りぷれい

桃青

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7.お散歩楽しや

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我が家のあるマンションから外へ出て、すぐそばにある遊歩道を歩き始め、母はキョロキョロと必死に辺りを見回すので、私は不審げに言った。
「何をそんなにキョロキョロしているの。怪しいでしょ」
「誰か知っている人はいないか、と思ってね。死んでから知り合いに会うってどんな気持ちかしら」
「お母さん、絶対に、声を掛けたりしないでよ。大変なことになるからね、正体がバレたら」
「面白そうじゃない」
「そういう問題じゃない!」
 私は高ぶってそう叫んだあと、落ち着くように、落ち着くようにと、自分に言い聞かせた。空気はすでに、完全に母のペースである。春らしい新緑や雑草の花を目に焼き付け、母を導き、ひたすら道を歩いていると、母が喋り始めた。
「道子は二十五の時、家を出て一人暮らしを始めたでしょ」
「うん」
「私とお父さんとの二人暮らしになって、五年後に私が死んでしまって……」
「うん」
「道子は今年で三十一になるじゃない」
「そうだね」
「結婚はどうするの」
「さあ」
「自分の子供を作る気はあるの」
「さあ」
「どうして……、私とお父さんを残して、家を出ていったの」
「まず、自活できるようになったから。それと、あと一つ」
「はい」
「私はお母さんのことが嫌いだったから」
「―私を?」
「離れてみたくてしょうがなかったの。お母さんのいない世界で、生きてみたかった」
「まあ、そうだったの。私が生きているときには、そんなこと言わなかったのに。でも、私は道子が好きよ」
「ありがとう。でも私はお母さんを好きになれない……」
「あっ、向こうから来る人、高木さんね。一人でヨロヨロと歩いている……」
「まずい」
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