19 / 38
18.
しおりを挟む
その後、金サンのファンクラブの話は順調に、進んでいきました。話を立ち上げたおばさま方、名は秋子さんとみどりさんと言うのですが、二人はちょくちょく占い部屋へ顔を出し、ポスターを貼ったり、金サンと話したり、私に現状を説明したり、また金サンと話したりしていましたが、さる日、二人はテカテカと顔を輝かせて、占い部屋へやってきました。
「金サン、それからサエさん」
「はい、秋子さん、みどりさん」
金サンは律儀に、素直に、返事をしました。秋子さんは頷いて、揉み手をしながらさらに続きを言いました。
「第一回の、ファンクラブの集いの日が決まったのよ! だから金サンの予定を伺いに来たの。金サン、もちろん来てくれるわよね?」
「はい、喜んで。サエも来ます」
するとみどりさんは一瞬真顔になって、私達に訊ねました。
「薄っすらと気にはなっていたんだけれど……。あなた達って、どういう関係? できているとか……」
「できているって何?」
金サンが発した問いを遮って、私はきっぱりと言いました。
「いいえ、全くそういう関係ではありません」
「そう、ほっとしたわ」
と、みどりさんは心底安心した、といった風情で言いました。秋子さんは笑顔になって、説明を続けました。
「大体十五人か、もう少し多いくらいの人達が、参加する予定なの。男の人も一人いてね、……ゲイの人なのかしら、三条はじめっていう……」
「三条はじめ」
思わず私は名前を繰り返しました。
「とにかく小さなカフェを貸し切り状態にして、みんなでお喋りする予定よ。もっと話が固まったら、真っ先にあなた達に伝えるわね。LINEのグループも作ったの。よければ、サエさんも参加してくれる?」
「分かりました。では日程や場所などについては、そちらで教えていただければ」
「そうね、それがいいわね」
「秋子さん、みどりさん、私達は仕事がありますから、今日はこの辺で……」
「まあ、ごめんなさい。じゃあ、私達はこれで失礼するわ!」
そう言い残し、二人は金サンに手を振って、去っていったのでした。金サンも手を振り返して二人を見送った後、急いでカードの準備をしている私に、面白そうな様子で話し掛けました。
「サエ、人の輪が広がったね」
「ファンクラブが人の輪と言えるのかどうか、分からないけれど」
「いい方へ流れていると思う。集いには、ステキな格好をして行きなよ」
「ステキな格好? 誰も私になんて注目していないのに?」
「三条はじめがいる。彼にアピールするために」
「彼は……、そうね。でも、私なんて。私って、デブだし、ブスだし、」
「サエはいい味出している人間だと思う」
「褒めているつもり?」
「かなり。ネコ的には最高の褒め言葉だよ」
「私ね」
「うん」
「現実逃避と言うのか……、ずっと、社会的なコミュニティーから逃げていたの。理由は抽象的で、個人的なことかもしれない。でも、私にも色々なことがあったのよ」
「だから占い師になったのでしょう」
「ファンクラブに参加すれば、私の何かが変わるかしら。さすらい人から、社会の一員になれるかしら」
「さあね。さすらい人でも悪くないと思うけどな。僕はその方が好き」
「それはあなたがネコだからよ。それにしても。金サンがネコに戻る日は来るのかしらね?」
「そのうちに。でも今は人間のままの方がいいや」
「お客さんが待っているわ。仕事を再開しよう」
「うん」
「金サン、それからサエさん」
「はい、秋子さん、みどりさん」
金サンは律儀に、素直に、返事をしました。秋子さんは頷いて、揉み手をしながらさらに続きを言いました。
「第一回の、ファンクラブの集いの日が決まったのよ! だから金サンの予定を伺いに来たの。金サン、もちろん来てくれるわよね?」
「はい、喜んで。サエも来ます」
するとみどりさんは一瞬真顔になって、私達に訊ねました。
「薄っすらと気にはなっていたんだけれど……。あなた達って、どういう関係? できているとか……」
「できているって何?」
金サンが発した問いを遮って、私はきっぱりと言いました。
「いいえ、全くそういう関係ではありません」
「そう、ほっとしたわ」
と、みどりさんは心底安心した、といった風情で言いました。秋子さんは笑顔になって、説明を続けました。
「大体十五人か、もう少し多いくらいの人達が、参加する予定なの。男の人も一人いてね、……ゲイの人なのかしら、三条はじめっていう……」
「三条はじめ」
思わず私は名前を繰り返しました。
「とにかく小さなカフェを貸し切り状態にして、みんなでお喋りする予定よ。もっと話が固まったら、真っ先にあなた達に伝えるわね。LINEのグループも作ったの。よければ、サエさんも参加してくれる?」
「分かりました。では日程や場所などについては、そちらで教えていただければ」
「そうね、それがいいわね」
「秋子さん、みどりさん、私達は仕事がありますから、今日はこの辺で……」
「まあ、ごめんなさい。じゃあ、私達はこれで失礼するわ!」
そう言い残し、二人は金サンに手を振って、去っていったのでした。金サンも手を振り返して二人を見送った後、急いでカードの準備をしている私に、面白そうな様子で話し掛けました。
「サエ、人の輪が広がったね」
「ファンクラブが人の輪と言えるのかどうか、分からないけれど」
「いい方へ流れていると思う。集いには、ステキな格好をして行きなよ」
「ステキな格好? 誰も私になんて注目していないのに?」
「三条はじめがいる。彼にアピールするために」
「彼は……、そうね。でも、私なんて。私って、デブだし、ブスだし、」
「サエはいい味出している人間だと思う」
「褒めているつもり?」
「かなり。ネコ的には最高の褒め言葉だよ」
「私ね」
「うん」
「現実逃避と言うのか……、ずっと、社会的なコミュニティーから逃げていたの。理由は抽象的で、個人的なことかもしれない。でも、私にも色々なことがあったのよ」
「だから占い師になったのでしょう」
「ファンクラブに参加すれば、私の何かが変わるかしら。さすらい人から、社会の一員になれるかしら」
「さあね。さすらい人でも悪くないと思うけどな。僕はその方が好き」
「それはあなたがネコだからよ。それにしても。金サンがネコに戻る日は来るのかしらね?」
「そのうちに。でも今は人間のままの方がいいや」
「お客さんが待っているわ。仕事を再開しよう」
「うん」
0
お気に入りに追加
0
あなたにおすすめの小説
裏切りの扉 非公開にしていましたが再upしました。11/4
設樂理沙
ライト文芸
非の打ち所の無い素敵な夫を持つ、魅力的な女性(おんな)萌枝
が夫の不始末に遭遇した時、彼女を襲ったものは?
心のままに……潔く、クールに歩んでゆく彼女の心と身体は
どこに行き着くのだろう。
2018年頃書いた作品になります。
❦イラストはPIXTA様内、ILLUSTRATION STORE様 有償素材
2024.9.20~11.3……一度非公開 11/4公開
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
透目町の日常
四十九院紙縞
ライト文芸
日常と非日常が隣り合い混ざり合う町。
なんにも起きなくてなんでも起こる田舎町。
そんな町で起こる「私」の日常。
※一話完結型の短編集ですので、気になったタイトルからお読みください。
イケメンドクターは幼馴染み!夜の診察はベッドの上!?
すずなり。
恋愛
仕事帰りにケガをしてしまった私、かざね。
病院で診てくれた医師は幼馴染みだった!
「こんなにかわいくなって・・・。」
10年ぶりに再会した私たち。
お互いに気持ちを伝えられないまま・・・想いだけが加速していく。
かざね「どうしよう・・・私、ちーちゃんが好きだ。」
幼馴染『千秋』。
通称『ちーちゃん』。
きびしい一面もあるけど、優しい『ちーちゃん』。
千秋「かざねの側に・・・俺はいたい。」
自分の気持ちに気がついたあと、距離を詰めてくるのはかざねの仕事仲間の『ユウト』。
ユウト「今・・特定の『誰か』がいないなら・・・俺と付き合ってください。」
かざねは悩む。
かざね(ちーちゃんに振り向いてもらえないなら・・・・・・私がユウトさんを愛しさえすれば・・・・・忘れられる・・?)
※お話の中に出てくる病気や、治療法、職業内容などは全て架空のものです。
想像の中だけでお楽しみください。
※お話は全て想像の世界です。現実世界とはなんの関係もありません。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
ただただ楽しんでいただけたら嬉しいです。
すずなり。
異世界占い師・ミシェルのよもやま話
Moonshine
恋愛
疲れた日本のOL、未知得。
ある日帰宅途中に、いきなり異世界の美貌の魔法使いによる反魂の術の失敗で、肉体と魂の一部が異世界に連れてこられてしまった。きちんと異世界になじんでいない魂は、肉体の次元のもの以外のものがみえてしまう。
そんな状況を現実派の未知得は、たくましくも利用して、異世界で、占い師・ミシェルとして、占いを始める事にしたのだった。
これは、やさぐれOLミシェルの、異世界で、たくましく占い師として生きる日々を綴った、異世界よもやま話。
猫不足の王子様にご指名されました
白峰暁
恋愛
元日本人のミーシャが転生した先は、災厄が断続的に人を襲う国だった。
災厄に襲われたミーシャは、王子のアーサーに命を救われる。
後日、ミーシャはアーサーに王宮に呼び出され、とある依頼をされた。
『自分の猫になってほしい』と――
※ヒーロー・ヒロインどちらも鈍いです。
ピアノの家のふたりの姉妹
九重智
ライト文芸
【ふたりの親愛はピアノの連弾のように奏でられた。いざもう一人の弾き手を失うと、幸福の音色も、物足りない、隙間だらけのわびしさばかり残ってしまう。】
ピアノの響く家には、ふたりの姉妹がいた。仲睦ましい姉妹は互いに深い親愛を抱えていたが、姉の雪子の変化により、ふたりの関係は徐々に変わっていく。
(縦書き読み推奨です)
[完結済み]男女比1対99の貞操観念が逆転した世界での日常が狂いまくっている件
森 拓也
キャラ文芸
俺、緒方 悟(おがた さとる)は意識を取り戻したら男女比1対99の貞操観念が逆転した世界にいた。そこでは男が稀少であり、何よりも尊重されていて、俺も例外ではなかった。
学校の中も、男子生徒が数人しかいないからまるで雰囲気が違う。廊下を歩いてても、女子たちの声だけが聞こえてくる。まるで別の世界みたいに。
そんな中でも俺の周りには優しいな女子たちがたくさんいる。特に、幼馴染の美羽はずっと俺のことを気にかけてくれているみたいで……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる