おとぎの世界で

桃青

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両親

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 家へ帰ってきて、まず採ってきた植物の整理を済ませ、シシにご飯を上げてから、自分の夕食の支度もして、私はまだ光り続けている不思議な草の入った袋を片手に、テーブルについて、料理を食べながら考えに耽りました。
「シシ、タネの実は美味しい? 」
「おいしー! ウッシッシッシッ」
「なら、よし。それにしても、この謎に満ちた草はどうしたものか……。人の闇を吸い込んで、それを増幅させる死神草は、光を吸収するらしい。実物は見たことないけれど。この黄色く光る草は、光を放つから、死神草とは対極にある存在? ってことは、人の明るさを増幅するのか?
 ねえ、シシ。この草をちょっと、食べてみてくれない? 」
「やなこった! 」
「正直でよろしい。毒草の特徴は見受けられないから、毒はないと思う。よし、私で実験してみよう」
 私はそう言うと、その黄色い葉を一枚だけちぎり取り、そっと口の中に入れました。次の瞬間。

 微笑む母の顔が、浮かび上がりました。次には、笑っている父の顔も。温かいものにどんどんくるまれていき、いやおうなしに、『幸福』という言葉が、頭の中に浮かび上がります。多幸感に溺れるような感覚に陥った時、私は我に返って家を見渡しました。

 ここは静かで、ほんのりと温かい我が家でした。私自身も、もう素の自分に戻っていました。
「これ、その人自身の明るい記憶を、増幅するんだ……。どうやって使うのが効果的なのか、はっきりしないけれど、でも―」
(父と母に食べさせたい)
 私はそうひらめきました。
(あの苦悩と混乱のただ中にいる両親に、この草を食べさせたら、光が見えるようになるかも。それが立ち直るきっかけになるといい)
「明日の仕事はキャンセルだ。父と母に会いにいこう」
 そう言って、私は素早く心を決めました。シュリが、幸せ探しには父と母に会うといいと言ったことが、私の背中を後押ししているのも事実です。というか、ずっと、いつかは会いに行かなければならないと、密かに思い続けていました。光る草が、そのきっかけを与えてくれたようです。
「とりあえず光る草が痛まないよう、月の光に当てて、乾燥させておかないと」
「ウッシッシッシ」
「―シシ、明日はお留守番ね」
「シシ、たのしー! 」
 私は空になった食器を流しに置いて、光る草の入った袋を片手に、扉を開いて外へ出ました。
 空には雲一つなく、月の姿も見当たりません。風も吹かず、時の流れが止まってしまったような夜でした。
(新月か……。新月はパワーを蓄える力があるから、今日干せば、もしかしたら光る草の力が、倍増するかもしれない)
 私は巨大なざるに、まんべんなく夜の空気に当たるようにしながら、光る草を並べました。そんな単純作業をしていると、頭の中で様々な想念がはじけていきます。
 私は父と母にもう、愛してくれとも、理解してくれとも、望んでいません。それができないことは、すでに分かっています。ただ本人たちに、幸せになってほしい。今の私が彼らに望むことはそれだけ。

 両親の狂気の渦に巻き込まれたあの日。逃走した台風の夜。思い出したくないけれど、全ての私の人生の始まりは、ここにありました。

(私は私にできることをするだけ、と分かっていても、私にできることとは何なのか……。台風の日から、まだ私は迷い続けている。薬草師になっても、迷いは止まることを知らない。でも父と母に会えば―)
 私は声に出して言いました。
「私はどうなるのだろう」
 その時ふっと、とても辛い気持ちになって、一筋の涙を零しました。
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