そこは、私の世界でした

桃青

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35.アンサー

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 ばったりと布団から体を起こした私は、キョロキョロして、現実を取り戻そうとした。暗い室内、暗い窓の外、ここはこじんまりとした我が家……。私は呟いた。
「終わったよ」
「何かが終わった」
「何なのかはよく分からないけれど」
 私は台所でコップに水を注ぎ、それを飲みながら窓際に行って、カーテンをはらりと開けた。外では見慣れた景色と馴染んだ世界が広がっていた。
 私は林波である。そのことについて疑う必要も、迷う必要も、なくなっていた。
 この世界は、絶対的に存在する。人類が滅んでも、地球がなくなったとしても、何かがあり続ける。そう考えたとき、言い知れぬ安心感がどこまでも広がっていった。

 今日という一日は、普通の日だった。朝、時間になると、仕事場へ行き、仕事をこなして、桂木さんと他愛もないお喋りをし、夕方仕事が終わると、家へ帰ってきてご飯を食べる。シャワーを浴びて、歯を磨き、眠くなったら布団に入る。特別なことなど何もない。でも私の人生は確実に流れ、少しずつ新しいことを学びながら、ラストへ向かって走ってゆく―。

 それでいいのだ。

 生温い日々だと感じる人もいるかもしれないが、私はこれ以上望むことはない。あと幸いかどうかを決めるのは、平々凡々のベースの上に、どうトッピングをしていくかで、そのためには私自身で動かなければならない。自分で決めて、旅に出るなり、ボランティアをするなり、友達と遊ぶなり、好きにすればいいのだ。
 病気にならず、ご飯がおいしく食べられて、困らない程度のお金がある。それがどれほど素晴らしいことか。その一方で、そのことをどんなに望んでも手に入れることのできない人々が存在する。彼らがその現実に、どんなに苦しんでいることか。
 世界は変わり続け、現代は便利になったという人もいるが、人間のベースは人類が誕生してから何も変わっていない。ただの一ミリもだ。ベースの色付けが変化して、それを進化と呼ぶ人もいるかもしれないが、だからといってあらゆる意味においての、人間の痛みの感覚から逃れる術はない。
 人は世界の残酷さの中で、大切なものを学んでゆく生き物なのかもしれなかった。

(今日はいい一日だ)
 私は布団にもぐり、天井を眺めながらそう思った。それから祈った。どうか世界の終りの日まで、この平凡な毎日が続きますように、と。
 
そのために私ができることはなんだろう?

(林波の世界はどうなるのだろうか)
 そう思いつつ、ゆっくりと目を閉じた。
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