buroguのセカイ

２３．

「忘れかけていた日本人として大切な何かを、思い出せそうな気がする」
「そんな大げさな話になるのかい？　でも俺もだんだん楽しくなってきたぞ」
　私はその時、ふと思いつき、沼の上から遠くに見えているチューリップ畑を、何枚か撮ってみた。気分が落ち込んでいくような沼の色彩と、やたら明るいチューリップとのコントラストが、矛盾と現実をはらんでいる。私はきっきさんの肩をコンコンと叩いて、撮った写真を見せた。
「きっきさん、これはどうでしょうか」
「ん？　なんだ、この写真は。沼とチューリップ……」
「沼の風景が昔の日本、チューリップ畑が現代の日本。そんなメッセージを込めました。ブログに載せようかな、と思って」
「ふんふん、二つの世界観が共存しているのが現実で、今という時代……。奥深いテーマの写真だね、ライトな仕上がりになってはいるけれど」
「日本はきっと、少しずつ古いものから新しいものへと、変わっていくのでしょうね。過去は消えてなくなる運命なんでしょうか」
「でも、過去が集積したもの、それが俺らじゃない？　」
「過去の集積って……」
「人間の根幹を作るDNAって、そういうものじゃないの。詳しくは知らないけれど」
「過去は消えてなくなるものではない」
「忘れられることはあるかもしれないけれど」
「それは……、ロマンティックです」
　私はそう言って、振り返ってボートの後ろを見つめた。

　ボートは前進し続ける。私達は前に進むことはできても、決して後戻りはできないのだ。その足跡が歴史であり、人生でもある。