上 下
20 / 83

星花こぼれ話その四 ~高城綾音の思案事~

しおりを挟む
「じゃじゃ~~ん~ひふみさんだよぉ~べっどかして~」
「おう帰れ帰れーそれそれー」
「ぎゃー」
「ほーらもっぷだもっぷーひふみんもっぷー」
「せんせーひどーい」

 何の遠慮もなくなってきた保健室常連者、十京一二三を脚で柔らかくコロコロ床に転がしながら、転がりながらきゃー、とかケラケラ笑いながら、ヘラヘラふわふわ笑いながら二人でバカ話を掛け合う。この所一段と変だったのが加速して更に変になった。元凶というか担い手は、高等部の四方田恵しほうだめぐみ百々ももの話では二年三組で身長157cmで体重は46kgで茶道部所属でお友達が多くてお昼ごはんとかも友だちと食べてて、おのれそのお隣の席変わって下さいムギーっ!! ってなったらしい。あいつはそろそろストーカー癖を何とかした方が良いと思う。その行動力でとっとと突貫して爆発しろ。さっさと告白に踏み込んでしまえ。

「汚れてんだからもっとよごれてしまえー……ってかホント汚れてるの何なの?」
「えへへ~」
「な~に笑ってんだ」
「えへへへ~……」
「まーったく浮かれやがってー」
「えへへへへ~~~……」

 にへにへ締まりのない笑顔で赤みを帯びたふやけた顔。真っ赤にごろごろ転がる百々とはまたタイプは違うが、四方田恵の犠牲者にかわりはない様だ。正式には、惚れた感じがするのは四人だろうけれど、うち二人は当分出てこない筈だし、以前の出現からしてもまだまだ間隔が開く。ならば、その間にこの主格二人を安定させないと。二人共は無理でも、せめてどっちかはくっつかないと。心に不安定な期間を宿したままは、危険でもあるからな。例えそれが、喜ばしい恋愛感情というものだとしても。

「これはねー……えへっ、お茶のおねーさんのだから」
「……あー、やっぱりか」

 読み的中。普段からふわふわマイペースな一二三モードの十京が、更に締りのない顔を上乗せされてしまっている。ふやけてる。とけてる。口角は緩んで目はへにゃんと眉はてれれんと打ち下がり、腕はだらーんと垂れ下がって、うへへへへ~とふやけた声でふわふわふらふら保健室をうろつく女子中学生。大分ゾンビ化が進行しているな。さしずめ特効薬は四方田恵なんだろう。爆発しろ。

「四方田」
「ひぃっ」

 ワードにビクンッと反応して、しゅんっと収まる。この場にいないという事は承知済みらしい。それでも反応するのは素直なこって。

「恵ー」
「あひゃんっ」

 堪らずぼふっとベッドに倒れ込む彼女。ぴくんぴくんと小刻みに震える子羊のような娘。あーもー、ほーんと百々も一二三も何されたのよー? なんかエロいことされたんじゃー無いでしょうね?

「さてと、お昼で何があったか知らないけれど、そーんなフラフラになるまでとはねぇ~~」
「えへ……にゅぇへへへへへへへ……♪」

 ……常軌を逸した顔で取り返しの付かないような音を喉から生み出す一二三。なんだこの生き物は。こんなんじゃなかっただろうに。今日こそわたしを惑わしたおねーさんを見つけてくる! とか、朝はむしろ排除的な気配を纏いながら言ってたのに。冗談交じりで、押し倒して既成事実をつくるのよー! とか言わなければ良かったかもしれない。しかし、百々が先んじて行動を起こしたのは事実。なので、一二三の方を遅らせるわけにもいかない。これは主人格が二つなのも影響している。

「おしろせんせー……」
「ん、どーした?」

 その言葉に、チラ、とだけあたしを確認して、すぐにぼふっとベッドに再度埋もれる彼女。やれやれ、と一息付きながら、側に腰掛け寄り添い手を取り握る。ビクッと反応はあったものの、振り解かずに、むしろ手を握り返してくれる。

「ねー」
「なーに」

 その先が、続かない。一二三の特徴。マイペース。ペースは彼女に委ねられる。

「おしろせんせー」
「なーに」

 もう一つ、間を置く一二三。

「……おねーさんに、告白しちゃった……♪」
「そ、そっかぁ……マイペースもそこまでくると、凄いわね」

 チラ、とだけ再度あたしを確認して、視線が合うと、すぐにもふっとぼむっとベッドに埋まる。思い出しているかのように、あー、とか、うー、とか、えへ~、とか、にゅえへぇ~~、とか、おむねがやわらかかたかった~、とか聞こえる。そうか……胸硬かったか……ああ、うん、確かにに無かったしね、四方田は。今度は是非スキを見て揉んであげるように誰かに助言しなくちゃね。

「おしろせんせー……」
「ん、なーに?」

 ベッドに埋もれたまま、か細く呟く一二三の声。

「……わたしにまけたくない……」
「っ ……そっか」

 ・・・……――負けたくない。
 それを聞いて、その似た言葉を聞いて、彼女から見えないことを良いことに、あたしは渋い顔を隠さない。

「でもわたしもすき」
「……そっか」

 それを聞いて、やはりあたしは思い悩む。やはり被るか、その箇所は。

「……どうしよう……」
「そこは、みんなで愛しなさい?」
「……うー……」

 その先が、続かない。一二三の特徴。こんな時も、マイペース。ペースは常に彼女に寄せる。

「おしろせんせー……」
「なーに?」
「……独り占めしたくなっちゃうの……」
「あー……」

 やはりと、目を閉じ一つ息をつく。あたしの危惧はそこにある。百々もそうなら一二三もやはり、か。気質はそういう方向性なのだろう。それを育てた家の環境こそあれど、愛情に飢えた娘なら、そうなってもおかしくはない。だから、百々にしても一二三にしても、こうなるのは自然とも言える。
 けれど、過去は過去、今は今、そして、未来は未来。独り占めは、よろしくはない未来だ。数多の十京を殺すことになる未来。それに繋がる今は、大事だ。そこを、一二三は強く理解しているんだろう。、だからな。

「どうしよう……」
「かわりばんこに、愛しましょう?」
「うう~~~~~~……」
「駄々っ子めー」
「駄々っ子だもーん」

 駄々っ子ながら、その【今】が大事なのが、潜在的に感づいているのかもしれない。だからこそ、マイペースだというのに自分本位でその実動いていない。百々は冷静ながら、そういう時には戦術眼で動いてしまう。こういう戦略願で動けるのは、一二三や二之前だ。

「にゅぇ……ちょと……ねんねー……」
「ああ、いいよ。寝てけ寝てけ」

 ぼふっと、オーバーヒートしきった機械の如く、とさり、とベッドに埋もれて動かなくなる。束の間の休息だ。起きて再度お前なら、今日また来るかもしれない四方田恵に助けてもらえばそれで良い。きっと、色々お話は進んでくれるだろう。

「失礼します、白井です」
「んあ? ……何か面倒事?」

 高等部保険医のあいつが、か。電話でいいのに直にとは、何か厄介事だろうか。

「ええ、少し」
「解ったわ。今一人いるけど、入ってちょうだい」

 千人超えの星花女子学園。そのうちの二人の恋愛ごとは一先ず置いておいて、教師のお仕事しましょうかね。

「では失礼しま……あら、十さんか」
「ええ、例外は身近にあるけど……」

 教師はどうしてもそんな立場なんだ。だから、ぜひとも、学生同士で結ばれてほしいもんだ。

「ん? どうかしたの綾?」
「灯台下暗し、ってのをな、最近殊更身近に感じてね」
「ふふ、確かにねぇ……それもそうか」

 口癖を一つ寄越して入ってくる。その顔からは、大分険は取れているようだ。高等部でもこのての生徒達に事欠かないし、一時期こいつも危なかったしな。

「綾はなんか嬉しそうね」
「こいつらの関係に癒やされてるのはあるからな」
「それもそうか」
「まーだそっちは手焼いてるのね?」
「そう簡単に、青春のお悩みは付きないものよ」
「違いない」

 教師と生徒。互いに癒やされる存在で。こうして寝てしまっている手の掛かる生徒を、一つ眺めて癒やされる。それもまた有りだ。そういう想いは確かにあったっけ。保険医二人で昔の恋を笑い合いながら、今に咲き誇ろうとしている百合の花の片割れを横目にちらりと確認しあい、お仕事に取り掛かる。さ、今日もお仕事お仕事。働かないとお給金でないからなー!
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

S県における女学園の便器について

坂津眞矢子
青春
Q:タイトルどうにかならなかったんですか? A:思いついた感性を大事にしたいためどうにもならなかったですすいませんごめんなさい。 ひょんなことから知り合ってしまった二人のお話。 方や清楚と規律に憧れ自身を磨き続ける超元気系な少女、草壁 日咲(くさかべ ひさ)と ひたすら排泄行為と器にこだわる少女、河矢 射湖佳(かわや いこか) 正反対のようでそうでもないような組み合わせで、今日も学園生活を送っていく。 「便器の大きさは心の器やけぇ!!」 「おまるにもそれ言えんの?」 「ごめんて」 ※河矢射湖佳さんは壊れかけたラジオ先生発案のキャラクターです。

百合カップルを眺めるモブになりたかっただけなのに。

蒼風
恋愛
□あらすじ□  百合カップルを眺めるだけのモブになりたい。  そう願った佐々木小太郎改め笹木華は、無事に転生し、女学院に通う女子高校生となった。  ところが、モブとして眺めるどころか、いつの間にかハーレムの中心地みたいになっていってしまうのだった。  おかしい、こんなはずじゃなかったのに。 □作品について□ ・基本的に0時更新です。 ・カクヨム、小説家になろう、ノベルアップ+、noteにも掲載しております。 ・こちら(URL:https://amzn.to/3Jq4J7N)のURLからAmazonに飛んで買い物をしていただけると、微量ながら蒼風に還元されます。やることは普通に買い物をするのと変わらないので、気が向いたら利用していただけると更新頻度が上がったりするかもしれません。 ・細かなことはnote記事(URL:https://note.com/soufu3414/n/nbca26a816378?magazine_key=m327aa185ccfc)をご覧ください。 (最終更新日:2022/04/09)

坂津眞矢子星花短編集

坂津眞矢子
青春
星花系統の、短編を集めたものです 集まるほどあるかは不明ですが、色々頑張ってみます。 本家の方もしっかり進めたいです()

女子高生は卒業間近の先輩に告白する。全裸で。

矢木羽研
恋愛
図書委員の女子高生(小柄ちっぱい眼鏡)が、卒業間近の先輩男子に告白します。全裸で。 女の子が裸になるだけの話。それ以上の行為はありません。 取って付けたようなバレンタインネタあり。 カクヨムでも同内容で公開しています。

JKがいつもしていること

フルーツパフェ
大衆娯楽
平凡な女子高生達の日常を描く日常の叙事詩。 挿絵から御察しの通り、それ以外、言いようがありません。

鐘ヶ岡学園女子バレー部の秘密

フロイライン
青春
名門復活を目指し厳しい練習を続ける鐘ヶ岡学園の女子バレー部 キャプテンを務める新田まどかは、身体能力を飛躍的に伸ばすため、ある行動に出るが…

女神と共に、相談を!

沢谷 暖日
青春
九月の初め頃。 私──古賀伊奈は、所属している部活動である『相談部』を廃部にすると担任から言い渡された。 部員は私一人、恋愛事の相談ばっかりをする部活、だからだそうだ。 まぁ。四月頃からそのことについて結構、担任とかから触れられていて(ry 重い足取りで部室へ向かうと、部室の前に人影を見つけた私は、その正体に驚愕する。 そこにいたのは、学校中で女神と謳われている少女──天崎心音だった。 『相談部』に何の用かと思えば、彼女は恋愛相談をしに来ていたのだった。 部活の危機と聞いた彼女は、相談部に入部してくれて、様々な恋愛についてのお悩み相談を共にしていくこととなる──

さくらと遥香

youmery
恋愛
国民的な人気を誇る女性アイドルグループの4期生として活動する、さくらと遥香(=かっきー)。 さくら視点で描かれる、かっきーとの百合恋愛ストーリーです。 ◆あらすじ さくらと遥香は、同じアイドルグループで活動する同期の2人。 さくらは"さくちゃん"、 遥香は名字にちなんで"かっきー"の愛称でメンバーやファンから愛されている。 同期の中で、加入当時から選抜メンバーに選ばれ続けているのはさくらと遥香だけ。 ときに"4期生のダブルエース"とも呼ばれる2人は、お互いに支え合いながら数々の試練を乗り越えてきた。 同期、仲間、戦友、コンビ。 2人の関係を表すにはどんな言葉がふさわしいか。それは2人にしか分からない。 そんな2人の関係に大きな変化が訪れたのは2022年2月、46時間の生配信番組の最中。 イラストを描くのが得意な遥香は、生配信中にメンバー全員の似顔絵を描き上げる企画に挑戦していた。 配信スタジオの一角を使って、休む間も惜しんで似顔絵を描き続ける遥香。 さくらは、眠そうな顔で頑張る遥香の姿を心配そうに見つめていた。 2日目の配信が終わった夜、さくらが遥香の様子を見に行くと誰もいないスタジオで2人きりに。 遥香の力になりたいさくらは、 「私に出来ることがあればなんでも言ってほしい」 と申し出る。 そこで、遥香から目をつむるように言われて待っていると、さくらは唇に柔らかい感触を感じて… ◆章構成と主な展開 ・46時間TV編[完結] (初キス、告白、両想い) ・付き合い始めた2人編[完結] (交際スタート、グループ内での距離感の変化) ・かっきー1st写真集編[完結] (少し大人なキス、肌と肌の触れ合い) ・お泊まり温泉旅行編[完結] (お風呂、もう少し大人な関係へ) ・かっきー2回目のセンター編[完結] (かっきーの誕生日お祝い) ・飛鳥さん卒コン編[完結] (大好きな先輩に2人の関係を伝える) ・さくら1st写真集編[完結] (お風呂で♡♡) ・Wセンター編[不定期更新中] ※女の子同士のキスやハグといった百合要素があります。抵抗のない方だけお楽しみください。

処理中です...