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それからはいつもの雰囲気を取り戻し、三人でゆったりお茶を楽しんでから店を出ると、再び町をプラプラ歩き始めて、はじめさんは、私に聞きました。
「それでは、サエさん。次はどこへ行こうか?」
「そうですね、しばらく街歩きでも……」
「そうか。ならばこの道を直進だ」
そう言いながら、横断歩道を渡り始めたときのことでした。突然、物凄い勢いの車が道に飛び出してきて―。
金サンを、ひいていったのです。
私の頭の中は一瞬、真っ黒になり、思考が止まりました。問題の車はバックしてきて、運転手が引きつった顔で窓から顔を出し、辺りの様子を窺いましたが、人をひいたのではないと分かると、安堵した様子で、さっさと何処かへ走っていってしまいました。横断歩道に横たわっていたもの。それは。
灰色のネコでした。
私はショックで体が硬直してしまい、しばしその場所から動けませんでしたが、大声で、
「金サン!」
と叫ぶと、ようやく金縛りから解放されて、慌ててネコのもとに走り、その体をそっと抱き上げました。金サンは私の腕の中で、意識もなく、ぐったりとしていました。はじめさんは、呆気にとられていたけれど、パニックと戦っている私を守るように、そっと抱きかかえるようにして、横断歩道の向こう側へ連れていきました。
「いやだ、こんな別れは……、絶対にいや。お願い、息をして。お願い、生きていて、金サン……」
私は大粒の涙をポロポロ零しながら、今ではネコの姿になった金サンに、必死に語りかけました。私の大好きな金サン。心から大切な金サン―。はじめさんは困惑を何とか抑え込んだ様子で、意識を失っているネコの様子を確認しだしました。
「大きな、外傷はない。……息もしているぞ」
「はじめさん、こ、こ、これが、金サンの本当の姿なんです」
「ああ、分かっている。奇跡の現場を見た以上、信じるしかないだろう。サエさん、このネコは大丈夫かもしれないぞ」
「本当ですか?! だったら、だったらどうすれば……」
「とりあえず動物病院へ行こう。私が案内する」
「お願いします」
私はしっかりしなくてはと自分に言い聞かせ、金サンをそっと抱いて、先を行くはじめさんの後を、必死に追いかけていきました。
「それでは、サエさん。次はどこへ行こうか?」
「そうですね、しばらく街歩きでも……」
「そうか。ならばこの道を直進だ」
そう言いながら、横断歩道を渡り始めたときのことでした。突然、物凄い勢いの車が道に飛び出してきて―。
金サンを、ひいていったのです。
私の頭の中は一瞬、真っ黒になり、思考が止まりました。問題の車はバックしてきて、運転手が引きつった顔で窓から顔を出し、辺りの様子を窺いましたが、人をひいたのではないと分かると、安堵した様子で、さっさと何処かへ走っていってしまいました。横断歩道に横たわっていたもの。それは。
灰色のネコでした。
私はショックで体が硬直してしまい、しばしその場所から動けませんでしたが、大声で、
「金サン!」
と叫ぶと、ようやく金縛りから解放されて、慌ててネコのもとに走り、その体をそっと抱き上げました。金サンは私の腕の中で、意識もなく、ぐったりとしていました。はじめさんは、呆気にとられていたけれど、パニックと戦っている私を守るように、そっと抱きかかえるようにして、横断歩道の向こう側へ連れていきました。
「いやだ、こんな別れは……、絶対にいや。お願い、息をして。お願い、生きていて、金サン……」
私は大粒の涙をポロポロ零しながら、今ではネコの姿になった金サンに、必死に語りかけました。私の大好きな金サン。心から大切な金サン―。はじめさんは困惑を何とか抑え込んだ様子で、意識を失っているネコの様子を確認しだしました。
「大きな、外傷はない。……息もしているぞ」
「はじめさん、こ、こ、これが、金サンの本当の姿なんです」
「ああ、分かっている。奇跡の現場を見た以上、信じるしかないだろう。サエさん、このネコは大丈夫かもしれないぞ」
「本当ですか?! だったら、だったらどうすれば……」
「とりあえず動物病院へ行こう。私が案内する」
「お願いします」
私はしっかりしなくてはと自分に言い聞かせ、金サンをそっと抱いて、先を行くはじめさんの後を、必死に追いかけていきました。
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