明かり

桃青

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9.

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 私は眠りから目覚めて、しばらく何もない天井を眺めていました。それからやっと、
「・・・夢か。」
 と、独り言を呟きました。

 今回見た夢の中の濃厚なイメージは、“強烈”と言っても過言ではないくらいでした。私の脳は、まるで目くるめく様々な印象的な光景に、すっかり汚染されてしまったかのように感じられました。

 何か夢の奥底に秘密の暗示が込められていて、なおかつ私に強い影響力を持つ夢・・・。
 
何故私は、こんな夢を見続けているのでしょう?

「そうか。」
 私は頭の中で夢の内容を反芻しながら、ふと呟きました。
 そうなのです。
夢の中で登場する正紀は、理由は分からねど、まるで私の人生の師匠であるかのように、夢を見るたびに1つずつ、私に人生の教訓を教えてくれているのです。

(現実的な正紀との付き合いでは、そんな事を考えてみた事もなかったけれど、でも確かにこの夢の中では・・・。
 私と正紀はギブアンドテイク、・・・いや、私が彼に、何かを与えているかどうかは定かじゃない。
 けれど、・・・そうやって2人で力を合わせて、少しずつ未来を切り開きながら、未知なる道を前へ進んでいるんだ。)
 私はそう考えついて、思わず私の心はふわっと温かくなり、自然と笑みが零れました。
(正紀って、本当に私にとって、なんて頼もしい彼氏なんだろう。)
 私はその時正紀の存在を、彼が側にいてくれることを、神と呼べるかもしれない何がしかに対し、そっと感謝しました。
 … … …
 私は、見た後にどこか不思議な気持ちになってしまうこの夢を、いつしか楽しみ始めていました。
 別な言い方で改めて表現するなら、私はこの夢の中で、大変奇妙な、でもそれでいて凄く面白味のある冒険をしているかのような・・・、
 ワクワクした気分になれるのです。

 その時の私は単純に、夢の世界を楽しむことしか考えていませんでした。

 この夢がもたらすもの。そして、夢の中でこの先起きるかもしれないこと。

 そんな事など全く杞憂せずに、どういう結末が訪れるかなんて、考えてみようともしなかったのです。
 ですが。
 やがてそれは来るべくしてやってきたのでした。
 ☆☆☆
 その日の事。
 私は正紀と電話で、大喧嘩をしていました。

 時として正紀から感じられる、いささかクールすぎる彼の姿勢に、思わず私がくちばしを入れたら、どうやらそれが彼にはカチンときたようで、今度は日ごろの私の態度で気に食わない所を、揚げ足取りのように、ひとつずつ実例を取り上げては、いちゃもんをつけるというマメな事を、やり始めたのです。(そう、彼は実は、なかなか几帳面な性格の人なのでした。)

 そしてお互いに、感情の昂ぶりに歯止めが掛からなくなり、私と正紀は大真面目に自分の正当性を証明してみせようと、無我夢中になっていたのでした。

 私は携帯電話を耳に押し当て、やや大きすぎるハキハキした声で、彼にこう言いました。
「正紀、そういうさり気ない態度でね?
 ・・・どれだけの人を傷つけた事があるのかっていう事、ちゃんと分かっている?
 それは私だけじゃない。世間の人達だってきっと・・・、」
 すると正紀はビンビン響く声で、(思わず私は、携帯電話を耳から離しました)反論に取り掛かりました。
「じゃあ僕も言わせてもらうけれど、純子、君は大変さっぱりした人だ。
 ・・・それはいいことかもしれないが、時として君は、大雑把すぎるよ。
 そんな君の・・・、なんていうかな、つまり気の利かない一言で、時としてざっくりと人を傷つけていることもある。
 ・・・そうさ、僕もその被害者の1人なのさ。」
「あっ、そう。
・・・このままじゃ、いつまでたっても平行線ね。」
「まあ、そうだな。」
「じゃあ分かった。今日はこれで電話を切る。」
「だ・か・ら!
 そういう風に答えを出すところが、君の大雑把な所だって・・・、」
 私は正紀の語りを無視して、一方的に電話をブチッと切りました。

 彼との話し合いを終えた後、私は窓の外の景色を見ながら、しばらく部屋の中をウロウロと、獣のようにうろつき回っていました。それから、
「・・・ああ、もう!」
 と一声叫ぶと、ベッドに向かって歩いていき、そそくさと中へ潜り込みました。
(・・・こんなくさくさした気分の時は、さっさと寝てしまうに限るわ。
 このまま起きているとますます、頭の中はゴチャゴチャしてくるし、意味もなく腹まで立ってくるし!

 そう、そう言う時には睡眠が一番。
 確か何処かで、眠っている間に人の頭が整理されるって話を、聞いた事がある。
 頭の整理。それは今の私にとって、何よりも必要な事だわ・・・。)
 そう思いながら、私はバタン、とベッドに倒れ込んで、きつく目を閉じました。そうやっていると、さっきまでのとげとげしい感情は、次第に収まっていき、私の心はだんだん静かになっていき・・・。
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