引き起こされる、ささやかな騒動と、サエの占いを巡る真理探究の話でもあります。ライトな明るさのある話を目指しました。
そこは、私の世界でした
桃青
ライト文芸
平凡な毎日を送っていたはずの、林波。だが、ある日頭が混乱し、それをきっかけに、夢の中で自分の世界の再構築を始める、aoという謎の男性と共に。自分の世界というワンダーランドで、自助をしていく物語です。ファンタジーだけど、現実に根付いた、純文学のつもりです。
秘密部 〜人々のひみつ〜
ベアりんぐ
ライト文芸
ただひたすらに過ぎてゆく日常の中で、ある出会いが、ある言葉が、いままで見てきた世界を、変えることがある。ある日一つのミスから生まれた出会いから、変な部活動に入ることになり?………ただ漠然と生きていた高校生、相葉真也の「普通」の日常が変わっていく!!非日常系日常物語、開幕です。
01
ボイス~常識外れの三人~
Yamato
ライト文芸
29歳の山咲 伸一と30歳の下田 晴美と同級生の尾美 悦子
会社の社員とアルバイト。
北海道の田舎から上京した伸一。
東京生まれで中小企業の社長の娘 晴美。
同じく東京生まれで美人で、スタイルのよい悦子。
伸一は、甲斐性持ち男気溢れる凡庸な風貌。
晴美は、派手で美しい外見で勝気。
悦子はモデルのような顔とスタイルで、遊んでる男は多数いる。
伸一の勤める会社にアルバイトとして入ってきた二人。
晴美は伸一と東京駅でケンカした相手。
最悪な出会いで嫌悪感しかなかった。
しかし、友人の尾美 悦子は伸一に興味を抱く。
それまで遊んでいた悦子は、伸一によって初めて自分が求めていた男性だと知りのめり込む。
一方で、晴美は遊び人である影山 時弘に引っ掛かり、身体だけでなく心もボロボロにされた。
悦子は、晴美をなんとか救おうと試みるが時弘の巧みな話術で挫折する。
伸一の手助けを借りて、なんとか引き離したが晴美は今度は伸一に心を寄せるようになる。
それを知った悦子は晴美と敵対するようになり、伸一の傍を離れないようになった。
絶対に譲らない二人。しかし、どこかで悲しむ心もあった。
どちらかに決めてほしい二人の問い詰めに、伸一は人を愛せない過去の事情により答えられないと話す。
それを知った悦子は驚きの提案を二人にする。
三人の想いはどうなるのか?
【完結】ある神父の恋
真守 輪
ライト文芸
大人の俺だが、イマジナリーフレンド(架空の友人)がいる。
そんな俺に、彼らはある予言をする。
それは「神父になること」と「恋をすること」
神父になりたいと思った時から、俺は、生涯独身でいるつもりだった。だからこそ、神学校に入る前に恋人とは別れたのだ。
そんな俺のところへ、人見知りの美しい少女が現れた。
何気なく俺が言ったことで、彼女は過敏に反応して、耳まで赤く染まる。
なんてことだ。
これでは、俺が小さな女の子に手出しする悪いおじさんみたいじゃないか。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる