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ごつめの奴2
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「ってことは。変化を迫られているのは、俺らだけではないってことか? 」
「私は薬草師ですが、植物たちの間では、すでに変化の兆しが出始めています。滅びていくものと、繁栄するものの違いが、はっきりと出てきているのです。確かに何かが、起きているようです」
「この、おとぎの世界が、変化かい。そんなこと、俺が生きている間では聞いたこともねえ。お茶を頂くよ」
「どうぞ。お茶も販売していますので、もしよかったら」
「トイさん。あんたが幸せになる方法を探しているってことを、どっかで聞いたんだが」
「ええ。あらゆる方面からアプローチしていますが、答えはまだ出ません」
「俺はこのままでいい。変化なんて欲しくなかった」
「ええ」
「その変化とやらを迫られることが、今の俺様にとって最大の不幸さ。変化なんて、いらねえんだ」
「……。お薬はどうしましょうか」
「一応もらっておく。あとこのお茶も少しくれ。これは何のお茶だい? 」
「緑草茶です。緑草を月の光で乾かしたお茶で、世界と深く繋がることのできる力を秘めています」
「飲めば、世界的なパワーが得られるって感じかな」
「というか、一言でいえば、冷静になります」
「そうか。今の俺様にもってこいだ。冷静になって、どうするべきかをじっくり考えてみたい。その、あなたが言っていることなんかをな」
「分かりました。お待ちください、今、お薬とお茶の準備をします」
「うん」
私が席を立ち、薬草で作った薬を台所で調合し始めると、マタードラゴンはすっかり静かになって、家の中の様子をあちこち眺めていましたが、ふと、呟きました。
「トイさん」
「はい」
「変化した先は、幸せなんかな」
「もし、今の世界で幸せになれるのなら、変容した新たな世界でも、きっと幸せはあるでしょう。どんな世界の中でも、理由があり、答えがあります。その二つの存在を知り、理解することができるのなら、おそらく私たちは幸せになれるのです。痛みや苦しみがなければ、の話ですが」
「ふーん。ドラゴンには少し、小難しい話だな。俺たちはとにかく陽気なのが好きなんだよ。……ってことは、この世界の理由と答えが、トイさんにもまだ分からないってことかい? 」
「そう。もしかしたら一生分からないかも」
「辛気臭いねえ。そんなことを考えない方が、幸せになれるんじゃないの」
モロコの言葉に、思わず私は笑って言いました。
「本当にそうかもしれない。ハイ、これがお薬。こっちの袋がモテ薬で、こちらの袋が変容を助ける薬。二つとも、一日一回好きな時にお飲みください。これが緑草茶。お湯で五分蒸らしてから、飲んでください」
「ありがとさん。これがお代。また来るよ」
「ぜひ、お待ちしています」
マタードラゴンは、どす、どすと、大きな足音を響かせ、存在感たっぷりに家から出ていきました。
「私は薬草師ですが、植物たちの間では、すでに変化の兆しが出始めています。滅びていくものと、繁栄するものの違いが、はっきりと出てきているのです。確かに何かが、起きているようです」
「この、おとぎの世界が、変化かい。そんなこと、俺が生きている間では聞いたこともねえ。お茶を頂くよ」
「どうぞ。お茶も販売していますので、もしよかったら」
「トイさん。あんたが幸せになる方法を探しているってことを、どっかで聞いたんだが」
「ええ。あらゆる方面からアプローチしていますが、答えはまだ出ません」
「俺はこのままでいい。変化なんて欲しくなかった」
「ええ」
「その変化とやらを迫られることが、今の俺様にとって最大の不幸さ。変化なんて、いらねえんだ」
「……。お薬はどうしましょうか」
「一応もらっておく。あとこのお茶も少しくれ。これは何のお茶だい? 」
「緑草茶です。緑草を月の光で乾かしたお茶で、世界と深く繋がることのできる力を秘めています」
「飲めば、世界的なパワーが得られるって感じかな」
「というか、一言でいえば、冷静になります」
「そうか。今の俺様にもってこいだ。冷静になって、どうするべきかをじっくり考えてみたい。その、あなたが言っていることなんかをな」
「分かりました。お待ちください、今、お薬とお茶の準備をします」
「うん」
私が席を立ち、薬草で作った薬を台所で調合し始めると、マタードラゴンはすっかり静かになって、家の中の様子をあちこち眺めていましたが、ふと、呟きました。
「トイさん」
「はい」
「変化した先は、幸せなんかな」
「もし、今の世界で幸せになれるのなら、変容した新たな世界でも、きっと幸せはあるでしょう。どんな世界の中でも、理由があり、答えがあります。その二つの存在を知り、理解することができるのなら、おそらく私たちは幸せになれるのです。痛みや苦しみがなければ、の話ですが」
「ふーん。ドラゴンには少し、小難しい話だな。俺たちはとにかく陽気なのが好きなんだよ。……ってことは、この世界の理由と答えが、トイさんにもまだ分からないってことかい? 」
「そう。もしかしたら一生分からないかも」
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「ありがとさん。これがお代。また来るよ」
「ぜひ、お待ちしています」
マタードラゴンは、どす、どすと、大きな足音を響かせ、存在感たっぷりに家から出ていきました。
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