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それからしばらくして。
女の子との面談の日が、再びやってきました。僕と彼女は連れ立って面談室に入り、腰を下ろすと、開口一番彼女はこう言いました。
「先生。」
「うん?」
「私、・・・今日で面談を止めようと思うんだ。」
「エッ。いきなり唐突な話だな。」
「精神科医の先生にも相談して、オッケーっていうサインも貰ってきた。先生が言うには、・・・私もだんだんよくなってきたから、自分のしたいようにしていいって。」
僕はちょっとの間気難しく考え込んでから、言いました。
「・・・確かに君は変わったし、良くなってきているとも思う。でも・・・。
だからこそもっと駒を先に進めるために、この面談をもう少し続けていった方が、僕はいい気がするんだけれど。」
すると女の子は、深く首を左右に振ってから言いました。
「そうかもしれない。・・・確かに私の問題は、まだ解決していないし、それに・・・。
先生の力でここまでこられたという事は、自分でもちゃんと分かっているわ。
―でも、ここから先は他人に頼りたくない。
あとは自分自身の力で、しっかりとこの世界で立てるようになりたいの。」
「素晴らしい決意だと思うよ。
ただ、自分の力だけではどうしてもできないという事も、世の中にはあるものなんだ。
だから、頼りたい時は人に頼ってもいいんだよ?」
「・・・うん、分かった。じゃあもしかすると、その時にはまた、先生に会いに来るかもしれない。」
「そうだね。会いたくなったら、いつでもおいで。」
「でも当分は、先生から教わった空想トークを試してみたりとか・・・、“自立”ということについて、・・・自分の考えを自分なりに、突き詰めていきたいと思う。」
「そうか。よし、分かった。
それじゃ、今日が一応最後だという事で、僕と2人で力を合わせて、最後の空想トークを試してみようと思う。
どうかな?」
僕がそう問うと、
「うん、面白そう。」
と女の子は目を輝かせて言いました。
☆☆☆
僕は少しの間思案してから、彼女に話し掛けました。
「じゃあ、今回の空想トークのテーマは、
『旅立ち』
についてだ。君が自立の一歩を踏み出すにあたって、君自身の今の気持ちを、空想に置き換えてみるんだ。
ちょっと難しそうだけれど、できそうかな?」
女の子は両手をぎゅっと握りしめて、力を込めて言いました。
「うん。・・・たぶん大丈夫そう。今私の頭の中に、何となくイメージが浮かんできた。」
「よし。じゃあ君のイメージ、つまり空想の世界について、僕にレクチャーして欲しい。
僕も君の空想を追って、同じ世界を追体験してみる。そして僕達2人で、その世界観を分かち合おう。」
「ウン、分かった。それじゃあやってみるね。」
そして僕達2人はゆっくりと目を閉じ、想像上の世界の中へと入っていったのです。
女の子は言います。
「私と先生は、並んで町の中を歩いている。」
「・・・町の中ね。どんな町?」
「街並みは・・・まるでどこかの西欧の景色みたい。白くて背の高い洋風の建物が、ずらっと並んで建っているの。」
僕は彼女の言葉を繰り返しました。
「・・・白くて背の高い建物が、ずらっと並んで建っている・・・。」
「私と先生は、そんな街中を歩いている。そして私達は急に道を逸れて、建物の隙間に出来た路地裏を歩き始める。
・・・そこは、狭くて暗い。」
「狭くて暗い路地裏を・・・、僕達は歩く。」
「その道には色々な物が置かれているの。ごみの入った鮮やかな色をしたポリバケツや、錆びた自転車、壊れた家具なんかが放置して置かれていて・・・。
何だか雑多で、汚い感じ。」
「雑多で汚い、路地裏の道・・・。」
「ふと私の脇をすり抜けてゆく、三毛猫がいた。」
「三毛猫ね。それは誰かに飼われているのかな。それとも野良猫?」
「たぶん野良猫よ。でもとても可愛い。だからここら辺に住む住民達から愛されて、残飯なんかを貰ったりして、逞しく生きているの。
・・・道を歩いても、歩いても、私達はなかなか出口に辿り着く事ができない。どこまで続くんだろう、この道?
・・・あっ。」
「・・・どうした?」
「・・・前方に、光が見える。
もしかしたら、あれが出口なのかも。きっと私達は、あれを目指して歩いていけばいいんだ。
光が・・・、光がどんどん前方から溢れてくる。そして輝きがますます強くなっていって、・・・私の体は、その光に包まれる。
そして私は・・・!」
女の子との面談の日が、再びやってきました。僕と彼女は連れ立って面談室に入り、腰を下ろすと、開口一番彼女はこう言いました。
「先生。」
「うん?」
「私、・・・今日で面談を止めようと思うんだ。」
「エッ。いきなり唐突な話だな。」
「精神科医の先生にも相談して、オッケーっていうサインも貰ってきた。先生が言うには、・・・私もだんだんよくなってきたから、自分のしたいようにしていいって。」
僕はちょっとの間気難しく考え込んでから、言いました。
「・・・確かに君は変わったし、良くなってきているとも思う。でも・・・。
だからこそもっと駒を先に進めるために、この面談をもう少し続けていった方が、僕はいい気がするんだけれど。」
すると女の子は、深く首を左右に振ってから言いました。
「そうかもしれない。・・・確かに私の問題は、まだ解決していないし、それに・・・。
先生の力でここまでこられたという事は、自分でもちゃんと分かっているわ。
―でも、ここから先は他人に頼りたくない。
あとは自分自身の力で、しっかりとこの世界で立てるようになりたいの。」
「素晴らしい決意だと思うよ。
ただ、自分の力だけではどうしてもできないという事も、世の中にはあるものなんだ。
だから、頼りたい時は人に頼ってもいいんだよ?」
「・・・うん、分かった。じゃあもしかすると、その時にはまた、先生に会いに来るかもしれない。」
「そうだね。会いたくなったら、いつでもおいで。」
「でも当分は、先生から教わった空想トークを試してみたりとか・・・、“自立”ということについて、・・・自分の考えを自分なりに、突き詰めていきたいと思う。」
「そうか。よし、分かった。
それじゃ、今日が一応最後だという事で、僕と2人で力を合わせて、最後の空想トークを試してみようと思う。
どうかな?」
僕がそう問うと、
「うん、面白そう。」
と女の子は目を輝かせて言いました。
☆☆☆
僕は少しの間思案してから、彼女に話し掛けました。
「じゃあ、今回の空想トークのテーマは、
『旅立ち』
についてだ。君が自立の一歩を踏み出すにあたって、君自身の今の気持ちを、空想に置き換えてみるんだ。
ちょっと難しそうだけれど、できそうかな?」
女の子は両手をぎゅっと握りしめて、力を込めて言いました。
「うん。・・・たぶん大丈夫そう。今私の頭の中に、何となくイメージが浮かんできた。」
「よし。じゃあ君のイメージ、つまり空想の世界について、僕にレクチャーして欲しい。
僕も君の空想を追って、同じ世界を追体験してみる。そして僕達2人で、その世界観を分かち合おう。」
「ウン、分かった。それじゃあやってみるね。」
そして僕達2人はゆっくりと目を閉じ、想像上の世界の中へと入っていったのです。
女の子は言います。
「私と先生は、並んで町の中を歩いている。」
「・・・町の中ね。どんな町?」
「街並みは・・・まるでどこかの西欧の景色みたい。白くて背の高い洋風の建物が、ずらっと並んで建っているの。」
僕は彼女の言葉を繰り返しました。
「・・・白くて背の高い建物が、ずらっと並んで建っている・・・。」
「私と先生は、そんな街中を歩いている。そして私達は急に道を逸れて、建物の隙間に出来た路地裏を歩き始める。
・・・そこは、狭くて暗い。」
「狭くて暗い路地裏を・・・、僕達は歩く。」
「その道には色々な物が置かれているの。ごみの入った鮮やかな色をしたポリバケツや、錆びた自転車、壊れた家具なんかが放置して置かれていて・・・。
何だか雑多で、汚い感じ。」
「雑多で汚い、路地裏の道・・・。」
「ふと私の脇をすり抜けてゆく、三毛猫がいた。」
「三毛猫ね。それは誰かに飼われているのかな。それとも野良猫?」
「たぶん野良猫よ。でもとても可愛い。だからここら辺に住む住民達から愛されて、残飯なんかを貰ったりして、逞しく生きているの。
・・・道を歩いても、歩いても、私達はなかなか出口に辿り着く事ができない。どこまで続くんだろう、この道?
・・・あっ。」
「・・・どうした?」
「・・・前方に、光が見える。
もしかしたら、あれが出口なのかも。きっと私達は、あれを目指して歩いていけばいいんだ。
光が・・・、光がどんどん前方から溢れてくる。そして輝きがますます強くなっていって、・・・私の体は、その光に包まれる。
そして私は・・・!」
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