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その日、俺は恋人のミキの自宅で、彼女と2人で午後のお茶を楽しんでいた。
俺は、まるでイギリス紳士のように、お茶の時間が大好きなのだ。甘ったるい紅茶とクッキーを食べながら、何処かヨーロッパの退廃的な、(そうなのか?)雰囲気すら醸し出される、このゆるりと流れていくひと時。
それはなかなか贅沢な時間だと、俺は思っている。素晴らしい。
俺とミキは、ちゃぶ台の回りに腰掛け、お茶を口に運びながら、2人で顔を見合わせて微笑み合った。彼女は片手を頭にやって、ショートカットの髪をくしゃっとさせてから、俺に訊ねた。
「どう?この紅茶、おいしい?」
「うん、おいしい。
・・・これ、紅茶なのに、まるでオレンジみたいな匂いがするんだね。素敵だ。
それにお茶に添えられているクッキーも、カラメルの味がして美味しいよ。」
「ケンちゃん、紅茶とクッキーが大好きだものね。だから今日はちょっと奮発したの。
この紅茶、無農薬栽培で作られたアールグレイで、なんと、100グラムで千円もするんだよ。」
「えっ、千円!」
「そう。それで紅茶を買ったお店の店員さんから教わった、かなり本格的な方法で、今回は紅茶を淹れてみたのよ。
それにこちらのクッキーは、舶来ものでありまして・・・、」
そこまでフンフンとミキの話を素直に聞いていた俺は、ハッと我に返った。
(しまった、俺って完全にミキのペースに嵌り込んでしまっているじゃないか。違う違う、こんな平和な気持ちに浸っている場合じゃない。
今日の俺は一味違うぜ。
だって己の冷酷さを見せつけるために、今日はわざわざ、ミキの家までやって来たのだから・・・。)
その時ミキは、自分が話すことに熱中していて、笑みを湛えながら1人で話し続けている所だった。そして俺は決意を胸に、そんな彼女の様子に構うことなく、いきなり彼女を強く抱きしめたのである。
ミキはその時、そんな俺の突然の行動に、息を飲んでお喋りを止めたが、しばらく俺のなすがままになった後、
「・・・ケンちゃん?」
と俺の様子を窺うように、そっと訊ねた。
俺はその時頭の中で、
『クール』
という言葉をくるくる回転させては、自分に必死に言い聞かせ、それから抑揚のない声で冷酷さを装って、彼女に言った。
「ミキ。俺は今から、ミキを襲う。」
「―は?」
ミキは間の抜けた声を出した。俺はさらに続けて言った。
「つまり俺は・・・、ミキを、・・・ミキをこれからレイプする。」
するとミキは完全に黙った。そして俺の腕の中で、すっかり大人しくなってしまった。
(今だ!今こそその時!)
と俺は思った。こんなチャンスはこの先、きっと二度とやって来ないだろう。俺は焦りながら、慌ただしく彼女を押し倒そうとすると、一方ミキは冷静な目で俺の目を見つめ、こんな事を聞いてきた。
「ケンちゃん、今日は・・・。
そんなに、やりたいの?」
「えっ?・・・ああ、うん。まぁ、そんな所。」
俺は彼女にそう答えた。だが、思い返してみれば、その答えがまずかったのだ。四の五の言わずに、ただ猪突猛進して襲えばよかったのに、ここから話の方向性はガラリと変わり、俺の計算した歯車はみるみるうちに、狂い出した。
俺は、まるでイギリス紳士のように、お茶の時間が大好きなのだ。甘ったるい紅茶とクッキーを食べながら、何処かヨーロッパの退廃的な、(そうなのか?)雰囲気すら醸し出される、このゆるりと流れていくひと時。
それはなかなか贅沢な時間だと、俺は思っている。素晴らしい。
俺とミキは、ちゃぶ台の回りに腰掛け、お茶を口に運びながら、2人で顔を見合わせて微笑み合った。彼女は片手を頭にやって、ショートカットの髪をくしゃっとさせてから、俺に訊ねた。
「どう?この紅茶、おいしい?」
「うん、おいしい。
・・・これ、紅茶なのに、まるでオレンジみたいな匂いがするんだね。素敵だ。
それにお茶に添えられているクッキーも、カラメルの味がして美味しいよ。」
「ケンちゃん、紅茶とクッキーが大好きだものね。だから今日はちょっと奮発したの。
この紅茶、無農薬栽培で作られたアールグレイで、なんと、100グラムで千円もするんだよ。」
「えっ、千円!」
「そう。それで紅茶を買ったお店の店員さんから教わった、かなり本格的な方法で、今回は紅茶を淹れてみたのよ。
それにこちらのクッキーは、舶来ものでありまして・・・、」
そこまでフンフンとミキの話を素直に聞いていた俺は、ハッと我に返った。
(しまった、俺って完全にミキのペースに嵌り込んでしまっているじゃないか。違う違う、こんな平和な気持ちに浸っている場合じゃない。
今日の俺は一味違うぜ。
だって己の冷酷さを見せつけるために、今日はわざわざ、ミキの家までやって来たのだから・・・。)
その時ミキは、自分が話すことに熱中していて、笑みを湛えながら1人で話し続けている所だった。そして俺は決意を胸に、そんな彼女の様子に構うことなく、いきなり彼女を強く抱きしめたのである。
ミキはその時、そんな俺の突然の行動に、息を飲んでお喋りを止めたが、しばらく俺のなすがままになった後、
「・・・ケンちゃん?」
と俺の様子を窺うように、そっと訊ねた。
俺はその時頭の中で、
『クール』
という言葉をくるくる回転させては、自分に必死に言い聞かせ、それから抑揚のない声で冷酷さを装って、彼女に言った。
「ミキ。俺は今から、ミキを襲う。」
「―は?」
ミキは間の抜けた声を出した。俺はさらに続けて言った。
「つまり俺は・・・、ミキを、・・・ミキをこれからレイプする。」
するとミキは完全に黙った。そして俺の腕の中で、すっかり大人しくなってしまった。
(今だ!今こそその時!)
と俺は思った。こんなチャンスはこの先、きっと二度とやって来ないだろう。俺は焦りながら、慌ただしく彼女を押し倒そうとすると、一方ミキは冷静な目で俺の目を見つめ、こんな事を聞いてきた。
「ケンちゃん、今日は・・・。
そんなに、やりたいの?」
「えっ?・・・ああ、うん。まぁ、そんな所。」
俺は彼女にそう答えた。だが、思い返してみれば、その答えがまずかったのだ。四の五の言わずに、ただ猪突猛進して襲えばよかったのに、ここから話の方向性はガラリと変わり、俺の計算した歯車はみるみるうちに、狂い出した。
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