女執事、頑張る

桃青

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 それから時は流れて、次の日。正道とひろみは連れ立って羽田空港へと向かい、今は新千歳空港行きの飛行機に乗っている所だった。ひろみは正道の後に付き従いながら、チケットに書かれた座席へ向かうと、少し躊躇いながら、正道にある告白をした。
「正道様、今までお話した事はありませんが…。実は私、少し高所恐怖症の気があります。」
 正道は目を丸くして答えた。
「おやそう。」
「ですから窓際の席には、…どうぞ、正道様がお座りください。」
「いや、僕の経験から言わせてもらうけれど、それだったら尚更、窓際の席に座った方がいいと思うよ。」
「えっ、それは何故ですか?」
「ちょっと頭の中で想像してごらん。目を瞑ってジェットコースターに乗るのと、目を開いてジェットコースターに乗るのでは、どっちの方がより怖いと感じる?」
「それは…、私の感覚から言わせて頂くと、おそらく目を瞑った方が怖いのでは…。」
「そうでしょう?怖いっていう感覚は、逃げるよりも、むしろ向き合った方が、怖くなくなるものなんだよ。それに怖さに慣れてしまえば、後はもうこっちのものだからね。
 それに飛行機から眺める窓の外の景色って、なかなかいいものだし。」
「―そうですか、正道様がそうおっしゃるのなら…、私も命を懸けて、窓際の席に座ってみる事にします。」
「そんなに大袈裟な話じゃないでしょ。」
 そんな会話をしながら2人が席に収まると、飛行機はいつしか離陸態勢に入り、気が付くと大空を飛び始めていた。ひろみは最初の頃はあまりの怖さに、正道の存在なんかに構っていられなかったが、次第に機体が安定してくると、恐怖心を紛らわすために、正道に話し掛けることにした。
「正道様、新千歳空港へ向かうという事は…、今回の旅の中心地は札幌、という事になるのでしょうか?」
 正道はしゃちほこばったひろみの様子を、特に気に留めるふうもなく、淡々と彼女の質問に答えた。
「そう。僕はあの町の空気が好きでね、1枚くらいは札幌で撮った写真を入れてみたいと、思っていた所だったんだ。」
「私は北海道と言えば大自然、といったイメージが強いのですが、そう言った風景写真はお撮りにならない…?」
「そうだね、確かにそれもいいんだけれど…。でも、僕の『情』の写真集に入れるには、少々スケールが大きすぎる気がするんだ。今回札幌では、もっと都会の、人と人の関わり合いみたいなものを撮ってみたい、と思っている。」
「それはいわゆる、スナップ写真みたいな感じの?」
「うん。より人に近くて、人の匂いがするような写真が撮れたなら、個人的に今回の写真撮影は成功だと言えるね。」
「北海道、そして札幌。正道様、実は私、北海道へ行くのって初めてなんです。」
「え、そうだったんだ。」
「はい、だからちょっと胸がときめいていて…って、おお、正道様と何気ない会話をしていたら、何故か段々と飛行機が怖くなくなってきました。」
「はは、良かったね。何でも慣れだよ、慣れ。…そうか、そういう事なら、ひろみのために、ちょっと観光巡りみたいなものもしてみようか?」
「ええ?よろしいのですか?」
「うん、構わないよ。撮影の邪魔にならない程度だったらね。」
「うわあ、…今回の旅が、ますます楽しみになってきました。そのためにはこの、飛行機の怖さだってなんのその…、」
「なんて言いながら、ずっと君の顔が引きつっているよ。そんなに怖いかね?」
 そしてひろみの恐怖をよそに、飛行機は何の問題もなく、スムーズに新千歳空港へ降り立った。そして札幌駅までの直通バスに乗った2人は、駅まで着くと、正道の導きで駅の目の前にあるホテルでチェックインを済ませ、2人はぶらぶらと札幌散策を始めたのだった。
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