42 / 48
40.
しおりを挟む
都会の喧騒に紛れて、高架下や高層ビルの間を歩きだすと、私は不思議な高揚感に包まれた。これだけの人がこの街にはいる。世界はこんなにもけたたましく動いている。その中で自分を見失わず、己の道をそれぞれに歩いて行く人々が、奇跡のように思えた。彼らはどんな運命の下で、使命を果たしているのだろうか。
私はただ、幸せになりたいだけ、なのに川村さんという存在に巻き込まれて、自分の道を見失いそうになっている……。そのことを、薄っすらとだが理解はしていた。
「……こうか」
川村さんが低い声で言った。私はうまく聞き取れなかったので、大声で聞き返した。
「はい? 」
彼は私に背を向けたまま、淡々と言った。
「ホテルに、行こうか」
「……」
「ここらへんにそういうホテル、いくつかあるんだよな。前に見たことがある」
「……でも」
「俺の言いたいこと、分かるよね」
「分かります。でも私はそういう気分じゃ、」
「行けばその気になるかもよ」
「―いえ。なりません」
「どうして分かる? 」
「私達、フェイクなんです」
「言っている意味が分からないが」
気付くと川村さんと私は、街に潜んでいた裏通りを歩いていた。湿っぽく、くすんだ雰囲気の場所で、川村さんの目的地であろう、ラブホテルらしき看板がいくつか見え、派手な色彩で、灰色の街並みに異質な明るさをプラスしている。私は一呼吸置いてから、続きを話した。
「私達はブログで知り合い、ラインや電話で会話をし、ブログの写真を撮るために会うようになり、関係を深めるために付き合った。流れとしては真っ当に見えます」
「うん」
「でも、恋愛の核である『愛』は、どこにあるんでしょうか。上辺だけがきれいに整い、本心は何も伴っていないんです。外面に非がなくても、大切なものが空っぽのままです。その虚しさは、私がブログをやめた一番の理由でもあります」
「フェイク? そんなものどうだっていいね。俺は今、自分のやりたいことがはっきりと分かっているんだ。女の人が言う、愛がどうとかいう理屈の方が、男の俺にはまやかしに聞こえるよ。君はただ、逃げているだけ―」
「いえ、逃げてなんかいない。自分ときちんと向き合っています。愛のない男女関係は、どちらにとっても自分を落とす行為です。それでもやろうと、あなたが言うのなら。
川村さん、私達はここで別れましょう」
私はただ、幸せになりたいだけ、なのに川村さんという存在に巻き込まれて、自分の道を見失いそうになっている……。そのことを、薄っすらとだが理解はしていた。
「……こうか」
川村さんが低い声で言った。私はうまく聞き取れなかったので、大声で聞き返した。
「はい? 」
彼は私に背を向けたまま、淡々と言った。
「ホテルに、行こうか」
「……」
「ここらへんにそういうホテル、いくつかあるんだよな。前に見たことがある」
「……でも」
「俺の言いたいこと、分かるよね」
「分かります。でも私はそういう気分じゃ、」
「行けばその気になるかもよ」
「―いえ。なりません」
「どうして分かる? 」
「私達、フェイクなんです」
「言っている意味が分からないが」
気付くと川村さんと私は、街に潜んでいた裏通りを歩いていた。湿っぽく、くすんだ雰囲気の場所で、川村さんの目的地であろう、ラブホテルらしき看板がいくつか見え、派手な色彩で、灰色の街並みに異質な明るさをプラスしている。私は一呼吸置いてから、続きを話した。
「私達はブログで知り合い、ラインや電話で会話をし、ブログの写真を撮るために会うようになり、関係を深めるために付き合った。流れとしては真っ当に見えます」
「うん」
「でも、恋愛の核である『愛』は、どこにあるんでしょうか。上辺だけがきれいに整い、本心は何も伴っていないんです。外面に非がなくても、大切なものが空っぽのままです。その虚しさは、私がブログをやめた一番の理由でもあります」
「フェイク? そんなものどうだっていいね。俺は今、自分のやりたいことがはっきりと分かっているんだ。女の人が言う、愛がどうとかいう理屈の方が、男の俺にはまやかしに聞こえるよ。君はただ、逃げているだけ―」
「いえ、逃げてなんかいない。自分ときちんと向き合っています。愛のない男女関係は、どちらにとっても自分を落とす行為です。それでもやろうと、あなたが言うのなら。
川村さん、私達はここで別れましょう」
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
就職面接の感ドコロ!?
フルーツパフェ
大衆娯楽
今や十年前とは真逆の、売り手市場の就職活動。
学生達は賃金と休暇を貪欲に追い求め、いつ送られてくるかわからない採用辞退メールに怯えながら、それでも優秀な人材を発掘しようとしていた。
その業務ストレスのせいだろうか。
ある面接官は、女子学生達のリクルートスーツに興奮する性癖を備え、仕事のストレスから面接の現場を愉しむことに決めたのだった。
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
裏切りの代償
志波 連
恋愛
伯爵令嬢であるキャンディは婚約者ニックの浮気を知り、婚約解消を願い出るが1年間の再教育を施すというニックの父親の言葉に願いを取り下げ、家出を決行した。
家庭教師という職を得て充実した日々を送るキャンディの前に父親が現れた。
連れ帰られ無理やりニックと結婚させられたキャンディだったが、子供もできてこれも人生だと思い直し、ニックの妻として人生を全うしようとする。
しかしある日ニックが浮気をしていることをしり、我慢の限界を迎えたキャンディは、友人の手を借りながら人生を切り開いていくのだった。
他サイトでも掲載しています。
R15を保険で追加しました。
表紙は写真AC様よりダウンロードしました。
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子
ちひろ
恋愛
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子の話。
Fantiaでは他にもえっちなお話を書いてます。よかったら遊びに来てね。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる