金サン!

桃青

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 その日も続々と、お客が現れました。私は慎重さを心掛けつつも、せっせと占い、金サンは尻尾をピンと立て、ではなく、そんな風情で、たまに、僕のファンクラブができるみたいですと発言をし、お客さんを驚かせたり、喜ばせたりしていました。いいわね、という人もいたし、人は集まるの? と心配してくださる方もいて……。しかし金サンは他人の反応などそっちのけで、目をキラッと輝かせて、新展開を面白がっているようでした。

「私の名は、三条はじめ!」
 どこか聞き覚えのある声で、我に返った私と金サンが見上げると、あの三条はじめが目の前に立ち、腕を組み、仁王立ちをして、不敵な笑みを浮かべているのでした。しばしその姿を眺めてから、私は言いました。
「あの、どうぞお座りください」
「うむ」
「またいらして下さったのですね。ありがとうございます」
「どうやらこの占いに嵌ってしまったらしいぞ。おみくじ占いをお願いしたいんだが」
「はい、かしこまり、」
 そこで金サンがさりげなく会話に割り込みました。
「三条さん」
「ウム、何だ、金サン。唐突に」
「僕のファンクラブができるようです」
「君の? 占いと関係なく?」
「はい」
「そうか。……。私は作家だ」
 今度は私が話に割り込む番でした。
「三条さんの本、読ませていただきました」
「ほう。どうでした?」
「不可解なものがある話でした。普通に生きている人なら発想できない何かがあります」
「面白いことを言ってくれるわ。で、占いの話に戻るんだが」
「ええ、どうぞ」
「私はモテたい。前回そのことについて、占ってもらったわけだ」
「ええ」
「私が作家になった理由の一つは、モテるかもしれないと思ったからだ。でも、作家になれても、特に変化はなかった。どうやら私には人望がないらしい。人も寄ってこないし、ファンクラブだってできはしない」
「それは残念ですね」
 金サンは大真面目にそう言いました。三条さんは三白眼になって、金サンをじろりと眺めつつ、哀しげに言いました。
「どうして君はモテるのかな。性格が……、いや、やっぱり顔か」
「三条さん」
「ん?」
「よければ僕のファンクラブに来て」
「金サンの? 腹立たしいわ、何で私が、君のファンクラブに行かなくてはならんのだ。言ってみれば君と私はライバル同士。つまり、君のファンクラブなぞ、私にとって敵陣のようなもの―」
「でも、女の人がいっぱい来ます。若い人から、おばあさんまで」
「金サンに興味のある女性がな」
「ファンクラブはあまりお金がかからないけれど、出会いがいっぱい。しかも男の人だって、参加オーケーです」
「……。まあ、そういう見方もあるな」
「それに、みんな僕のファンというよりも、ただお喋りがしたいだけだよ。僕の存在はおまけのようなものなの。サエも来るし―」
「私は関係ないでしょ、金サン」
 私が慌てて口を挟むと、金サンはにこっと笑って、再び三条さんへ畳み掛けました。
「もうすぐポスターを張り出します。だからそれを見て、考えてみてください」
「……。まあ、そうだな。で、私の占いは、」
「今占います! お題は何にしますか?」
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