おんなのこ

桃青

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36.過食と思いと

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 言葉通り、西崎さんは本当に食べた。ナツは始めの内、おなかがそんなに空いていたのかと思ったが、次第にそうではないと思うようになる。食べることに、恨みつらみがぎっしりと詰まっている、そんな感じだ。出だしはもちろん、コーヒー、ケーキから始まり、次の店でオムライス、次の店で大盛りサラダ、次の店でステーキ二百グラムといった具合に食べ進める西崎さんに、とにかくナツは付き合った。西崎さんがいつも一人で食べているのもあれなので、ナツも何か食べようと努力したが、完全に振り切っている彼に追いつけるはずもなく―。
 男の人とはいえ、どう考えても標準体型の彼にしては、食べすぎのはずだ。いや、異常な食欲と言ってもいい。ステーキを食べていた時、ナツは一番小さなハンバーグを食べながら、たまらずに訊ねた。
「あの、苦しくないですか? 」
 彼はフッとナツを見て、視線を食べ物に戻し、言った。
「苦しいです」
「ですよね」
「でも、食いたくないけど、まだ食います」
「それは、……何で? 」
「そう決めたから。次の店へ行きましょう」
「は、はい」
 次の店でフルーツパフェ、出店でクレープ、さらに出店でたこ焼き。この頃には、ナツは完全に食べることを諦めた。暴走する西崎さんを止めることはできないし、ならば、せめて隣にいようと、半ば悟りの境地になった。
 マックのセット、立ち食いラーメン、アイスクリーム。ナツは自分の目が白黒してきた気がした。さらに行こうとする彼に追いすがって、ナツは言った。
「西崎さん、そろそろやめましょう。食べることも限界じゃないですか? 」
「苦しくて死にそう。人って、食いすぎで死ぬことあるのかな」
「胃が破裂するとか? 分かりません。でも、もう。どう見ても、自分で自分を苛めているようにしか思えません」
 ナツは何だか泣きそうになってそう言ったら、ふと彼は歩みを止めて、ナツに聞いた。
「そうですか? 」
「そうですよ。だって、食事をしていても、全然美味しそうにも、楽しそうにも見えないもの。これじゃ……、亡くなってしまった西崎さんの彼女の方と、同じじゃないですか」
「そんなつもりは……。でもそうなのかな」
「たっ、食べ物屋は、もうストップです。ドクターストップですよ。今度はどこか景色のいい所へでも行きましょ。それで癒されましょう。ね? 」
「僕、見苦しかったですか」
「見苦しいというより、ただただ心配です。それに今のあなたに必要なのは、もう食べ物じゃないでしょう」
「なら、海に行きたいです」
「海」
「これから海に行きませんか。一緒に、来てくれますか」
「いいです、いいです。もちろん行きます。ぜひ行きましょう」
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