おとぎの世界で

桃青

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異世界へ

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そんなことを話してしばらく歩くと、あの野原に出ました。私の行きつけの、カベーがいた野原です。
「ここなの」
 私がそう言うと、タイムはあからさまにつまらなそうな態度になって、言いました。
「光っている草なんて、全然ないじゃない。俺なりに楽しみにして来たのにさあ」
「今はないけれど、ここがキーポイントなの。中へ入っていこう」
「それにしても広い野原だね」
 私たちはしばらく無言で、野原を歩き続けました。私は必死に植物の観察をしましたが、光っている草などどこにも見当たりません。
「どうしたものかな」
 私が溜息と共にそう言うと、ふとタイムが立ち止まって言いました。
「トイ」
「何? 」
「異空間の入り口が見える」
「異空間? ……入り口? 」
「空気が別物なんだよ、この場所は。おとぎの世界じゃない所に繋がっていないと、そうはならない」
「異空間―。なら、私たちはそこへ行けるのかしら」
「試してみる? 」
 そう言うとタイムは、手を振ったり、パタパタしたり、上下に動かしたりした後、目に見えない何かを掴んで、ぎゅっと下に引っ張りました。私がタイムの隣に行って覗き込むと、おとぎの世界の景色にぱっかりと穴が開いて、別の世界がその先に広がっているのでした。私は感動に満たされ、タイムに尋ねました。
「すごい……。ところで異空間って、何なの? 」
「このおとぎの世界の続き、みたいな所じゃない? 別物だけど、繋がってはいる感じ」
「この先に、カベーがいるかもしれない」
「あらそう? なら、行ってみようか」
「タイム、一緒に行ってくれるよね。私、不安なの」
「いいよ。ってか、俺が行かないと、トイ一人じゃ元の世界へ帰ってこられないでしょ。じゃ、中へ入って」
「この中へ? 怖いな」
「平気だって。俺が後に続くからさあ」
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