極悪人

桃青

文字の大きさ
上 下
5 / 13

5.

しおりを挟む
 俺がどんどん、構うことなくチンピラと女の子に向かって近づいていくと、
「助けて!」
 と悲痛な叫び声を上げた女の子が、俺の存在に気が付いて助けを求めた。すると、その声で男共は、彼らに向かって猛突進してくる俺を認めて、一旦動きを止めた。
 目をキラキラさせて俺は、彼らのすぐ側まで行くと、3人の男達は、キンキンに張りつめた瞳で俺を見つめ、無言の圧力をずんずんかけてくる・・・。
 その怖い雰囲気にゾクゾクして、俺は思わずこう呟いたものだ。
「・・・カッコいい。」
 するとチンピラ3人組の中でも、おそらく一番年の若い、(もしかしたら俺より若いかもしれない)髪を肩まで伸ばした男が、1歩俺に向かって進み出て言った。
「はあぁ?何だ、お前?
 ・・・何ぶつぶつ言ってんだ。」
「かっこいいですよね、あなたたち。」
 俺が少しうっとりとしてそう言うと、その男はますます目を剝いて、一声叫んだ。
「・・・はあ?」
 俺は特に敵意がないという事を示すために、その3人組に笑みを湛えて、気さくに声を掛けたさ。
「あの、・・・もしよかったら俺も、仲間に入れて下さい。」
 すると彼らは一斉に黙り込んだ。そして無理矢理掴んでいた女の人の手を離し、(その直後、彼女は逃げ去るネズミのような猛スピードで駆け出しては、何処かへと消えていった。)気がつくと3人で円陣を組んで、俺を取り囲んでいた。

 俺は次第に空気がどんどん悪くなっていく様子を、まるで冷気でも感じるように、肌身にビンビン感じ続けていたが、それでも友好的な態度は崩さず、希望を持ち、明るく彼らに向かって話し続けた。
「あの、僕は・・・、いや、俺も、ぜひあんな可愛い女の子と関係を持ちたかったんです。
 だから、その・・・、」
「なめてんじゃねえぞ、コラァ!」
 髪の長い、若いチンピラが再び叫んだ。俺は弁解するように言った。
「いや違います、決してなめているわけではなく、つまり・・・、」
「―つまりだ。

 あんたは、俺達の邪魔をしに来たんだろう。」
 一番太ってがたいのいい、スキンヘッドの男が、ねめつけるように俺を見て、そう言った直後。
 強烈なアッパーカットが俺を襲った。

 その後に繰り広げられた、3人のチンピラが俺に浴びせかける暴力は、止まる所を知らなかった。
「ぎゃあ!」
「痛い!」
「誰か!」
「やめて!助けて!」
 と俺は様々な叫び声を上げたが、そこに救いの手が、どこからも差し伸べられることはなく、長々とむごい暴力が続けられた。
「おい、ちょっと待て。」
 茶色のサングラスを掛けている、この3人の中では一番ちんまりとしたサイズの男がそう言うと、やっと暴行はいったん収まりを見せた。そして喘ぎながら、ボロボロになって地面に蹲っている俺に向かって、彼は話し掛けてきた。
「おい、あんたさ。女の子には逃げられちまったし、俺らは目的を果たし損ねたし。
 ・・・この落とし前を、どうやってつけてくれるんだ?」
「あの、・・・本当にすみません。俺は別にそんなつもりではなくって・・・、」
「そんなつもりも、こんなつもりもねぇんだよ。
 そうだな、だがただ一つ、簡単な解決方法があるにはある。」
「えっ、それは・・・?」
「財布を出しな。」
 男はそう言うと、俺に向かって手を差し出した。それからその手に捕まって、やっとの事で立ち上がった俺は、ジーパンのポケットから財布を取り出して、素直にその男に手渡した。
すると彼は手早く財布の中を開いて、手際よく中に入っているお札だけを綺麗に全部抜き取ると、(それは本当に手慣れた手つきだった)金額を確認して、(全部で3万3千円もあったのだ。俺は今でもその金額を忘れる事ができずにいる。)すっからかんになった財布を俺に投げつけて言った。
「今日の所はこれでチャラにしておいてやる。
 これに学んでもう二度と、・・・馬鹿な真似をしようとするなよ。」
 そう凄んでみせてから、彼らは顔を見合わせて頷き合うと、惨めな僕を置き去りにして、何処かへと姿を消していったのである。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ネコと寄り道

桃青
ライト文芸
主人公の岬が、心専門の相談所に勤めながら、仲間と共に、ささやかな悟りを開いていく物語。飼いネコのくろねこ、ミチも、大いに活躍(?)します。

空想トーク

桃青
ライト文芸
孤独なカウンセラーと少女が出会い、小さな奇跡を起こす話です。

ドリンクカフェと僕

桃青
ライト文芸
主人公の友達が開く店、ドリンクcafe。そこをめぐり、様々な内省が渦巻き、主人公は最後に、ひとつの結論に辿り着きます。小説家を目指す主人公の小さな心の旅。

金サン!

桃青
ライト文芸
 占い師サエの仕事の相棒、美猫の金サンが、ある日突然人間の姿になりました。人間の姿の猫である金サンによって引き起こされる、ささやかな騒動と、サエの占いを巡る真理探究の話でもあります。ライトな明るさのある話を目指しました。

そこは、私の世界でした

桃青
ライト文芸
平凡な毎日を送っていたはずの、林波。だが、ある日頭が混乱し、それをきっかけに、夢の中で自分の世界の再構築を始める、aoという謎の男性と共に。自分の世界というワンダーランドで、自助をしていく物語です。ファンタジーだけど、現実に根付いた、純文学のつもりです。

秘密部 〜人々のひみつ〜

ベアりんぐ
ライト文芸
ただひたすらに過ぎてゆく日常の中で、ある出会いが、ある言葉が、いままで見てきた世界を、変えることがある。ある日一つのミスから生まれた出会いから、変な部活動に入ることになり?………ただ漠然と生きていた高校生、相葉真也の「普通」の日常が変わっていく!!非日常系日常物語、開幕です。 01

ボイス~常識外れの三人~

Yamato
ライト文芸
29歳の山咲 伸一と30歳の下田 晴美と同級生の尾美 悦子 会社の社員とアルバイト。 北海道の田舎から上京した伸一。 東京生まれで中小企業の社長の娘 晴美。 同じく東京生まれで美人で、スタイルのよい悦子。 伸一は、甲斐性持ち男気溢れる凡庸な風貌。 晴美は、派手で美しい外見で勝気。 悦子はモデルのような顔とスタイルで、遊んでる男は多数いる。 伸一の勤める会社にアルバイトとして入ってきた二人。 晴美は伸一と東京駅でケンカした相手。 最悪な出会いで嫌悪感しかなかった。 しかし、友人の尾美 悦子は伸一に興味を抱く。 それまで遊んでいた悦子は、伸一によって初めて自分が求めていた男性だと知りのめり込む。 一方で、晴美は遊び人である影山 時弘に引っ掛かり、身体だけでなく心もボロボロにされた。 悦子は、晴美をなんとか救おうと試みるが時弘の巧みな話術で挫折する。 伸一の手助けを借りて、なんとか引き離したが晴美は今度は伸一に心を寄せるようになる。 それを知った悦子は晴美と敵対するようになり、伸一の傍を離れないようになった。 絶対に譲らない二人。しかし、どこかで悲しむ心もあった。 どちらかに決めてほしい二人の問い詰めに、伸一は人を愛せない過去の事情により答えられないと話す。 それを知った悦子は驚きの提案を二人にする。 三人の想いはどうなるのか?

【完結】ある神父の恋

真守 輪
ライト文芸
大人の俺だが、イマジナリーフレンド(架空の友人)がいる。 そんな俺に、彼らはある予言をする。 それは「神父になること」と「恋をすること」 神父になりたいと思った時から、俺は、生涯独身でいるつもりだった。だからこそ、神学校に入る前に恋人とは別れたのだ。 そんな俺のところへ、人見知りの美しい少女が現れた。 何気なく俺が言ったことで、彼女は過敏に反応して、耳まで赤く染まる。 なんてことだ。 これでは、俺が小さな女の子に手出しする悪いおじさんみたいじゃないか。

処理中です...