金サン!

桃青

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 私と金サンは、仕事の帰り道にスーパーに立ち寄り、夕食の買い物をしながら話をしました。
「金サン。……情報の力って凄いね。噂が噂を呼び、金サンのおかげでお客が、どんと増えてしまった。う~ん、私の占いが評価されたわけじゃないのが、微妙な所なんだけれど」
「サエの占いもよかったんじゃない? そうでないと、こんな風にはならなかったと思う」
「今日はね、お金にゆとりがあるから、金サンが食べたいものを選んでいいよ」
「本当? なら、かっぱえびせん!」
「そんなものでいいの」
「あれ、好きなんだ。ぽりぽりカリカリしてて、なんかキャットフードを思い出す」
「そう、分かった。なら私はお刺身でも買おうかな。金サンも食べるよね?」
「うん。僕、人として色々な物を食べてみたい」
「人。ネコ。金サン。あああ、頭が混乱しそう」
 買い物を済ませ、私達は外灯で浮かび上がる夜道を、家に向かって歩いていきました。私の隣で金サンは、ポリポリかっぱえびせんを食べながら、熱心に輝く月を見つめて、言いました。
「サエ、僕って殆ど家のことしか知らなかったよね」
「そうね。私が外に出さなかったからね」
「でも世界って広いんだな。この世はミラクルだらけだ」
「スピリチュアルな視点だと、そういう考え方は珍しくないのだけれど、現実をそう捉えている人って、多くはないんだよね。もったいないことだと思うわ」
「僕もそう思う」
「金サンと巡り合えたのも、奇跡かもね」
「奇跡。そうかも」
「思い出すな。金サンはね、ある雨の日に、木陰でちっちゃくなってね、ミィ~、ミィ~って、必死に鳴いている子猫だったんだよ。本当にか弱くて、可愛かったの。私は完全に参ってしまって、その場で飼うことを決意したのよ。どうしても、そのままにはできなかった」
「そうだったんだ。僕、全然覚えていない。もしその時サエと出会わなかったら―」
「私も、金サンも、人生が少し変わっていただろうね。金サンは人間にならずに済んだかもしれないし、あるいはもう死んでいたかも」
「サエ。色々ありがとう。大好きだよ」
「ふふっ、私も同じ気持ち」
 私はかっぱえびせんを再び熱心に食べ始めた金サンの横顔を、見つめました。私には金サンがネコであることが分かっているので、恋愛感情は抱きませんでしたが、その姿は素敵で美しかった。ふと、この先何が起きるのだろうという思いが、胸を掠めていきます。
私は占い師だから知っています。いいことが起きるかもしれないけれど、いいことだけの人生は決して存在しないことも。

 私にできることは予感を胸に、前を見据え続けること。人生で前進しようとする人は、みな勇者です。私は今、世界中で葛藤している勇者達を祝福したいと思います。どうかその人生の行く先に、幸がありますようにと。
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