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34.人と人
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西崎さんとのLINEでのやり取りを読み返しながら、ナツは独り言を言った。
「西崎さんって、お茶目な人よね、多分」
大人としての常識もちゃんと持っているけれど、本来はとても子供っぽい所も、多々ある人。そんな感じがする。LINEで話し合った結果、西崎さんとデートする日も決まった……、いや、付き合っているわけではないので、お出掛けという方が正しいのかも。楽しみというより、率直に言えば、彼のことが心配だった。男の人だけれど。きっと素敵な人だけれど。恋というより、今は少しでも彼の支えになれるのなら、会おうか、という気持ちが強い。電話で話したマリアの言葉が、確かに自分の支えになっている。
私と彼の、モヤモヤを晴らしにいくのだ、ナツ。
霧が晴れたら、自分の望みもすっきり見えるようになる。いや、そうなるといいなと願っている。
彼の望みと私の望みが重なった時。
その先にあるものは何?
西崎さんとのお出掛け当日。ナツはオキヨの店で買ったスカートをはいた。素敵な服だから、というのが一番の理由だけれど、オキヨのセンスの良さが、自分を後押ししてくれている気がする。いつもより十分長くメイクに時間をかけて、ナツは家を出たのだった。
待ち合わせ場所の駅前に着くと、スマホをいじっている西崎さんの姿が、すぐ目に留まった。真面目な印象のコート姿。まるで仕事帰りみたい、と思いながら、ナツは彼に声を掛けた。
「西崎さん」
「あ、古川さん」
そう言って我に返った彼は、ふっと笑った。
ナツはちょっと、どきりとした。男の人の優しい笑顔は、誰のものでも温かさが詰まっている。ときめきを隠しつつ、彼に訊ねた。
「これからどうしますか? 」
「そうですね、どうしましょうか」
「どこか行きたい所とか、ありますか? 」
「うん、あります。とりあえず、今はコーヒーが飲みたい」
「なら、喫茶店でも探しつつ、散歩しましょうか」
「いいですね。ぜひ」
二人は横に並んで、ちょっと照れつつ、人混みに紛れながら道を歩き始めた。西崎さんは男らしい無頓着な感じで言った。
「外でデートなんて、何年ぶりだろ」
「えっ、何年も外でデートしていなかったんですか? 」
ナツの驚きに満ちた発言に、彼はうん、と頷いて答えた。
「亡くなった彼女が、家の外に出たがらなかったですからね。もっぱらお家デートでした。彼女、料理がうまかったから、家でうまい料理をいつも作ってくれたなあ」
「……。料理がおいしいのに、摂食障害だなんて。皮肉ですね」
「多分食べたいという思いは、人一倍あったのだと思う。栄養的にも全然足りていないわけだから、体も物凄く欲していただろうしね」
「そういえば、この間買ったバラ、どうでした? 」
「お花は奇麗だったけれど、正直に言うと、僕の部屋には似合わなかったです」
「ふふ。あはは、そうだったんですか」
「古川さんの言う通り、グリーンの植物にすればよかった。個人的には、奇麗な花が枯れていくのを見るのが、物悲しかったな」
「そういう時は、ドライフラワーにするっていう手もありますよ。あ、このお店どうですか? 」
「コーヒー一杯、二百五十円……。安いな。良さそうですね、入りましょうか? 」
「そうしましょう」
二人は気安い感じの、下町の風情がする喫茶店へと入っていった。
「西崎さんって、お茶目な人よね、多分」
大人としての常識もちゃんと持っているけれど、本来はとても子供っぽい所も、多々ある人。そんな感じがする。LINEで話し合った結果、西崎さんとデートする日も決まった……、いや、付き合っているわけではないので、お出掛けという方が正しいのかも。楽しみというより、率直に言えば、彼のことが心配だった。男の人だけれど。きっと素敵な人だけれど。恋というより、今は少しでも彼の支えになれるのなら、会おうか、という気持ちが強い。電話で話したマリアの言葉が、確かに自分の支えになっている。
私と彼の、モヤモヤを晴らしにいくのだ、ナツ。
霧が晴れたら、自分の望みもすっきり見えるようになる。いや、そうなるといいなと願っている。
彼の望みと私の望みが重なった時。
その先にあるものは何?
西崎さんとのお出掛け当日。ナツはオキヨの店で買ったスカートをはいた。素敵な服だから、というのが一番の理由だけれど、オキヨのセンスの良さが、自分を後押ししてくれている気がする。いつもより十分長くメイクに時間をかけて、ナツは家を出たのだった。
待ち合わせ場所の駅前に着くと、スマホをいじっている西崎さんの姿が、すぐ目に留まった。真面目な印象のコート姿。まるで仕事帰りみたい、と思いながら、ナツは彼に声を掛けた。
「西崎さん」
「あ、古川さん」
そう言って我に返った彼は、ふっと笑った。
ナツはちょっと、どきりとした。男の人の優しい笑顔は、誰のものでも温かさが詰まっている。ときめきを隠しつつ、彼に訊ねた。
「これからどうしますか? 」
「そうですね、どうしましょうか」
「どこか行きたい所とか、ありますか? 」
「うん、あります。とりあえず、今はコーヒーが飲みたい」
「なら、喫茶店でも探しつつ、散歩しましょうか」
「いいですね。ぜひ」
二人は横に並んで、ちょっと照れつつ、人混みに紛れながら道を歩き始めた。西崎さんは男らしい無頓着な感じで言った。
「外でデートなんて、何年ぶりだろ」
「えっ、何年も外でデートしていなかったんですか? 」
ナツの驚きに満ちた発言に、彼はうん、と頷いて答えた。
「亡くなった彼女が、家の外に出たがらなかったですからね。もっぱらお家デートでした。彼女、料理がうまかったから、家でうまい料理をいつも作ってくれたなあ」
「……。料理がおいしいのに、摂食障害だなんて。皮肉ですね」
「多分食べたいという思いは、人一倍あったのだと思う。栄養的にも全然足りていないわけだから、体も物凄く欲していただろうしね」
「そういえば、この間買ったバラ、どうでした? 」
「お花は奇麗だったけれど、正直に言うと、僕の部屋には似合わなかったです」
「ふふ。あはは、そうだったんですか」
「古川さんの言う通り、グリーンの植物にすればよかった。個人的には、奇麗な花が枯れていくのを見るのが、物悲しかったな」
「そういう時は、ドライフラワーにするっていう手もありますよ。あ、このお店どうですか? 」
「コーヒー一杯、二百五十円……。安いな。良さそうですね、入りましょうか? 」
「そうしましょう」
二人は気安い感じの、下町の風情がする喫茶店へと入っていった。
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