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皇帝、自称祖父とは相いれないと知る
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支度を整え天幕を出た瞬間に、「陛下!」と女性の声で呼ばれた。
当然だが振り向きはしない。うんざりしながら先に進むと、十メートルもいかないうちに体格の良い近衛騎士たちに取り囲まれた。
リリアーナ嬢の姿はそれ以上見えなくなったが、まだ追いすがる声だけは聞こえて来る。
些事にかかわっている場合ではないので、完全無視を貫いた。
ハロルドの服装を見て、行く先を察した近衛騎士が騎馬を連れてくる。
翼竜の待機場所は少し離れた場所にあるので、徒歩での移動は時間がかかるのだ。
騎馬で遠ざかるとようやく彼女の声が聞こえなくなって、ため息が零れた。
騎士たちの目が、もの言いたげにしている。
リリアーナ嬢を無碍にしていると非難するものではなく、なんとも言えない気の毒な者を見る目だ。それはそれで腹立たしい。
やがて翼竜部隊が待機している場所に到着した。丘をぐるりとまわって反対側、本陣の西側の開けた場所に布陣している。
翼竜は体力機動力ともに優れた戦士だが、翼を広げた時の大きさとその機動力とが仇となって、一度にまとまった数を動かせば接触などの不慮の事故が起きやすい。故に時間をずらして飛び立つのがセオリーで、現在は残り三分の一ほどが出陣を待って待機していた。
「へ、陛下!!」
こちらに全速力で駆けてくるのは、見覚えのある青竜師団の中隊長だ。
ハロルドを出迎えに来たのかと思っていたのだが、こちらを見てほっと安堵の表所を浮かべたところを見ると違うらしい。
「どうした」
中隊長のあまりの形相に、近衛騎士たちも警戒態勢に入る。
重鎧を身にまとい、軍馬もまた武装した騎兵に威嚇されて、真っ青だった中隊長の顔色が幾分まともになった。
槍先を向けられて顔色を良くするとは、これ如何に。
ハロルドは首を傾げ、彼が駆けてきた方角に目を向けた。
大柄な近衛騎士の背中と、興奮気味の翼竜たちの羽ばたきに阻まれて、すぐにはわからなかった。
しかし、その隙間からちらりと見えたのは、白い色。
中隊長をここまで困惑させた主が、ハロルドの黒い翼竜の側で軽く手を振っていた。
「……なにをしている」
いや、聞くまでもない。
教皇ポラリスの服装は、会談の時のように仰々しい法衣ではなくなっていた。それよりももっと簡素な、神殿騎士が身にまとうような白いズボンに貫頭衣、青みがかったグレーのサーコート姿に編み上げブーツ……つまりはいつでも翼竜に騎乗できるような服に着替えていたのだ。
「連れて行けるわけがないだろう」
騎乗経験もあるかどうかわからないのに、いきなり巨大竜がひしめき合う戦場になど連れて行けるわけがない。怪我でもさせてしまえば確実に禍根が残る。いや今の帝都の状況だと、下手をすると命にもかかわる。
「君も条件は同じだね」
「違う」
行くなら自力で行けばよいのだ。
教皇の護衛を務めるあの神殿騎士たちは、決してお飾りの集団ではない。長く戦場で生きてきた者にはわかる。あれは白衣を血に染めることも厭わぬ精鋭の騎士たちだ。
「問題の場所を知っているのだろう?」
「確証はない」
「私の権限で調べることが出来ないのはわかるよね?」
「許可は出しておく」
「急がないと困ったことになるんだけど」
ハロルドは苦い表情になった。
今の状況など知らぬと言いたげな、穏やかな微笑み。断られることなど考えてもいないのだろう。そんな教皇の顔を見ていると、手に持っているものを投げつけたくなる。
「大勢は運べない」
やがて渋々と折れたのは、普段から忍耐の多い生き方をしてきたハロルドのほうだ。
「こちらは五人でいいよ。残りは騎馬で帝都に戻らせる」
何が「いいよ」だ!!
「……後悔するなよ」
揉めている時間はないので、受け入れざるを得なかった。
「その服装では風を防げない。もう一枚羽織れ」
こうなったら後宮のど真ん中に捨ててきてやる。
周囲の竜騎士たちが「ええ~」とでも言いたげな複雑な顔をした。不満というよりも及び腰だ。無理もない。戦場に非戦闘員を連れて行くなど足手まといでしかないからだ。
翼竜の背中に初心者を乗せて飛ぶのは、常時であっても気を遣う。竜籠を用意していないので鞍での二人乗りということになるし、相手は教皇。腰が引けるのも無理はなかった。
選ばれた教皇以外の四人に重鎧を脱ぐように告げる。翼竜が運べない重さではないのだが、上空の気温は低く、金属が肌に当たると凍傷になるからだ。
その他諸々の準備を終えるのに数十分かかった。本来であれば、第三陣はとっくに出発している時刻だ。
帝都の上空ではまだ戦いは始まっていない。
巨大竜が時折咆哮を上げ威嚇してくるが、翼竜部隊は布陣が終わるのを待つために帝都上空を時計回りに旋回している。
もちろんだがその場にとどまって滞空することはできない。それは巨大竜でも同様で、双方がぐるぐると反対向きに回りながら相手の出方を伺っている形だ。
「陛下!」
誰がどのお荷物……もとい、同行者を後ろに乗せるかが決まり、そろそろ竜騎士が鞍にまたがろうかというとき、ざわり、とその場の空気が揺れた。
声の方を振り返ると、一騎の騎馬が早足で駆けてくる。
騎士が上半身を伏せ、スピード重視の姿勢でいることを見てとって、ハロルドだけではなく近くにいた近衛騎士たちも、神殿騎士たちでさえも何事かと身構えた。
騎士は伏せの状態から馬の腹を抱きかかえるようにして下馬した。滑り落ちるような素早い動きは熟練の伝令士のものだ。
「伝令です!! ただいま敵陣に動きが。中央部隊が戦闘準備に入っております。正面に掲げる旗は黄と緑。ガリオン殿下のものです!!」
これまで小競り合いを繰り返していたのは、ブロウネ共和国の兵団だ。部隊の軍旗は、深緑色に交差する槍と天秤の意匠。商人の国らしく傭兵が多く、人種も様々だった。
黄色と緑色の旗を掲げ、そこにエゼルバード帝国の紋章が刻まれているというのであれば、確かにそれは異母兄のものだ。
皇帝位を正当な者の手に奪い返すという宣言文を挙げただけで、軍旗すら掲げず引っ込んでいた総大将がようやくお出ましらしい。
竜騎士たちはそろって北に顔を向けた。ここから見えるわけではないのだが、敵兵が布陣している方角だ。
ハロルドの一代前の皇帝は長兄である。母親はリオン公爵家の出身で、皇后として擁立されていた。長兄は身体が弱く、その事で皇位継承について異議が出て国情は安定せず、結局後継を設ける間もなく病死してしまった。
ガリオンはハロルドのすぐ上の兄だ。母親はブロウネ共和国の旧貴族出身で、内乱が勃発した直後に亡命していた。父や兄が生きていたころでさえ、実際に会ったのは数えるほどで、二言三言程度しか会話をした記憶もない。
ちなみに彼は皇子を名乗っているが、実際は帝兄である。皇子と名乗るのは、ハロルドの帝位に納得していない兄弟たちの常套句だ。
周囲から判断を待つ視線を受けて、ハロルドは腰に下げていた剣を座りの良い位置に動かした。
「ラモス将軍に指揮権を託す。伝令」
「はっ」
「帝都のほうはこちらで対処するので、ブロウネ共和国のほうは任せると伝えろ。攻勢に出ても構わない。いやむしろ手は抜くな、徹底的に叩け」
ハロルドは命令書にサインをしてから、翼竜に乗り込むべく昇上台に脚を掛けた。
すでに竜が召喚されてしまった以上、ブロウネ共和国に付き合ってやる義理はない。
こちらを見ている連中が考えているのは、異母兄のことだろうが、そちらも気にしなくてよい。
おそらく、剣戟が届く範囲に兄はいない。
ほとんど会話を交わしたこともない相手であっても、用心深い異母兄が常に安全圏で企みを巡らせる質だというのは把握していた。
いるとすれば最後尾、前線からもっとも遠い位置だろう。
さすがの朱雀師団でも、敵兵を全滅させるのでない限り、兄のところまで手は届かない可能性が高い。
ハロルドは黒い翼竜の鞍に腰を落ち着けて、走り去っていく伝令を見送った。
そういえば、白虎師団に任せたブロウネ共和国攻略がそろそろ佳境に入る頃だ。
いくら用心深い異母兄であっても、退路を断たれては逃げ出すすべはないだろう。
当然だが振り向きはしない。うんざりしながら先に進むと、十メートルもいかないうちに体格の良い近衛騎士たちに取り囲まれた。
リリアーナ嬢の姿はそれ以上見えなくなったが、まだ追いすがる声だけは聞こえて来る。
些事にかかわっている場合ではないので、完全無視を貫いた。
ハロルドの服装を見て、行く先を察した近衛騎士が騎馬を連れてくる。
翼竜の待機場所は少し離れた場所にあるので、徒歩での移動は時間がかかるのだ。
騎馬で遠ざかるとようやく彼女の声が聞こえなくなって、ため息が零れた。
騎士たちの目が、もの言いたげにしている。
リリアーナ嬢を無碍にしていると非難するものではなく、なんとも言えない気の毒な者を見る目だ。それはそれで腹立たしい。
やがて翼竜部隊が待機している場所に到着した。丘をぐるりとまわって反対側、本陣の西側の開けた場所に布陣している。
翼竜は体力機動力ともに優れた戦士だが、翼を広げた時の大きさとその機動力とが仇となって、一度にまとまった数を動かせば接触などの不慮の事故が起きやすい。故に時間をずらして飛び立つのがセオリーで、現在は残り三分の一ほどが出陣を待って待機していた。
「へ、陛下!!」
こちらに全速力で駆けてくるのは、見覚えのある青竜師団の中隊長だ。
ハロルドを出迎えに来たのかと思っていたのだが、こちらを見てほっと安堵の表所を浮かべたところを見ると違うらしい。
「どうした」
中隊長のあまりの形相に、近衛騎士たちも警戒態勢に入る。
重鎧を身にまとい、軍馬もまた武装した騎兵に威嚇されて、真っ青だった中隊長の顔色が幾分まともになった。
槍先を向けられて顔色を良くするとは、これ如何に。
ハロルドは首を傾げ、彼が駆けてきた方角に目を向けた。
大柄な近衛騎士の背中と、興奮気味の翼竜たちの羽ばたきに阻まれて、すぐにはわからなかった。
しかし、その隙間からちらりと見えたのは、白い色。
中隊長をここまで困惑させた主が、ハロルドの黒い翼竜の側で軽く手を振っていた。
「……なにをしている」
いや、聞くまでもない。
教皇ポラリスの服装は、会談の時のように仰々しい法衣ではなくなっていた。それよりももっと簡素な、神殿騎士が身にまとうような白いズボンに貫頭衣、青みがかったグレーのサーコート姿に編み上げブーツ……つまりはいつでも翼竜に騎乗できるような服に着替えていたのだ。
「連れて行けるわけがないだろう」
騎乗経験もあるかどうかわからないのに、いきなり巨大竜がひしめき合う戦場になど連れて行けるわけがない。怪我でもさせてしまえば確実に禍根が残る。いや今の帝都の状況だと、下手をすると命にもかかわる。
「君も条件は同じだね」
「違う」
行くなら自力で行けばよいのだ。
教皇の護衛を務めるあの神殿騎士たちは、決してお飾りの集団ではない。長く戦場で生きてきた者にはわかる。あれは白衣を血に染めることも厭わぬ精鋭の騎士たちだ。
「問題の場所を知っているのだろう?」
「確証はない」
「私の権限で調べることが出来ないのはわかるよね?」
「許可は出しておく」
「急がないと困ったことになるんだけど」
ハロルドは苦い表情になった。
今の状況など知らぬと言いたげな、穏やかな微笑み。断られることなど考えてもいないのだろう。そんな教皇の顔を見ていると、手に持っているものを投げつけたくなる。
「大勢は運べない」
やがて渋々と折れたのは、普段から忍耐の多い生き方をしてきたハロルドのほうだ。
「こちらは五人でいいよ。残りは騎馬で帝都に戻らせる」
何が「いいよ」だ!!
「……後悔するなよ」
揉めている時間はないので、受け入れざるを得なかった。
「その服装では風を防げない。もう一枚羽織れ」
こうなったら後宮のど真ん中に捨ててきてやる。
周囲の竜騎士たちが「ええ~」とでも言いたげな複雑な顔をした。不満というよりも及び腰だ。無理もない。戦場に非戦闘員を連れて行くなど足手まといでしかないからだ。
翼竜の背中に初心者を乗せて飛ぶのは、常時であっても気を遣う。竜籠を用意していないので鞍での二人乗りということになるし、相手は教皇。腰が引けるのも無理はなかった。
選ばれた教皇以外の四人に重鎧を脱ぐように告げる。翼竜が運べない重さではないのだが、上空の気温は低く、金属が肌に当たると凍傷になるからだ。
その他諸々の準備を終えるのに数十分かかった。本来であれば、第三陣はとっくに出発している時刻だ。
帝都の上空ではまだ戦いは始まっていない。
巨大竜が時折咆哮を上げ威嚇してくるが、翼竜部隊は布陣が終わるのを待つために帝都上空を時計回りに旋回している。
もちろんだがその場にとどまって滞空することはできない。それは巨大竜でも同様で、双方がぐるぐると反対向きに回りながら相手の出方を伺っている形だ。
「陛下!」
誰がどのお荷物……もとい、同行者を後ろに乗せるかが決まり、そろそろ竜騎士が鞍にまたがろうかというとき、ざわり、とその場の空気が揺れた。
声の方を振り返ると、一騎の騎馬が早足で駆けてくる。
騎士が上半身を伏せ、スピード重視の姿勢でいることを見てとって、ハロルドだけではなく近くにいた近衛騎士たちも、神殿騎士たちでさえも何事かと身構えた。
騎士は伏せの状態から馬の腹を抱きかかえるようにして下馬した。滑り落ちるような素早い動きは熟練の伝令士のものだ。
「伝令です!! ただいま敵陣に動きが。中央部隊が戦闘準備に入っております。正面に掲げる旗は黄と緑。ガリオン殿下のものです!!」
これまで小競り合いを繰り返していたのは、ブロウネ共和国の兵団だ。部隊の軍旗は、深緑色に交差する槍と天秤の意匠。商人の国らしく傭兵が多く、人種も様々だった。
黄色と緑色の旗を掲げ、そこにエゼルバード帝国の紋章が刻まれているというのであれば、確かにそれは異母兄のものだ。
皇帝位を正当な者の手に奪い返すという宣言文を挙げただけで、軍旗すら掲げず引っ込んでいた総大将がようやくお出ましらしい。
竜騎士たちはそろって北に顔を向けた。ここから見えるわけではないのだが、敵兵が布陣している方角だ。
ハロルドの一代前の皇帝は長兄である。母親はリオン公爵家の出身で、皇后として擁立されていた。長兄は身体が弱く、その事で皇位継承について異議が出て国情は安定せず、結局後継を設ける間もなく病死してしまった。
ガリオンはハロルドのすぐ上の兄だ。母親はブロウネ共和国の旧貴族出身で、内乱が勃発した直後に亡命していた。父や兄が生きていたころでさえ、実際に会ったのは数えるほどで、二言三言程度しか会話をした記憶もない。
ちなみに彼は皇子を名乗っているが、実際は帝兄である。皇子と名乗るのは、ハロルドの帝位に納得していない兄弟たちの常套句だ。
周囲から判断を待つ視線を受けて、ハロルドは腰に下げていた剣を座りの良い位置に動かした。
「ラモス将軍に指揮権を託す。伝令」
「はっ」
「帝都のほうはこちらで対処するので、ブロウネ共和国のほうは任せると伝えろ。攻勢に出ても構わない。いやむしろ手は抜くな、徹底的に叩け」
ハロルドは命令書にサインをしてから、翼竜に乗り込むべく昇上台に脚を掛けた。
すでに竜が召喚されてしまった以上、ブロウネ共和国に付き合ってやる義理はない。
こちらを見ている連中が考えているのは、異母兄のことだろうが、そちらも気にしなくてよい。
おそらく、剣戟が届く範囲に兄はいない。
ほとんど会話を交わしたこともない相手であっても、用心深い異母兄が常に安全圏で企みを巡らせる質だというのは把握していた。
いるとすれば最後尾、前線からもっとも遠い位置だろう。
さすがの朱雀師団でも、敵兵を全滅させるのでない限り、兄のところまで手は届かない可能性が高い。
ハロルドは黒い翼竜の鞍に腰を落ち着けて、走り去っていく伝令を見送った。
そういえば、白虎師団に任せたブロウネ共和国攻略がそろそろ佳境に入る頃だ。
いくら用心深い異母兄であっても、退路を断たれては逃げ出すすべはないだろう。
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