おんなのこ

桃青

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13.迷

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 喫茶店を後にしたオキヨと俊の、食べ歩きデートがそれから本格的に始まった。まずはオキヨが提案した、とんこつラーメンが売りのお店から。滑りのいい細麺と、紅しょうがのアクセントがトレビアンなのだ。オキヨが恥も外聞も捨てて、ラーメンをすする姿を、俊は隣でジュースを飲みながら、楽しそうに見ていた。十数分で完食して店を出ると、次はバイキングのお店へ。広い空間の、こじゃれた店内へ入っていくと、オキヨと俊はゆったりとした気持ちになり、ソファーに腰掛け、ゆっくりと時間をかけて、存分に食べた。オキヨの大好きなピザが数種類もあり、愛おしそうに彼女は全種類を制覇する。クリームが濃厚なアイスは絶品で、コーヒーにアイスを浮かべて頂いたりして、栄養も考慮に入れて、サラダも遠慮なく頂く。
 
食べながら、二人の話に花が咲いた。俊は話すよりも、オキヨの話をよく聞いた。オキヨはふと、俊は話すことはないのかしらと思い、彼に訊ねたが、俺は仕事の話しかないし、それよりもオキヨさんの話を聞く方がいいと言う。
「会社で何かいいこととか、ないの? 」
 とオキヨが聞くと、
「新しく、可愛い女の子が入ってきたけれど、そんな話、聞きたい? 」
 と、俊は小さく盛ったシャーベットを食べながら言う。確かに、デートの最中にそんな話は聞きたくなかった。
 さらに三件の店を巡って、今日のデートはお開きになった。俊はデートの途中で買った、オキヨへのおみやげ、ミスタードーナツを手渡しながら、言う。
「なあ、俺達、このままじゃダメなのかな」
「多分、駄目だと思うわ。一歩、あるいはぐぐっと、前に進んでいかないと」
「だから進むために、結婚が必要ってこと? 」
「他の手段が思いつかないのよ。何か別の方法があるのなら、誰かに教えてほしいものだわ」
「俺……」
「? 」
「ううん、何でもない。今日は楽しかった」
「そう、ならよかった。私も存分に食べたわ」
「そっちね。愛とか、Loveとか、それだけじゃダメなんだね、きっと」
「無形のものを、時として形にしてゆく必要があるのじゃないかしら」
「なるほど。このミスタードーナツのように? 」
「うう、もどかしくてうまく言えない。それとはちょっと違うのよ。これが女心というものかしら」
「女心をくすぐるような、かっこいいことなんて、俺にはできそうもないな。求められてもさ」
「そうじゃないの。そうじゃなくて」
「……。俺も家に帰って、少し真面目に考えてみるよ。じゃ」
 そう言って俊は駅でオキヨと別れ、遠くへと離れていった。消えていった彼の姿を愛おしく思いつつ、受け取ったミスタードーナツの重みを感じつつ、オキヨは考えた。
(俊の態度は変わらないのに、何かが今までとは変わっているのよ)
(俊が好きとか嫌いとか、そういう問題ではなく、私は……)
(結婚が怖い)
(もし、俊が私から離れていけば、とっても悲しいの)
(彼を愛していないわけじゃないの。そう)
(私は自分に自信がない)
(こんなに太っているし、自分の魅力というものが、全く分からないの。ルックス、性格、エロス、どこを取っても女として誇れるものがないわ)
(そんな、そんな私を、何故俊は好きでいてくれるのかしら)
(何故か泣いてしまいたい気分。心の奥底から、咆哮のように泣きたい気分よ)
 男性がプロポーズの時に、君を幸せにするよ、なんていうシーンが、ドラマなんかでよくある。女性もパーッと輝いた顔をして、Yesなんて、しおらしく言うものだ。でも私はそんな風に思えないし、第一に俊とそんなやりとりをすることなんて、あるのかしら。
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