9 / 14
9.
しおりを挟む
私は眠りから目覚めて、しばらく何もない天井を眺めていました。それからやっと、
「・・・夢か。」
と、独り言を呟きました。
今回見た夢の中の濃厚なイメージは、“強烈”と言っても過言ではないくらいでした。私の脳は、まるで目くるめく様々な印象的な光景に、すっかり汚染されてしまったかのように感じられました。
何か夢の奥底に秘密の暗示が込められていて、なおかつ私に強い影響力を持つ夢・・・。
何故私は、こんな夢を見続けているのでしょう?
「そうか。」
私は頭の中で夢の内容を反芻しながら、ふと呟きました。
そうなのです。
夢の中で登場する正紀は、理由は分からねど、まるで私の人生の師匠であるかのように、夢を見るたびに1つずつ、私に人生の教訓を教えてくれているのです。
(現実的な正紀との付き合いでは、そんな事を考えてみた事もなかったけれど、でも確かにこの夢の中では・・・。
私と正紀はギブアンドテイク、・・・いや、私が彼に、何かを与えているかどうかは定かじゃない。
けれど、・・・そうやって2人で力を合わせて、少しずつ未来を切り開きながら、未知なる道を前へ進んでいるんだ。)
私はそう考えついて、思わず私の心はふわっと温かくなり、自然と笑みが零れました。
(正紀って、本当に私にとって、なんて頼もしい彼氏なんだろう。)
私はその時正紀の存在を、彼が側にいてくれることを、神と呼べるかもしれない何がしかに対し、そっと感謝しました。
… … …
私は、見た後にどこか不思議な気持ちになってしまうこの夢を、いつしか楽しみ始めていました。
別な言い方で改めて表現するなら、私はこの夢の中で、大変奇妙な、でもそれでいて凄く面白味のある冒険をしているかのような・・・、
ワクワクした気分になれるのです。
その時の私は単純に、夢の世界を楽しむことしか考えていませんでした。
この夢がもたらすもの。そして、夢の中でこの先起きるかもしれないこと。
そんな事など全く杞憂せずに、どういう結末が訪れるかなんて、考えてみようともしなかったのです。
ですが。
やがてそれは来るべくしてやってきたのでした。
☆☆☆
その日の事。
私は正紀と電話で、大喧嘩をしていました。
時として正紀から感じられる、いささかクールすぎる彼の姿勢に、思わず私がくちばしを入れたら、どうやらそれが彼にはカチンときたようで、今度は日ごろの私の態度で気に食わない所を、揚げ足取りのように、ひとつずつ実例を取り上げては、いちゃもんをつけるというマメな事を、やり始めたのです。(そう、彼は実は、なかなか几帳面な性格の人なのでした。)
そしてお互いに、感情の昂ぶりに歯止めが掛からなくなり、私と正紀は大真面目に自分の正当性を証明してみせようと、無我夢中になっていたのでした。
私は携帯電話を耳に押し当て、やや大きすぎるハキハキした声で、彼にこう言いました。
「正紀、そういうさり気ない態度でね?
・・・どれだけの人を傷つけた事があるのかっていう事、ちゃんと分かっている?
それは私だけじゃない。世間の人達だってきっと・・・、」
すると正紀はビンビン響く声で、(思わず私は、携帯電話を耳から離しました)反論に取り掛かりました。
「じゃあ僕も言わせてもらうけれど、純子、君は大変さっぱりした人だ。
・・・それはいいことかもしれないが、時として君は、大雑把すぎるよ。
そんな君の・・・、なんていうかな、つまり気の利かない一言で、時としてざっくりと人を傷つけていることもある。
・・・そうさ、僕もその被害者の1人なのさ。」
「あっ、そう。
・・・このままじゃ、いつまでたっても平行線ね。」
「まあ、そうだな。」
「じゃあ分かった。今日はこれで電話を切る。」
「だ・か・ら!
そういう風に答えを出すところが、君の大雑把な所だって・・・、」
私は正紀の語りを無視して、一方的に電話をブチッと切りました。
彼との話し合いを終えた後、私は窓の外の景色を見ながら、しばらく部屋の中をウロウロと、獣のようにうろつき回っていました。それから、
「・・・ああ、もう!」
と一声叫ぶと、ベッドに向かって歩いていき、そそくさと中へ潜り込みました。
(・・・こんなくさくさした気分の時は、さっさと寝てしまうに限るわ。
このまま起きているとますます、頭の中はゴチャゴチャしてくるし、意味もなく腹まで立ってくるし!
そう、そう言う時には睡眠が一番。
確か何処かで、眠っている間に人の頭が整理されるって話を、聞いた事がある。
頭の整理。それは今の私にとって、何よりも必要な事だわ・・・。)
そう思いながら、私はバタン、とベッドに倒れ込んで、きつく目を閉じました。そうやっていると、さっきまでのとげとげしい感情は、次第に収まっていき、私の心はだんだん静かになっていき・・・。
「・・・夢か。」
と、独り言を呟きました。
今回見た夢の中の濃厚なイメージは、“強烈”と言っても過言ではないくらいでした。私の脳は、まるで目くるめく様々な印象的な光景に、すっかり汚染されてしまったかのように感じられました。
何か夢の奥底に秘密の暗示が込められていて、なおかつ私に強い影響力を持つ夢・・・。
何故私は、こんな夢を見続けているのでしょう?
「そうか。」
私は頭の中で夢の内容を反芻しながら、ふと呟きました。
そうなのです。
夢の中で登場する正紀は、理由は分からねど、まるで私の人生の師匠であるかのように、夢を見るたびに1つずつ、私に人生の教訓を教えてくれているのです。
(現実的な正紀との付き合いでは、そんな事を考えてみた事もなかったけれど、でも確かにこの夢の中では・・・。
私と正紀はギブアンドテイク、・・・いや、私が彼に、何かを与えているかどうかは定かじゃない。
けれど、・・・そうやって2人で力を合わせて、少しずつ未来を切り開きながら、未知なる道を前へ進んでいるんだ。)
私はそう考えついて、思わず私の心はふわっと温かくなり、自然と笑みが零れました。
(正紀って、本当に私にとって、なんて頼もしい彼氏なんだろう。)
私はその時正紀の存在を、彼が側にいてくれることを、神と呼べるかもしれない何がしかに対し、そっと感謝しました。
… … …
私は、見た後にどこか不思議な気持ちになってしまうこの夢を、いつしか楽しみ始めていました。
別な言い方で改めて表現するなら、私はこの夢の中で、大変奇妙な、でもそれでいて凄く面白味のある冒険をしているかのような・・・、
ワクワクした気分になれるのです。
その時の私は単純に、夢の世界を楽しむことしか考えていませんでした。
この夢がもたらすもの。そして、夢の中でこの先起きるかもしれないこと。
そんな事など全く杞憂せずに、どういう結末が訪れるかなんて、考えてみようともしなかったのです。
ですが。
やがてそれは来るべくしてやってきたのでした。
☆☆☆
その日の事。
私は正紀と電話で、大喧嘩をしていました。
時として正紀から感じられる、いささかクールすぎる彼の姿勢に、思わず私がくちばしを入れたら、どうやらそれが彼にはカチンときたようで、今度は日ごろの私の態度で気に食わない所を、揚げ足取りのように、ひとつずつ実例を取り上げては、いちゃもんをつけるというマメな事を、やり始めたのです。(そう、彼は実は、なかなか几帳面な性格の人なのでした。)
そしてお互いに、感情の昂ぶりに歯止めが掛からなくなり、私と正紀は大真面目に自分の正当性を証明してみせようと、無我夢中になっていたのでした。
私は携帯電話を耳に押し当て、やや大きすぎるハキハキした声で、彼にこう言いました。
「正紀、そういうさり気ない態度でね?
・・・どれだけの人を傷つけた事があるのかっていう事、ちゃんと分かっている?
それは私だけじゃない。世間の人達だってきっと・・・、」
すると正紀はビンビン響く声で、(思わず私は、携帯電話を耳から離しました)反論に取り掛かりました。
「じゃあ僕も言わせてもらうけれど、純子、君は大変さっぱりした人だ。
・・・それはいいことかもしれないが、時として君は、大雑把すぎるよ。
そんな君の・・・、なんていうかな、つまり気の利かない一言で、時としてざっくりと人を傷つけていることもある。
・・・そうさ、僕もその被害者の1人なのさ。」
「あっ、そう。
・・・このままじゃ、いつまでたっても平行線ね。」
「まあ、そうだな。」
「じゃあ分かった。今日はこれで電話を切る。」
「だ・か・ら!
そういう風に答えを出すところが、君の大雑把な所だって・・・、」
私は正紀の語りを無視して、一方的に電話をブチッと切りました。
彼との話し合いを終えた後、私は窓の外の景色を見ながら、しばらく部屋の中をウロウロと、獣のようにうろつき回っていました。それから、
「・・・ああ、もう!」
と一声叫ぶと、ベッドに向かって歩いていき、そそくさと中へ潜り込みました。
(・・・こんなくさくさした気分の時は、さっさと寝てしまうに限るわ。
このまま起きているとますます、頭の中はゴチャゴチャしてくるし、意味もなく腹まで立ってくるし!
そう、そう言う時には睡眠が一番。
確か何処かで、眠っている間に人の頭が整理されるって話を、聞いた事がある。
頭の整理。それは今の私にとって、何よりも必要な事だわ・・・。)
そう思いながら、私はバタン、とベッドに倒れ込んで、きつく目を閉じました。そうやっていると、さっきまでのとげとげしい感情は、次第に収まっていき、私の心はだんだん静かになっていき・・・。
0
お気に入りに追加
0
あなたにおすすめの小説
そこは、私の世界でした
桃青
ライト文芸
平凡な毎日を送っていたはずの、林波。だが、ある日頭が混乱し、それをきっかけに、夢の中で自分の世界の再構築を始める、aoという謎の男性と共に。自分の世界というワンダーランドで、自助をしていく物語です。ファンタジーだけど、現実に根付いた、純文学のつもりです。
ループ22回目の侯爵令嬢は、猫以外どうでもいい ~猫ちゃんをモフっていたら敵国の王太子が求婚してきました~
湊祥@書籍13冊発売中
ファンタジー
スクーカム「べ、別に猫がかわいいだなんて思ってないんだからな?」
ソマリ「は、はあ……?」
侯爵令嬢ソマリ・シャルトリューは、十五歳で無実の罪を理由に婚約破棄され修道院送りとなり、二十歳で隣国との戦に巻き込まれて命を落とす……という人生を、すでに21回も繰り返していた。
繰り返される人生の中、ソマリはそれまで一度も見たことが無かった猫と出会う。
猫は悪魔の使いとされ、ソマリの暮らす貴族街には侵入を許していなかったためだ。
ソマリ「これが猫……! な、なんて神がかり的なかわいさなのっ。かわいが過ぎて辛い……! 本気を出した神が作りし最高傑作に違いないわ!」
と、ソマリは猫のかわいさに心酔し、「どうせ毎回五年で死ぬんだし、もう猫ちゃんとのんびり過ごせればそれでいいや」と考えるようになる。
しかし二十二回目の人生ではなんと、ソマリの死因である戦を仕掛けた、隣国サイベリアン王国の王太子スクーカム・サイベリアンが突然求婚してきて!?
そのスクーカム、「流麗の鉄仮面」というふたつ名を持ち、常に冷静沈着なはずなのになぜか猫を見せると挙動不審になる。
スクーカム「くっ……。そのふわふわの毛、甘い鳴き声、つぶらな瞳……なんという精神攻撃だ……!」
ソマリ「あの、息苦しそうですけど大丈夫ですか?」
――よくわからないけれど結婚とか別にしなくて大丈夫です! 私は猫ちゃんをかわいがれれば他のことはどうでもいいんですからっ。
猫モフモフラブストーリー、開幕!
放浪者
側溝
ファンタジー
最近変な夢を見る、妙に生々しい夢だ。
覚えているのはそれだけで、妙に後味の悪い気分で目を覚ます。
しかし、起きて少ししたらどうということはない。
さっぱりその事を忘れてしまっているのだから。
エリート警察官の溺愛は甘く切ない
日下奈緒
恋愛
親が警察官の紗良は、30歳にもなって独身なんてと親に責められる。
両親の勧めで、警察官とお見合いする事になったのだが、それは跡継ぎを産んで欲しいという、政略結婚で⁉
私のドレスを奪った異母妹に、もう大事なものは奪わせない
文野多咲
恋愛
優月(ゆづき)が自宅屋敷に帰ると、異母妹が優月のウェディングドレスを試着していた。その日縫い上がったばかりで、優月もまだ袖を通していなかった。
使用人たちが「まるで、異母妹のためにあつらえたドレスのよう」と褒め称えており、優月の婚約者まで「異母妹の方が似合う」と褒めている。
優月が異母妹に「どうして勝手に着たの?」と訊けば「ちょっと着てみただけよ」と言う。
婚約者は「異母妹なんだから、ちょっとくらいいじゃないか」と言う。
「ちょっとじゃないわ。私はドレスを盗られたも同じよ!」と言えば、父の後妻は「悪気があったわけじゃないのに、心が狭い」と優月の頬をぶった。
優月は父親に婚約解消を願い出た。婚約者は父親が決めた相手で、優月にはもう彼を信頼できない。
父親に事情を説明すると、「大げさだなあ」と取り合わず、「優月は異母妹に嫉妬しているだけだ、婚約者には異母妹を褒めないように言っておく」と言われる。
嫉妬じゃないのに、どうしてわかってくれないの?
優月は父親をも信頼できなくなる。
婚約者は優月を手に入れるために、優月を襲おうとした。絶体絶命の優月の前に現れたのは、叔父だった。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
神様!モフモフに囲まれることを希望しましたが自分がモフモフになるなんて聞いてません
縁 遊
ファンタジー
異世界転生する時に神様に希望はないかと聞かれたので『モフモフに囲まれて暮らしたい』と言いましたけど…。
まさかこんなことになるなんて…。
神様…解釈の違いだと思うのでやり直しを希望します。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる