シャングリラ

桃青

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 終業時刻になると、私と高山さんは、二人で店の片付けを始めた。この所、私がラストまで働く時は、二人で一緒に帰るのが当たり前となっていた。まあ、付き合っているのだから、むしろそれは当然なことなのかも。高山さんを待ちながら、暗くなっていくショッピングモールを見ていると、気分が違うだけで、これほど見慣れた光景が違う景色に映るものなんだなと、実感した。今日は世界が味気なく、がらんどうのように見える。灰色で、未来がないようにも見えた。生きて動く高山さんの存在だけが、いやに目に染みる。
 そんなことを考えながらぼーっとしていると、彼が側に来て言った。
「終わったよ。帰ろうか」
「はい」
 私は返事をして、高山さんの隣を、しずしずと歩いていった。ショッピングモールから外へ出ると、高山さんは言う。
「外はやっぱり気持ちがいいな」
「そうですね。今日は特に」
「……俺と付き合っていること、間美さんに言っていなかったの? 」
「はい。間美が高山さんのことが好きだっていうことを、よく知っていたので……。どうしても言えませんでした、言ったら友情が壊れる気がして」
「……そうか。間美さんが知らないうちに、俺とこずえさんが付き合っていたら、確かに裏切られた気持ちになるかもしれない」
「もう取り返しはつかないですね」
「今は、何を言っても言い訳になるだろう、きっとね」
「私も苦しい思いをしているけれど、間美はもっと苦しいはず」
「とは言っても、自分に嘘をつくのは良くない。こずえさんは悪いことをしていないと思うよ」
「そうでしょうか」
「間美さんを、騙したり、欺いたりした? そんなはずはないから、そこはブレずに、悪くないと思っていい。その上でこれから間美さんに接すればいいと思う」
「私は私の人生を」
「俺は俺の人生を。なあ、今度どこかへ行かないか? 」
「デ、デート、ですか? こんな時に? 」
「こんな時だからこそ、デートだ。俺が場所を決めてもいいかな」
「高山さん、私は笑っていいのでしょうか」
「笑いたいなら、笑えばいいさ」
「高山さんと、楽しんでいいのですか? 」
「自分の人生だから、自分のしたいことをしていいのでは? 」
「なら、……行きましょう。高山さんの望む所へ」
「物分かりがいいね。こずえさんは自分のいい所って、分かっている? 」
「う~ん、想像がつかないです。高山さんには、分かりますか? 」
「うん、分かる。真っ直ぐに生きている所。とても素敵な長所だと思うから、そこはずっとそのままでいてほしいな」
「高山さんのいい所は、」
「俺のいい所? 」
「繕わない所じゃないかな。自然体な所が魅力的で、時に輝いて見えるんです。私は多分、そこに惹かれました」
「確かに俺って、何でも嘘っぽいものは好きじゃないな。女性の厚化粧なんか見ると、もっと薄い方が奇麗なのに……と、いつも思う」
「女の人は奇麗になりたくて、長時間かけて必死にメイクしているのに」
「奇麗になろうと頑張っているのは、可愛いけどさ」
 ☆☆☆
 それから毒にも薬にもならない雑談をして、私と高山さんは駅で別れた。人に紛れながら思った。自分に正直だからって、いいわけじゃない。正直に生きていれば、間違いがないわけでもない。でも人生で学びたいなら、心を開いて、素直な姿勢でいることだ。
 間美にどんなに嫌われても、私は彼女に対して心を開いて、素直に反応しよう。彼女がもし、私に話してくれたなら、その時はよく聞いて、嘘偽りなく答えよう。
 私は私の人生を。
 そう生きられることが、至上の喜びであることを悟った。
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