おんなのこ

桃青

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30.初日ツー

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 棚にお肉を並べ終えて戻ってくると、おばさん達が肉の料理について、楽し気に話し合っていた。
(どうやらこの職場は、そんなに忙しい職場ではなさそうよ)
 マリアは思った。肉を切り、パック詰めをして、値札をつけ並べる。それがやることの全てらしい。唐突にマリアは話し掛けられた。
「上田さん! 」
「はっ、はい」
「前は何の仕事をやっていたの? 」
 ここでマリアは完全に言葉に詰まった。嘘はよくない。でも。
「そうですね、目指していることがあるというか、ないというか。それで家で勉強のようなものを……」
「勉強ねえ」「へー」「そうなんだ」
 三人のおばさんは口々に言った。おばさんの一人がさらに言う。
「息子が高校を卒業したら、就職せずに、専門学校へ行くっていうの」
「今の子達は皆そうよねえ」「うちの子は大学へ行ったわよ」
「そうでしょ。だから私はパートを始めたのよ。まあ、そう言うなら、行かせてあげようかっていう」
 マリアは心で呟いた。
(子供を学校に行かせるために、さらに働かなくてはならないのか……。エスカレーターで大学まで行った私には、分からない苦労話ね。でも何か、このおばさま達からは、パワーを感じるのよ。やってやるぜ、みたいな? 精気っていうのかしら。元気です、生きています、っていう)
 おばさん達は時々マリアを会話に引きずり込みながら、ほいほいと仕事をこなしていく。隠れた苦労があるのかもしれないが、彼女達が幸せそうに見えた。マリアも仕事は辛くなかったし、ブランクだった自分が、少しずつ何かで満ちていく感覚が心地よかった。充足というか、満足というべきか。
 仕事の時間は四時間にしてもらっていた。最初から長い時間働ける自信がなかったし、スーパーの人もそれでいいと、OKを出してくれたからだ。四時間なら、疲れをとったり、一日の中でマリアの自由にできる時間も取れる。大分職場に馴染みだした所で、マリアはおばさん達に別れを告げ、いつもの量産型マリアに戻って、従業員出口から外の世界へ戻って言った。

(ちょっと、このスーパーについて詳しくなろうかしら)
 マリアはふと思った。お婆さんに質問されて、ちゃんと答えられなかったことが、心に引っ掛かっていたのだ。ならば、このスーパーで買い物をしながら、配置を頭に入れようと思いついた。一般客として、スーパーの入口から中に入ると、少しこそばゆい。他人行儀だった何かが身内になっているような、そんな感覚だ。
(スイーツ、スイーツ。とにかくスイーツが食べたいわ。生クリームがぎっしり詰まったケーキとか売っていない? )
 マリアはフワフワと店内をさ迷い歩く。
(そう言えば、グルテンフリーのパスタって、結局どこにあったのかしら)
(小さなスーパーと思っていたけれど、商品数も多いし、店舗のスペースも割と広い。コンビニ以上、大型スーパー以下、ってところね)
(あった! スイーツのコーナー。わあ、奇麗じゃない? フルーツのタルトなんて、ケーキ屋さんで売っているレベルだわ。これは買いね)
(なんだか安い、なめらかプリンというのも買ってみるわ)
(ここがパスタのコーナーね。とりあえずたらこクリームのパスタソースは買うわ。おしゃれなパッケージで、美味しそうだし)
(これだけパスタの種類があるのね。なるほど、おばあさんが迷うのも無理はない)
(全粒粉のパスタならあるけれど、グルテンフリーとは違うわよね)
(ここにはない。結局答えは謎のまま。あ、この輸入物のトマトソースは買うわ。百四十九円なんて安いじゃないの)
 ふと我に返った時には、カゴはずしりと重くなっていた。今日働いたバイト代が、早々に消えて飛びそうだったが、それでもいいとマリアは思った。仕事場で会ったたくさんの人達。その人々の収入に貢献できるのだから、それならば。レジに行ってお会計をし、すみっこぐらしのエコバッグに、ほいほい食料を放り込んでいく。サンリオを買う時とは別物の、満足感がある。というか、この満足感があるなら、前ほどサンリオに依存しなくていい気もする。
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