おとぎの世界で

桃青

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嵐の前

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 外に出ると、厚い雲のせいで灰色に染まった世界が広がり、風がビュービューと吹いていました。シシが言った通り、嵐になりそうだなと思いながら、疲れない程度の速足で、シュリの家を目指してひたすら歩きました。
(これだけの光る草があれば、シュリの家へ助けを求めてやってくる、切羽詰まった生き物たち全員に草を与えることができるはず)
(この草を使って)
(私が幸せにしないと。それがカベーから託された、私の役目)
 ふと空を見て、ぽそりとぼやきました。
「気のせいか、空がますます暗くなった気がする」
(光が消えて、世界が一旦停止して、動き出す。新しくなって。新しく輝きだす光へ向かって)
(カベーの予言は、言葉通りに受け取ればいいのか……。比喩的にも取れるけれど、直接的な事態を表しているのかも)
「光が消える……」
 そう囁いてまた空を見てみると、本当に今にも明るさが消えてしまう気がして、胸がざわっとしました。
(この儚い世界を守りたい。そんな思いが募ってくる―)
 不安な気持ちをかき消すように、ただただ歩き続けました。林を抜け、野原を渡り、川の側まで辿り着くと、ようやく私は心底ほっとしました。ここまで来れば、シュリの家はもうすぐです。ですが、あの青い屋根の立派な家が見えたとき、目の前に広がっている光景にショックを受けました。家の前が、美しすぎる庭園が、様々な生き物たちで溢れ返っていたのです。座り込んでいる者もいれば、落ち着きなく動き回っている者もいるし、空を飛んでいる者もいる。パニックとまではいかなくても、それに近い何かが起きていることは、すぐに悟りました。とにかく今は、シュリに会って話をしなければ。
 うろついている生き物たちをよけつつ、玄関の扉の前まで行って、ベルをリンリンと鳴らすと、すぐ見覚えのある少年が顔を出し、私に告げました。
「シュリ様は、ただ今会議中です」
「ボウイさん、私はトイです。どうしても話したいことがあると、シュリに伝えてください。急いでいる、とも」
「分かりました。こちらでお待ちください」
 そう言って少年は、たちまち家の中へ姿を消しました。何が起きているのだろうと、水色の扉を眺めながら、じりじりしつつ考えていると、ぱたんと扉が開き、ボウイ少年が顔を出して言いました。
「シュリ様がお会いしたいそうです。私の後について来て下さい」
「はい」
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