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11.恋愛マスター?
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(ナツにこの間、恋愛についてレクチャーしてみたものの)
(私の恋愛は迷宮入りだわ)
西山清子ことオキヨはそう思った。身長百六十三センチ、体重百三十キロの体は、オキヨが今いる喫茶店でもよく目立つ。彼女は美しさが漂う顔をしているので、なおのことだった。
(今年で三十五才になった。結婚したいなら、そろそろちゃんと考えるべきよね。でも私の彼氏は……)
「オーキヨさん」
そう声を掛けられて、顔を上げると、彼氏の柊俊が、笑って目の前に立っていた。オキヨは静かに言った。
「どうぞ、座って」
「うん、そうさせてもらうよ。待った? 」
「少し。でも考え事をしていたから、苦にならなかったわ」
「そう。なら良かった」
俊はそう言って椅子に座ると、真剣にメニューを見始めた。オキヨはそんな彼を見つめつつ、心で呟く。
(俊って、いい人なんだけれど……)
(何か決定打に欠けている気がする。それは彼のせい? それとも私の我が儘なのか……)
「オキヨは何を頼んだの? 」
俊の問いかけに、小さく息を吐いてから、オキヨは答えた。
「とりあえずコーヒーだけ。俊が来てから、食事のことを考えようと思ったの」
「そう。なら、この店を出る? で、どこかがっつりと食べられる店へ―」
「いえ、その前にここの焼きそばカレーは外せない。それだけは絶対に頂くわ」
「なら俺も、サンドウィッチでも食べよう。何も食べていないから、腹が空いて」
そう言い、二人が注文を済ますと、オキヨは言った。
「俊、私は」
「うん」
「待っている間、結婚について考えていたの」
「ウン。俺達の? 」
「そうよ。私は三十五で、俊も三十になったじゃない」
「そうだね」
「そろそろ決めないといけないと思うの。ゴールインするか、それとも……」
「オキヨはどうしたいの? 」
「私? 私がどうしたいかって? 」
「そう。結婚したいの、したくないの? 」
「ええと。そうね。結婚はしたいわ。でも、なんと言えばいいのか、……決定打に欠けて」
「ふーん」
「俊のことは好きよ。でも、……これって、マリッジブルーと似たようなものかしら。先に進むのが怖いの」
「俺のせいなのかな」
「それすらもよく分からない感じ」
そこにサンドウィッチと焼きそばカレーが運ばれてきた。それを見て、オキヨの目が一瞬ギラリと光る。そのことに気付いた俊は、何故か微笑んだ。オキヨが上品に焼きそばをつまみつつも、豪快に食べる姿を見ながら、俊は言った。
「俺達、付き合って五年になるじゃない」
「ぐっ、ごがが、がが」
「五年ってさ、倦怠期ならぬ、交際ブルーが訪れる時期なのかもしれないね」
「んご、ごごごっ」
「……。オキヨ、話聞いてる? 」
「ンガ。聞いているし、考えているわ。やはりこの、焼きそばカレーは最高よって」
「そっちね」
オキヨは焼きそばカレーを平らげ、皿が完璧に奇麗になったことを確認すると、ようやく満足そうに息を吐いた。目の前では俊が、小さな口でちょぼちょぼとサンドウィッチを食べている。そのサンドウィッチを見つめながら、オキヨは言った。
(私の恋愛は迷宮入りだわ)
西山清子ことオキヨはそう思った。身長百六十三センチ、体重百三十キロの体は、オキヨが今いる喫茶店でもよく目立つ。彼女は美しさが漂う顔をしているので、なおのことだった。
(今年で三十五才になった。結婚したいなら、そろそろちゃんと考えるべきよね。でも私の彼氏は……)
「オーキヨさん」
そう声を掛けられて、顔を上げると、彼氏の柊俊が、笑って目の前に立っていた。オキヨは静かに言った。
「どうぞ、座って」
「うん、そうさせてもらうよ。待った? 」
「少し。でも考え事をしていたから、苦にならなかったわ」
「そう。なら良かった」
俊はそう言って椅子に座ると、真剣にメニューを見始めた。オキヨはそんな彼を見つめつつ、心で呟く。
(俊って、いい人なんだけれど……)
(何か決定打に欠けている気がする。それは彼のせい? それとも私の我が儘なのか……)
「オキヨは何を頼んだの? 」
俊の問いかけに、小さく息を吐いてから、オキヨは答えた。
「とりあえずコーヒーだけ。俊が来てから、食事のことを考えようと思ったの」
「そう。なら、この店を出る? で、どこかがっつりと食べられる店へ―」
「いえ、その前にここの焼きそばカレーは外せない。それだけは絶対に頂くわ」
「なら俺も、サンドウィッチでも食べよう。何も食べていないから、腹が空いて」
そう言い、二人が注文を済ますと、オキヨは言った。
「俊、私は」
「うん」
「待っている間、結婚について考えていたの」
「ウン。俺達の? 」
「そうよ。私は三十五で、俊も三十になったじゃない」
「そうだね」
「そろそろ決めないといけないと思うの。ゴールインするか、それとも……」
「オキヨはどうしたいの? 」
「私? 私がどうしたいかって? 」
「そう。結婚したいの、したくないの? 」
「ええと。そうね。結婚はしたいわ。でも、なんと言えばいいのか、……決定打に欠けて」
「ふーん」
「俊のことは好きよ。でも、……これって、マリッジブルーと似たようなものかしら。先に進むのが怖いの」
「俺のせいなのかな」
「それすらもよく分からない感じ」
そこにサンドウィッチと焼きそばカレーが運ばれてきた。それを見て、オキヨの目が一瞬ギラリと光る。そのことに気付いた俊は、何故か微笑んだ。オキヨが上品に焼きそばをつまみつつも、豪快に食べる姿を見ながら、俊は言った。
「俺達、付き合って五年になるじゃない」
「ぐっ、ごがが、がが」
「五年ってさ、倦怠期ならぬ、交際ブルーが訪れる時期なのかもしれないね」
「んご、ごごごっ」
「……。オキヨ、話聞いてる? 」
「ンガ。聞いているし、考えているわ。やはりこの、焼きそばカレーは最高よって」
「そっちね」
オキヨは焼きそばカレーを平らげ、皿が完璧に奇麗になったことを確認すると、ようやく満足そうに息を吐いた。目の前では俊が、小さな口でちょぼちょぼとサンドウィッチを食べている。そのサンドウィッチを見つめながら、オキヨは言った。
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