極悪人

桃青

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 俺はボロボロの体を何とか支えて、壁に寄りかかり、ひとつ大きな溜め息を吐いてから、
 思わず、
「いってーーー。」
 と声に出していた。するとそこに、
「ケンちゃん!」
「大丈夫?」
 と言いながら、サトシとシュンが一目散に僕の元へ駆け寄ってきたのだった。俺はちらと2人を横目で見ると、
「何で・・・、2人とも助けに来てくれなかったの?」
 と思わず文句を言った。すると2人は顔を見合わせて、もじもじしながら、
「・・・だってさ、」
「・・・ねぇ?」
 と覚束ない事を言う。だがシュンは急に話をずらして、目をキラキラさせながら俺に話を振った。
「でもさ、ケンちゃん。・・・ケンちゃんってやっぱり凄いよ!
 だって怖い人達を3人も相手にして、1人で戦って、しかも女の人を守るなんて。
 僕だったらとても・・・、怖くてそんな事できないよ。」
「・・・そうか。俺って、冷酷だった?」
 俺は2人にそう訊ねると、サトシは目を輝かせて言った。
「ううん、冷酷どころか、善良そのものって感じだった。
 まるで陰ながら善行を積む、修行僧みたいに見えたよ。」
「・・・修行僧ね。」
 そう言われると、俺は体中の力が抜けて、俺の求める理想像がガラガラ崩れ落ちていく音を、その時確かに感じていた。
 ☆☆☆
 俺の心の中を覗いてみれば、全く俺は善良なんかではなく、むしろろくでもない人間であるという事が、誰にでも分かってもらえるはずだ。
 
 だが、幸か不幸か、人間はテレパシーが使えるようには出来ていない。
 俺の本心は誰にとっても、謎のままだ。
 … … …
 何故なんだろう。
 俺は悪人を目指しているつもりなのに、そうなろうと必死に足掻いていると、ますます、
『俺は善人です。』
 ・・・という、俺にとっては真逆の、有難くない噂が、広がっていっている気がする。
 この、まるででき損ないの笑劇の主人公になって、無様な役柄を飽きる事なく演じ続けているかのような、俺の毎日。
 そして俺の前にずっしりと、立ちはだかっているこの矛盾。ああ。

 ―俺の何かが間違っているのか。それとも世の中の方がおかしいのか?

 俺はいつしか自分のあり方について、踏み迷い始めていた。そして、俺の心の内を、
 全部、全部!
 ・・・誰かに打ち明けて相談してみたいという欲求に、駆られていったのである。
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