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そして3日間の休暇を終えたひろみは、再び早坂家へと戻って来ていた。家に着くと、ひろみはまず、進一おじさんに今回の休暇について報告しなければと思った。という訳で、自分の部屋で簡単に荷物の整理を済ませた後、真っ先に進一の個室へと足を向け、ドアを軽くノックすると、中に向かって声を掛けた。
「進一おじさん、いますか?」
「―どうぞ、入って。」
運よく進一は個室にいるらしく、彼の承諾を得たひろみは、部屋の中に入っていきながら、進一おじさんの姿に目を留めると、真っ先に報告をした。
「ただ今帰りました、進一おじさん!」
「…まるで軍隊みたいだな。ま、とりあえず椅子にでも座って。」
「はい!」
そうハキハキと言って、ひろみが椅子に腰掛けると、部屋の中にいた進一は、ゆったりとお茶を啜りながら、笑みを浮かべてひろみに問うた。
「お帰り。で、どうだった、お休みは?ゆっくりできたかい?それに楽しいことでもあった?」
「はい、とても楽しかったです。それに…、自分についても振り返る事ができたし。」
「休んでよかったでしょう?」
「本当にそう思いました。だから私は進一おじさんの計らいに、心から感謝しているんです。その事を伝えたくて、ここまでやってきました。」
「まあ、お礼は別にいいよ。執事にだって休日は必要だと思ったから、その事を奥様に進言したまでだしね。それで…、正道様にはもう会ったかい?」
「いえ、この後伺おうと思っていた所ですけれど…。」
「じゃあ、坊ちゃまにご挨拶してきなさい。今は確か自分の部屋にいるはずだから。」
「分かりました。それでは、行ってきます。」
そう言ってひろみは軽く進一にお辞儀をして、彼の部屋を後にすると、どこか懐かしい思いで正道の部屋へと足を向けた。そしていつもするようにドアの前に立つと、中にいるであろう正道に声を掛けた。
「正道様!」
「ひろみか?」
「そうです、入ってもよろしいですか?」
「いいよ!」
そうやって正道の許可を得たひろみが部屋の中へ入っていくと、彼は相変わらず散らかった部屋の中で、ボストンバッグに熱心に何かを詰め込んでいる所だった。ひろみは何かを踏んづけないように、足元に注意しながら正道の側に行くと、彼に話し掛けた。
「…何処かへ、お出掛けですか?」
「―うん。明日から北海道へ行く。」
「北海道ですか?いいですねえ。では私も、荷造りのお手伝いをしましょうか?」
「いや、いいよ。大方の準備は終わった所だし。」
そう言って正道はぽんぽんとバッグを叩いてみせた。ひろみは少し羨ましそうにして、正道に訊ねた。
「北海道に行かれるのは、やはりお仕事の関係でしょうか?」
「仕事と言ったら仕事なんだけれど、まあ、個人的な衝動というか…。『情』の写真集に入れる写真を撮りに行こうと思って。」
「そうなんですか。私、北海道の事はよく知りませんが、でも何となくイメージで、…良い写真が撮れそうですよね。
大自然!とか、風情のある街並み!とか。
そんな感じでしょうか?」
「まあ、そうだね。じゃ、ひろみも一緒に行く?」
「…随分ライトにお誘いを。私も行った方がよろしいのでしょうか?」
「ひろみ、想像してごらん。大空を飛んでゆく飛行機、北の大地のロマン、美味い料理に、北海道ならではの開放感…。
それが僕の専任執事であるという理由だけで、存分に堪能できるんだよ。」
ひろみはいつしか、正道の語りにうっとりと聞き惚れていた。そして夢見心地で言った。
「私の役職が大変便利なものだという事に、今初めて気が付きました。正道様、…執事は1人、ご入り用でしょうか?」
「そうだね、1人いるといいかな。」
するとひろみは訳知り顔になって言った。
「畏まりました。では私も正道様のお供をしましょう。正道様も必要だとおっしゃったことですし。」
「よし、そうと決まったなら、明日の朝早く出発するから、今から旅の準備を整えておいてくれ。それから少し、温かめの格好をするといいよ。」
「分かりました。では私も、旅の準備をしてまいります。」
そう言い置いて、何処か弾んだ様子で部屋を出ていくひろみを、正道は面白そうな顔をして見送ったのだった。
「進一おじさん、いますか?」
「―どうぞ、入って。」
運よく進一は個室にいるらしく、彼の承諾を得たひろみは、部屋の中に入っていきながら、進一おじさんの姿に目を留めると、真っ先に報告をした。
「ただ今帰りました、進一おじさん!」
「…まるで軍隊みたいだな。ま、とりあえず椅子にでも座って。」
「はい!」
そうハキハキと言って、ひろみが椅子に腰掛けると、部屋の中にいた進一は、ゆったりとお茶を啜りながら、笑みを浮かべてひろみに問うた。
「お帰り。で、どうだった、お休みは?ゆっくりできたかい?それに楽しいことでもあった?」
「はい、とても楽しかったです。それに…、自分についても振り返る事ができたし。」
「休んでよかったでしょう?」
「本当にそう思いました。だから私は進一おじさんの計らいに、心から感謝しているんです。その事を伝えたくて、ここまでやってきました。」
「まあ、お礼は別にいいよ。執事にだって休日は必要だと思ったから、その事を奥様に進言したまでだしね。それで…、正道様にはもう会ったかい?」
「いえ、この後伺おうと思っていた所ですけれど…。」
「じゃあ、坊ちゃまにご挨拶してきなさい。今は確か自分の部屋にいるはずだから。」
「分かりました。それでは、行ってきます。」
そう言ってひろみは軽く進一にお辞儀をして、彼の部屋を後にすると、どこか懐かしい思いで正道の部屋へと足を向けた。そしていつもするようにドアの前に立つと、中にいるであろう正道に声を掛けた。
「正道様!」
「ひろみか?」
「そうです、入ってもよろしいですか?」
「いいよ!」
そうやって正道の許可を得たひろみが部屋の中へ入っていくと、彼は相変わらず散らかった部屋の中で、ボストンバッグに熱心に何かを詰め込んでいる所だった。ひろみは何かを踏んづけないように、足元に注意しながら正道の側に行くと、彼に話し掛けた。
「…何処かへ、お出掛けですか?」
「―うん。明日から北海道へ行く。」
「北海道ですか?いいですねえ。では私も、荷造りのお手伝いをしましょうか?」
「いや、いいよ。大方の準備は終わった所だし。」
そう言って正道はぽんぽんとバッグを叩いてみせた。ひろみは少し羨ましそうにして、正道に訊ねた。
「北海道に行かれるのは、やはりお仕事の関係でしょうか?」
「仕事と言ったら仕事なんだけれど、まあ、個人的な衝動というか…。『情』の写真集に入れる写真を撮りに行こうと思って。」
「そうなんですか。私、北海道の事はよく知りませんが、でも何となくイメージで、…良い写真が撮れそうですよね。
大自然!とか、風情のある街並み!とか。
そんな感じでしょうか?」
「まあ、そうだね。じゃ、ひろみも一緒に行く?」
「…随分ライトにお誘いを。私も行った方がよろしいのでしょうか?」
「ひろみ、想像してごらん。大空を飛んでゆく飛行機、北の大地のロマン、美味い料理に、北海道ならではの開放感…。
それが僕の専任執事であるという理由だけで、存分に堪能できるんだよ。」
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「私の役職が大変便利なものだという事に、今初めて気が付きました。正道様、…執事は1人、ご入り用でしょうか?」
「そうだね、1人いるといいかな。」
するとひろみは訳知り顔になって言った。
「畏まりました。では私も正道様のお供をしましょう。正道様も必要だとおっしゃったことですし。」
「よし、そうと決まったなら、明日の朝早く出発するから、今から旅の準備を整えておいてくれ。それから少し、温かめの格好をするといいよ。」
「分かりました。では私も、旅の準備をしてまいります。」
そう言い置いて、何処か弾んだ様子で部屋を出ていくひろみを、正道は面白そうな顔をして見送ったのだった。
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