イセカイ日記

豆子

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後編

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目の前で光が弾けた。
あまりの眩さに目が眩んで、一瞬息が止まった。

一目惚れだった。






俺は不能だ。
男にとって、勃たない、フニャチンであることがどれだけ苦悩を伴うことか。

病院にも通ったし精力剤なるものも飲んでみたが、一向に俺のオレが勃ちあがることはなかった。

不能になった原因は、結婚まで考えていた彼女に浮気されたことだった。
出張から帰ったら俺の部屋から喘ぎ声が聞こえてきて、寝室を覗けば彼女が知らない男と激しいセックスをしてた。ベッドがギシギシ鳴って壊れそうだった。
いつでも来ていいからと鍵を渡してはいたが、だからといって普通浮気相手を連れ込むか?
あまりの衝撃にそれ以来俺の下半身は見事に役立たずだ。

彼女とは即刻別れ独り身となった俺だったが、新しい彼女を作ろうにも俺のオレが勃たない限り次に進めない。
勃たないことに気づいてすぐに病院へといったが、薬を飲んでも効果は出なかった。
浮気されたことが大きな原因だが、仕事からくるストレスも勃たない理由の一つではないかというのが医者の見立てだった。

浮気された心の傷と仕事のストレスから、尻尾の毛並みも悪くなっていった。ふさふさの立派な尻尾は男の勲章でもあるのに、なんということだ。
俺は果てしなく落ち込んだ。

そんな俺を見かねた友人からの「ストレス軽減のためにペットを飼ってみたらどうだ?」という一言が転機だった。

友人の叔父が経営しているというペットショップに連れられて、俺はそこで衝撃的な出会いを果たすことになる。

初めて見た時、その小ささに驚いた。
布に包まってくぅくぅと眠る姿に目を奪われた。
初めて見る生き物だった。

「こ、これなんていう生き物なんだ?」
「これはヒトって生き物だよ。俺たちと姿形は似ているけど、ここから4000光年離れたチキュウって惑星の生き物だ」
「ヒト……」

こんなに可愛い生き物がいるなんて知らなかった。
小さいところも丸まってるところも顔にソバカスみたいな模様があるところも耳が異様に小さいところも尻尾がないところも全部可愛い。
一目惚れだった。
ガラスに張り付いてじっとその子を見つめた。

「でもこの子はやめておいた方がいいと思う。ほら、よく見てみろよ。いたるところに包帯巻いてるし、頰に怪我してるだろ。叔父が見つけた時、顔にアザはあるし腹には火傷痕があるしで、保護も兼ねて拾ったみたいなんだ。今は治療中で眠っているからいいが、目を覚ましたら怯えるかもしれない。ああいう怪我をしてやってきた子は懐くのに時間がかかるっていうし」

友人の言葉は俺の耳を素通りしていった。
何を言われようと、俺の心はこの子を飼うと決めていた。

友人の反対を押し切って俺はこの子を買うことにした。
異星生物売買契約書にサインをし、売約済の印をこの子の手につけてもらい、料金を一括払いした。

怪我が完全に治って治療室から移動して、様子を確認し終えたらまた連絡すると言ってくれた。
俺は浮かれ気分で店を出た。
友人からは、普段冷静なお前が珍しいと言われた。

俺は常からあまり感情の起伏がない方なのだが、あの子に関しては何かが違った。
あの子を見た瞬間、目の前が真っ白な光に包まれたのだ。雷が落ちたかのようだった。
人生で初めての一目惚れだった。


それから数日後、友人から部屋を移動したから店に来いという連絡が入った。
仕事終わりに走って店に向かった。心が逸った。

治療室から個室へと移ったあの子をガラス越しに見つめた。初めて見た時と違い、目を開けて動いている。

「なあ、ほんとにあの子でいいのか?他にもヒトの入荷はあるし、もっと綺麗な顔の子はいるぞ?2日前に入ったヒトのメスは毛並みも良くて目もぱっちりしてて可愛いから、俺はそっちの方がおススメだけどな。あの子ちょっと痩せすぎだし目は細いし鼻もぺちゃっとしてるし」

分かってないな。
ああいうのをブサカワというんだろうが。俺にとったらあの子以上に可愛い子はいない。

ガラス越しにこちらからはあの子の様子が見えるけれど、あの子からはこちらの様子は見えない。部屋の中をきょろきょろと見回しながら歩いている。
部屋の真ん中に浮かんでいる明かりを見て驚いたような顔をしてる。可愛い。浮遊灯を見たことがないのだろうか。
この子を飼うに当たって少しチキュウのことを調べてみたが、ここより技術が遥かに遅れているらしい。
浮遊灯や自動風呂も知らないんだろうな。
興味深げに部屋の中を見て回っている姿はとんでもなく可愛い。

立体映像でチキュウの雰囲気に寄せた部屋の映像を流しているのだが、どうやらお気に召したようで、これといって暴れたり怯えている様子はない。

「予想していたより落ち着いててよかったな。あの様子じゃ数日後には直接会えるんじゃないか」
「そうだといいんだけど。異星生物医は何か言ってたか?」
「怪我の治りは問題ないし、出された食事も残さず食べてる。トイレも風呂もちゃんと自分でしてるから、躾の必要はなさそうだって」

今までペットを飼ったことがないので、躾がちゃんとできるか心配だったが、必要なさそうなので安心した。この子は頭がいいんだな。


次の日もまだ直接会えないのは分かっていたが、店に行くのを止められなかった。

ガラス越しにじっと観察する。
机に座って何かを一生懸命書いてる。
遊び道具用にガラスペンとノートをいれてみたら使っているらしい。
お絵かきでもしてるのか。可愛い。

しばらくしたら腹筋しだした。
可愛すぎか????
ふんふん頑張ってる姿をひっそり応援した。
そのあとは部屋の中をぐるぐる走り回ってた。何をしたいのか全然分からないけど、とにかく全部が可愛い。
早くあの子に直接会いたい。撫で回したい。


やっとあの子に直接会える日がきた。
その日は朝からそわそわしてしまって、仕事に集中できなかった。
定時の鐘が鳴った瞬間、部屋から飛び出した。

店には友人も来てくれていた。お前の様子が心配だからだと真顔で言われた。よほど俺の浮かれ具合はすごいらしい。

「そういえば名前は決めたのか?」
「一応」

この子を飼うに当たってチキュウのことを勉強したのだ。しかし、チキュウについて書かれた本は少ない上に、ヒトの飼い方の本は一冊しか検索でヒットしなかった。
とりあえずそれを購入して読んでみたところ、この子はヒトの中でもニホンジンという種類に入ることが分かった。拾ったところがニホンという場所だったらしいので間違いないだろう。
ニホンジンについて書かれたページは少なく、とにかくそのページを読み込んだ。

「本に書かれてたんだが、オスにはヤマダタロウ、メスにはヤマダハナコってつけるのが一般的らしい。ただヤマダタロウって呼ぶには長すぎるから省略してタロって呼ぼうかと」
「タロ、タロね。いいんじゃないか。言いやすいし」
「言葉が少しでも通じるといいんだけどな」
「それはあまり期待しない方がいいと思う。ヒトは知能があるから意思は少しくらい通じるかもしれないが、言葉は別だ。ヒトと俺たちとじゃ声帯がまるで違うからな。多少似た音は出せるだろうけど、言葉は無理だろ」

友人の言ったとおりだった。
初めてタロに会って、やっぱり可愛くて可愛くて、どうにか興奮を抑えて「初めまして」と挨拶をしてみたが、タロは首を傾げるばかりで何一つ伝わってないようだった。
しばらく頑張って話しかけてみたが、反応が薄い。
言葉を覚えさせるのは無理かもしれない。
タロに初めて直接会えて嬉しかったけれど、少し落ち込んだ。
タロと話せたらきっともっと楽しかっただろうが、諦めた方がいいんだろか。


次の日も仕事終わりにタロに会いに行った。
話しかけてみたが、何も分からないって顔をしていた。
試しに俺の名前を言ってみたけど、聞き取りもできないみたいだった。
残念だ。
ニホンゴに似た音の単語だったら聞き取れるかもしれない。もう少し勉強をして、明日また話しかけてみよう。


俺が来るとタロが立ち上がって出迎えてくれるようになった。可愛すぎる。
とにかく今日は、俺が『ご主人』だってことを覚えてもらうために、何回か自分を指差して伝えてみた。
繰り返すと理解したのか、タロは俺のことを『ご主人』と呼ぶようになった。発音が拙いから『ごちゅじん』と聞こえなくもないが、可愛いので問題はない。
タロにもお前の名前はタロだよってことを伝えるために何度か繰り返し呼んでみたら、自分の名前はタロだと理解したようだった。
タロは可愛くて頭がいい。



このところ毎日、タロに俺という存在に慣れてもらうために店に通っているのだが、店の規約上触れることは許されていない。
ペットを怯えさえないようにという店の方針上、触れられるようになるまで最低3日は店に通わなければならないのだ。

そのためいつも俺はタロから一定距離離れて話しかけているのだが、なぜか今日突然タロから俺に近づいてきた。驚いた。
店の規約違反になってはタロを飼えなくなるかもしれない。
俺が必死で逃げると、タロが追いかけてきた。
逃げると追う習性があるのかもしれない。
俺の方が走りが速すぎて、途中後ろを追ってたはずのタロに追いつきそうになって慌てた。
頑張って走ってるタロはとんでもなく可愛かった。
散歩や追いかけっこが好きなんだろう。家で飼い始めたらちゃんと連れて行ってやるからな。



タロに差し入れのお菓子を持っていった。
ヒトは雑食らしく、大抵のものを食べられると書いてあったので最近ペットに人気のお菓子を買ってみた。
タロにあげたら嬉しそうに食べていた。
頬張って食べるからから、ほっぺたが膨らんでいてとにかく可愛い。
買ってきたやつを全部あげた。



ペットショップの店員さんに怒られた。
お菓子をあげるのはいいですが、あげすぎないで下さいということだった。
てっきり昨日あげた分は全部食べたのかと思ったら、タロは食べずにおいていたらしい。
部屋が汚れる原因になるので、自動掃除機能が処分してしまったそうだ。
食べ物を食べずに取っておくって可愛いすぎるだろ。
タロのやることなすこと全部が可愛くて俺はどうしたらいいのかわからない。
お菓子がなくなってしまったからか、タロは少ししょげているように見えた。可愛すぎて家に引き取ったら即刻お菓子を買い与えようと決めた。



お菓子ばかりをあげるのもあれなので、今日は運動にも使える遊び道具を持ってきた。
タロは散歩やかけっこが好きなようなので、きっと気に入ってくれるはずだ。
球体の中に入ると、周りに自然の景色などが浮かびあがり、まるでその場にいるような臨場感を味わえるというものだ。
走ったり歩いたりすると自動で床部分が動くので、家の中でもペットがお散歩できるという最近人気のペット遊具だ。
ところがタロに使い方を説明してみたけど理解できないのか、遊んでくれなかった。
球体を外から触るばかりで、最終的には興味が失せたのか部屋の隅へ転がしてしまった。
タロが喜んでいる姿を見たかったが、残念だ。



ヒトはキャッチボールというものをするらしい、ということを本で読んだので実践してみることにした。
とりあえず手頃なサイズのボールを買って持っていってみた。
勢いよく投げてタロを怖がらせたらいけないので、そっと転がしてみたら蹴り返してきた。
キャッチボールというのは本当は投げて遊ぶものなんだが、タロはよく分かっていないらしい。でも元気よくボールを蹴り返してくるタロが可愛いのでよしとした。





ついに今日、タロに触れてもいいとの許可が下りた。
間近で見たタロはやっぱり小さくて細くて、触ったら折れてしまうんじゃないかって怖かった。
でも触れたい気持ちは抑えられなかった。
今まで他の誰にもしたことがないくらい、優しくタロの頭に触れた。
髪の毛はふわふわしてて、撫でくりまわしたい衝動に駆られたが我慢した。
タロに怖がられたらどうしようかと思ったが、大人しく撫でられるままになっていた。
俺に心を許してくれているみたいで、嬉しかった。


店の人から「長い時間触れ合ったりして、慣れさせて下さい」と言われたので、今日はいつもより長時間店にいることにした。
明日は仕事も休みなので、問題はない。
ただタロに嫌がられないかだけが心配だった。

タロを撫でて抱きしめてみた。
タロは嫌がることなく俺の腕の中にいた。首元をすんと嗅いでみたけど、逃げなかった。
タロは良い匂いがする。ずっと嗅いでたい。癒される。

ずっと抱きしめていたら、気づけばタロが俺の腕の中で眠ってた。
目を閉じて安心しきったように眠るタロを見て、俺はなんだか泣きたくなった。
タロがチキュウでどんな日々を生きてきたのか、俺は知らない。
こんな小さく弱い子どもがあんなにぼろぼろな姿で拾われるなんて、異常としか思えない。
誰がタロをあんな目に合わせたのかは分からないが、許せないし、絶対にタロはチキュウには戻さない。
タロはもう俺の大事なペットなんだ。

俺がタロのことを一等大切にして可愛がって誰よりも幸せにしてやるんだと、心の中で誓った。



ついにタロを家に引き取れる日が明日と迫ってきた。
自宅はタロと一緒に暮らせるように準備済みだ。

今日はタロの健康診断と不老長命手術を行う日だ。
治療の経過や、他に不調はないかなどを異星生物医に診てもらった後、不老長命手術を施してもらった。
ヒトはあまり寿命が長くないと本に書いてあったので、金はかかるがタロには手術を受けさせようと決めていた。
不老長命手術を受けていれば、平均の5倍は長く生きられるし、健康面だって安心だ。
去勢手術はどうしようかと悩んだが、やめておいた。
そもそもヒトのメスは数が少ないし、野良はまずいない。タロが外で発情して孕ませてしまう心配をする必要はないだろう。



タロを引き取る日がやってきた。
俺が抱き上げたら驚いた顔をしていたけど、特段暴れることはなかった。
タロを抱きかかえたまま部屋を出る。
異星生物医からタロの登録証の腕輪を受け取り、はめた。
この腕輪にはタロの登録番号や俺の住所、名前などが入力されており、位置情報も確認できるようになっているので、万一タロが迷子になってもこの腕輪があれば俺のところまで必ず帰ってこれるようになっている。

外の景色を見てタロが怯えてはいけないので、布に包んで外へ出た。

新しい家をタロが気に入ってくれるといいんだが。
今までいた部屋とあまり雰囲気が違うとタロが落ち着かないかもしれないので、部屋の立体内装映像をチキュウっぽく合わせておいた。

これからタロと二人で暮らせるんだと思うと、喜びに胸が踊った。





タロを引き取ってから毎日が幸せだ。
タロと食事をして、タロと風呂に入って、タロとソファでごろごろして、タロと一緒に眠る。
朝起きて一番、タロの寝顔が可愛すぎて今日も一日頑張ろうと思えた。
出勤前にタロの腹の匂いを嗅ぐだけで活力が湧いた。
家に帰ってタロの顔を見るだけで癒されて、仕事の疲れなんて飛んでいった。
ペットの癒し効果はすごい。

俺が帰ってくる時、タロは必ず玄関で俺のことを待っている。
「ただいま」って言ったら「ご主人」って返してくれた上に抱きついてきてくれる。
可愛すぎて死にそう。
あまりの可愛さに抱きしめたまま床を転がったら、流石にタロが虚無の目をしてた。
言葉は通じなくとも目は多くを語るものらしい。

タロがいるだけで毎日が輝きに満ち溢れていた。
仕事のストレスも激減し、笑顔が増えた俺を見て友人や同僚は良かったなと喜んでくれた。
なによりタロと暮らし始めてから一番の変化が起こった。
数ヶ月ぶりに俺のオレが勃ちあがったのだ。

ソファでタロを抱きしめながら可愛いなあと首をすんすん嗅いでいたら、下半身に違和感が走り、視線を落とせばオレが緩く勃ちあがっていた。
試しに一人トイレでこっそり擦ってみたら無事に勃ちあがった。
俺は歓喜に打ち震えた。
不能が治ったのだ。


次の日、仕事中も俺は浮かれていた。
表情に出したつもりはなかったが、同僚には何か良いことがあったのかと茶化された。
流石に不能が治ったとは言えなかった。

不能が治ったのはタロのおかげといっても過言ではない。タロの可愛さがオレに元気を取り戻してくれたのだ。

頭を悩ませていた問題が解決したことが嬉しくて、俺は上機嫌で帰宅した。
そんな俺をタロがいつものように出迎えてくれた。そんなタロを見た瞬間、俺は想いが止まらずタロを抱き上げてキスをしていた。

けれどキスをしてすぐ、頭から冷水をかぶったみたいに冷静になった。
俺はペットであるタロになんてことをしてしまったんだ。
よくよく考えたらペットに欲情している俺は異常性癖者なのか。
そもそもタロに嫌がられていたらどうしよう。
タロに嫌われたら生きていけない。

急いでタロに謝ったが、言葉はどうしたって通じない。
そのあと、どう見たってタロは不機嫌になってしまい、いつもは一緒に寝てくれるのにその日は寝てくれなかった。果てしなく落ち込んだ。
また俺のオレが不能になるかと思ったが、タロの首筋の匂いを思い出したら元気になった。



俺は翌日、友人に相談をすることにした。

「不能が治った?よかったじゃないか。ペットセラピーが効いたんだな」
「それが効き過ぎたみたいで。その、俺、タロに欲情してるんだ。ペットに欲情するのってまずいよな。異星間の不純行為に値するし」
「いや、意外と異星生物に欲情する奴はいるからいいんじゃないか」
「意外といるのか?!」
「お前は昔から少し固いところがあって、男は女と付き合うものって考えが強いけどさ。同性同士の結婚だって普通だし、異星間結婚だって少ないけどなくはないんだから。異星生物のペットを恋人として扱うのもそう変なことじゃないだろ」

あっけらかんと友人に言われ、俺は目から鱗が落ちた気分だった。
そうなのか。俺が知らないだけで異星生物を恋人として扱うのは案外と普通なのか。
ただし、と友人が強く続けた。

「異星生物売買契約書に反することは駄目だ。相手が性行為を嫌がっているのを無理やり襲ったり傷つけた場合、異星生物保護法違反に抵触する」

俺はうっと言葉に詰まった。
昨日俺がキスをしてから、タロは怒って部屋にこもってしまった。
俺にキスをされて嫌だったんだろうか。普段触ったり首を舐めたりしても嫌がらないから調子に乗り過ぎたのかもしれない。

「一度話し合ってみろ、ってのは無理だろうけど、あの子、飼い主であるお前に懐いてるみたいだし大丈夫だろ。試しに押し倒してみて暴れなければいけるんじゃないか」

友人には軽くそう言われたが、俺の頭は果たしてタロに許してもらえるのかという苦悩で占められていた。






とにかく言葉は通じなくとも、真剣に想いを伝えれば伝わるはずだ。

俺はタロが好きだ。
エロいことをしたいという意味込みで好きだ。
タロを抱きたい。
正直もう女はいらない。
結婚もしなくていい。
タロさえいればいい。
俺の生涯年収を全てタロに捧げたい。

食事後、ソファに座って一度軽いキスをしてからタロと真正面から向き合って、頰に触れながら想いを伝えた。
言葉の意味が何一つ伝わらなくても、俺がタロを好きで大事にしたくてできれば抱きたいと思っていることを分かって欲しかった。

残念ながら言葉はまったく通じなかったけれど、タロは真っ直ぐに俺のことを見ていた。柔くタロに抱きしめられて、それがタロの返事なんだと分かった。
言葉は通じなくても、確かに伝わるものはあるんだとわかって俺は少し泣きそうだった。

タロは性行為というものが初めてなんだろうことは異星生物医からの説明で分かっていたので、とにかく優しくしようと気合を入れた。

風呂場でタロの服を脱がす時、柄にもなく緊張した。
これまでそれなりに女にモテてきて、セックスなんて数えきれないくらいしてきたが、こんなに心臓が逸ったのは初めてだった。
タロの身体は俺よりも小さくて細くて、どんなに優しく触れても簡単に折れてしまいそうだった。
タロもこれから何が行われるのか理解してるからか、緊張した面持ちだった。でも嫌がっているようには見えなかったので安心した。
色んなところを洗浄している間、タロは顔を真っ赤にしながら声を押し殺していた。
可愛すぎてすぐにでもベッドに連れて行って押し倒したかったが、タロに怪我をさせないためにも、俺はタロの尻を解すために全力を尽くした。


ベッドに連れて行く頃にはタロは身体中を真っ赤にさせていた。
ぐにゃりと力の抜けたタロをベッドに横たわらせて、いたるところに優しくキスを落とした。
タロはくすぐったいようで、俺が胸や首にキスを落とすたび身体を震わせていた。
タロのどんな仕草も可愛くて、それにどんどん下半身に熱がたまっていく。
先ほど風呂でタロの尻穴を解したが、俺のを挿れるにはまだ心もとない。
指でほぐすより舐めた方が良いかもしれない。
タロの足を持ち上げて尻に顔を近づけたら、タロが顔を真っ赤にして何事かを叫んで足をばたつかせる。
嫌がられてるんだろうか。
無理やりすると、異星生物保護法違反になってしまうので、俺はタロに無理強いはできない。
ダメか?という意味を込めてじっと見つめたら、タロがぐっと言葉に詰まったみたいに黙り込んで、大人しく足を広げてくれた。
えらいぞタロ。
タロはやっぱり可愛くて頭が良い。

それから俺はタロの尻や身体中のありとあらゆるところを舐めて解した。
タロの身体は柔らかくてほのかに甘いような気がした。
タロは気持ちがいいからか、始終可愛い鳴き声をあげていてそれに安心した。

けれどナカに入る時はさすがにタロも悲鳴をあげた。
散々解したが、俺のモノがでかすぎてタロの穴は可哀想なくらいミチミチと広げられていた。少し動いただけでタロの口からは先ほどまでとは違う鳴き声が漏れた。
それが可哀想で抜こうとしたら、タロが両足を俺の腰に固定するように絡めてきた。
抜くなって意味なのは、言葉なくとも分かった。
涙目のままタロが俺の首に手を回してきて、それにどうしようもなく興奮してそのまま勢いよくタロの中に押し挿った。
小さい体でキツイだろうに、それでも俺を受け入れてくれたタロが可愛くていじらしくて愛しくてたまらなかった。

タロのナカは気持ちよくて、数ヶ月ぶりの快感に無我夢中で腰を打ちつけた。
その度に細いタロの体が跳ねて、優しくしないとと思うのにできなくなっている自分がいた。

俺にどんなに激しく揺さぶられても、タロは泣き喚いたり足を振り上げたりして嫌がることはなかった。
タロは気持ち良さよりも痛みの方が勝っていたことは表情から分かった。
それでもタロは俺の首に必死で手を回して、縋り付くようにしていた。
ご主人、って俺のことを必死で呼んでた。
タロのすべてが可愛くて愛しくてしかたなかった。
伝わらない愛の言葉を何度も繰り返し、キスをした。

タロのナカで果てた後、息を落ち着かせようと顔を上げたら、タロがぼろぼろと泣いていた。
そんなに痛かっただろうか。
傷つけてしまっただろうか。
慌ててタロから離れようとしたが、タロがそれを許さなかった。俺に強く抱きついて、何かをずっと俺の耳元で囁いていた。

何を言っているのかは分からなかったが、俺がタロに何度も愛していると伝えたように、タロも同じ気持ちを返してくれていたらいいのにと思った。














タロと暮らし始めて一年が経ったある日の朝、チキュウが滅亡したというニュースが流れた。
そういえば友人がここ最近ヒトの入荷が多いと言ってたのはそのせいだったのか。
滅亡する前に少しでも保護しようとチキュウから仕入れたんだろうな。

タロの生まれ故郷がなくなった。
少し残念な気がしないでもなかったが、どうでもいいかとそのニュースを消した。
俺の隣では安心しきったようにタロが眠っている。
一年前よりもふくよかになった柔い頰を撫でながら、俺は微笑んだ。

チキュウがなくなろうがなんだろうが、これからも俺とタロの幸せな生活は続いていくだけだ。

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