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竜騎士、悔恨し愕き慄く
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覚えているのは、父親と同じ真っ黒な瞳だ。
まだ幼女と呼ばれる年頃にもかかわらず、丈の合わない修道女服を着ていて、己の母の聞くに堪えない罵声を浴びながらぽつんとひとり立っていた。
言い訳にしかならないが、あの頃は騎士としての進退を悩んでいた時期で、実家の方にはほとんど戻っておらず、彼女の存在を知ってはいたがそれだけだった。
見合いを断るため一時帰宅した領地の館にいた、頭から汚水を浴びている薄汚い子供。
思わず顔をしかめてしまったときに、目が合った。
咄嗟に、それが『異母妹』なのだと察することはできなかった。すれ違いざま生臭いにおいに舌打ちし、そんなナリで館の中を歩くなと言いかけて、父親譲りの真っ黒な目に気づいたのだ。
十三年ほど前のことだ。当時彼女は五歳ぐらいだったと思う。
初対面の己の行動を恥じる気持ちが、関わり合いを極端に避けさせた。
メルシェイラという名前を呼んだことなど一度もないし、直接言葉を交わしたこともなく、おそらく街中ですれ違っても互いを認識できないだろう。
己の母親を含む父の妻たちが、彼女をひどく嫌悪している理由はひとつ。
どの妻とも平等に冷えた関係した築かなかった父が、どこからともなく現れたメルシェイラの母親を大切そうに別邸に囲い、頻繁に通っていたからだ。
当時のことは騎士学校の寮にいたのでよく知らない。
正騎士になる頃には、メルシェイラの母親は娘を置いて姿を消していて、誰もその事について口にする者はいなくなっていた。
父が末の妹を認知するだけして修道院に放置していることは、ずっと気にはなっていた。父らしくないと思ったし、あの汚水まみれの姿を思い出すと憐憫の情も沸く。
しかしそれも母たちの悪意から守るためで、そのうちしかるべき所に嫁にやるのだろうと静観していたのだ。
婚期を逃していたロバートだが、三十近くになってから釣り合う身分の女性と結婚し、数年前に娘が生まれた。
愛する我が子を見ていると、どうしてもかつての汚水まみれの幼子を思い出してしまう。
末の妹は、十八歳になってもまだあの朽ちかけた修道院にいる。
今更何をすることもできないが、いつか謝罪できればいいと、そう思っていた。
そんな矢先。
「あれを後宮に送り込む」
最近とみに老けてきた父が、久々に顔を合わせた際に言った。
「ホーキンズの娘が身籠った」
理由になるようでならない事を言い、例によって誰も止めることができないままに彼女はハロルド陛下の奥へと連れていかれてしまった。
ずっと次兄のところの姪が陛下に嫁ぎたいと言っていたので、家族からはかなりの反発があったと聞く。
えらいところに嫁にやるのだなと思っていたが、養女と身分を偽らせ、しかも立場は妾妃。
昔から何を考えているかよくわからない父だが、今回ばかりは末の妹が気の毒で、一言だけでも反対の意思を告げようとしたのだ。
しかし、父のいかめしい顔をみていると何も言えなかった。子供のころからの刷り込みのようなもので、あの黒い目でジロリと睨まれると肝が冷える。
父に物申すことはできなかったが、陛下にお目にかかる機会があり、妹のことを頼むとお願いできたのは僥倖だった。
「竜籠の用意ができました、将軍閣下!!」
従騎士が翼竜の額に手を押し当てながら大声を張り上げる。
翼竜の発着所は高所にあるので、声を張らないと風に負けてしまうのだ。
崖の端に並ぶ止まり場に、ロバートの相棒をはじめとして、視界には収まりきらない数の翼竜が待機している。その情景は叙事詩の中の一場面を思わせ、見慣れた者でも足が止まるほどに壮観だ。
「お客さんたちを竜籠に案内してさしあげろ」
「イエッサー!」
切り立った崖の近くに立たされて、大学の教授とその弟子たちが一塊になって震えている。
翼竜という巨大な生き物に怯える気持ちは理解できるので、下手に宥めることはせず、パニックだけは起こしてくれるなと密かに願う。
今から向かうのはユクリノス。山岳地帯の盆地に位置し、乾いた地域が多いこの国では珍しく針葉樹に囲まれた風光明媚な観光地だ。
切り立った険しいマシェット山脈は人知を拒むが、万年雪をたたえた豊かな森で、長い年月をかけて砂礫層から染み出てきた清水が、この国の広範囲の命を育む水源となっている。
大陸のほとんどが深刻な水不足を抱える中、この国がここまで強大で在れるのは、複数ある水源を支配しているからだと言っても過言ではない。
すなわち水源の異常は国家の命運を左右するほどの重要案件であり、本来であれば国を挙げての調査が必要なはずなのだ。
「ほ、ほんとうに大丈夫なんですか」
真っ青な顔で従騎士に繰り返し質問しているのは、帝都にあるバスティン大学の地質学の教授だ。弟子を複数抱えているところから無能ではないのだろうが、まだ年若い。第一人者というにはほど遠い雰囲気の男だが、彼ぐらいしか竜籠に乗って現地調査に行ってくれる学者を見つけることができなかった。
「大丈夫ですよ! 問題ないです!!」
従騎士が笑顔でそう言っても、普段白亜の塔で研究に励む学者たちの不安はなかなか拭えない。
弟子の何人かが尻込みをして、特に女性は泣き出しはじめてしまって、やはり素人を竜籠に乗せるのが最大の関門だったなとため息がこぼれる。
幾度となく促され、教授が意を決した様子で竜籠に足を踏み入れる。
籠というよりも形状は箱馬車に似ていて、馬だと前に向かってついているシャフトの部分が真上に伸びている。シャフトと翼竜の脚とを固定して、大勢を一度に運ぶことができるようになっているのだ。
慣れてくれば高所の景観に感動する余裕も出てくるのだが、初めてだとどうしても二の足を踏む。
理解はできる。できるのだが……危険はないのでさっさと乗ってくれと言ってしまいたい。
もちろんロバートは黙ってお客さんが籠に乗り込むのを見守った。
ようやく最後の女性が抱きかかえられるようにして籠に乗り込み、いざ扉を閉めようかという段になって、ばさり、と大きな翼音がした。
これまで大人しく待機の姿勢でいた翼竜たちが、興奮したように頭を振り上げて上を見ている。
竜籠の中でお客さんたちが「きゃあ」と悲鳴を上げる声が聞こえる。「きゃあ」ってなんだ、最後の女性以外全員男だろうに。
タイミングの悪い来訪者に苦情を言おうと天空を振り仰ぎ、そこに見えた黒い巨体にはっと居住まいを正した。
現れたのは、特別な個体だった。
体が大きいわけでもない。色が特殊なわけでもない。ただ、竜騎士であればそのオスを見分けることができないものはいない。
「おい! 一番の発着所を空けろ!!」
強風に飛びがちなロバートの命令を、部下たちが伝言形式で伝えていく。
次々と「イエッサー!」の返答が伝わっていき、やがて上座の発着所に止まっていた赤茶色の翼竜がのそのそと脚で移動して場所を空けるのが見えた。
上空でホバリングしていた黒い翼竜が、優雅に翼を窄めて着陸態勢に入った。
「二番と五番もだ!!」
さっと空を見て付き従う翼竜の数を確認し、今すぐ移動できそうな個体に指示を出す。
四番には竜籠をセットしているのであれは動かせない。
三番にいるのはロバートの翼竜で、鞍に備品を積み込んでいる最中だったのでこちらも除外。
部下たちがテキパキと指示通りに場所を空け、予定外の訪問者たちは無事に着陸した。
ロバートは降りたった翼竜の巨大な翼がしっかり閉ざされるまで待ってから、一番の発着所に急いだ。
副官たちが転びそうになりながら背後からついてくる。
竜騎士の装備は独特で、騎乗用の固定具がかさばる上に重いのだ。幸いにもまだロバートは装着前だったので、一足先に飛び出すことができた。
一番の発着所では、担当の従騎士がひきつった表情で固定具の解除を補助している。
ブルルと首を振る黒い翼竜に宥めるように手を伸ばしかけ、躊躇い、やはり辛抱たまらんと言いたげにその首筋を撫でていた。
そんな従騎士の助けを借りるまでもなく、翼竜の背中から降りてくる一人の男。
竜騎士のみならず、誰もがその人物を知っている。
「どうしてこんな所に」
「本物か? まじか本物か」
「え? それにしては護衛が少なくないか?」
騒つく部下たちをかき分け、進む。
逆光の日差しが眩しくて、騎乗者の姿はよく見えない。
ロバートは、強風に負けじと大声を張って叫んだ。
「―――陛下!!」
陽光に、赤みを帯びた金髪がきらりと光った。
まだ幼女と呼ばれる年頃にもかかわらず、丈の合わない修道女服を着ていて、己の母の聞くに堪えない罵声を浴びながらぽつんとひとり立っていた。
言い訳にしかならないが、あの頃は騎士としての進退を悩んでいた時期で、実家の方にはほとんど戻っておらず、彼女の存在を知ってはいたがそれだけだった。
見合いを断るため一時帰宅した領地の館にいた、頭から汚水を浴びている薄汚い子供。
思わず顔をしかめてしまったときに、目が合った。
咄嗟に、それが『異母妹』なのだと察することはできなかった。すれ違いざま生臭いにおいに舌打ちし、そんなナリで館の中を歩くなと言いかけて、父親譲りの真っ黒な目に気づいたのだ。
十三年ほど前のことだ。当時彼女は五歳ぐらいだったと思う。
初対面の己の行動を恥じる気持ちが、関わり合いを極端に避けさせた。
メルシェイラという名前を呼んだことなど一度もないし、直接言葉を交わしたこともなく、おそらく街中ですれ違っても互いを認識できないだろう。
己の母親を含む父の妻たちが、彼女をひどく嫌悪している理由はひとつ。
どの妻とも平等に冷えた関係した築かなかった父が、どこからともなく現れたメルシェイラの母親を大切そうに別邸に囲い、頻繁に通っていたからだ。
当時のことは騎士学校の寮にいたのでよく知らない。
正騎士になる頃には、メルシェイラの母親は娘を置いて姿を消していて、誰もその事について口にする者はいなくなっていた。
父が末の妹を認知するだけして修道院に放置していることは、ずっと気にはなっていた。父らしくないと思ったし、あの汚水まみれの姿を思い出すと憐憫の情も沸く。
しかしそれも母たちの悪意から守るためで、そのうちしかるべき所に嫁にやるのだろうと静観していたのだ。
婚期を逃していたロバートだが、三十近くになってから釣り合う身分の女性と結婚し、数年前に娘が生まれた。
愛する我が子を見ていると、どうしてもかつての汚水まみれの幼子を思い出してしまう。
末の妹は、十八歳になってもまだあの朽ちかけた修道院にいる。
今更何をすることもできないが、いつか謝罪できればいいと、そう思っていた。
そんな矢先。
「あれを後宮に送り込む」
最近とみに老けてきた父が、久々に顔を合わせた際に言った。
「ホーキンズの娘が身籠った」
理由になるようでならない事を言い、例によって誰も止めることができないままに彼女はハロルド陛下の奥へと連れていかれてしまった。
ずっと次兄のところの姪が陛下に嫁ぎたいと言っていたので、家族からはかなりの反発があったと聞く。
えらいところに嫁にやるのだなと思っていたが、養女と身分を偽らせ、しかも立場は妾妃。
昔から何を考えているかよくわからない父だが、今回ばかりは末の妹が気の毒で、一言だけでも反対の意思を告げようとしたのだ。
しかし、父のいかめしい顔をみていると何も言えなかった。子供のころからの刷り込みのようなもので、あの黒い目でジロリと睨まれると肝が冷える。
父に物申すことはできなかったが、陛下にお目にかかる機会があり、妹のことを頼むとお願いできたのは僥倖だった。
「竜籠の用意ができました、将軍閣下!!」
従騎士が翼竜の額に手を押し当てながら大声を張り上げる。
翼竜の発着所は高所にあるので、声を張らないと風に負けてしまうのだ。
崖の端に並ぶ止まり場に、ロバートの相棒をはじめとして、視界には収まりきらない数の翼竜が待機している。その情景は叙事詩の中の一場面を思わせ、見慣れた者でも足が止まるほどに壮観だ。
「お客さんたちを竜籠に案内してさしあげろ」
「イエッサー!」
切り立った崖の近くに立たされて、大学の教授とその弟子たちが一塊になって震えている。
翼竜という巨大な生き物に怯える気持ちは理解できるので、下手に宥めることはせず、パニックだけは起こしてくれるなと密かに願う。
今から向かうのはユクリノス。山岳地帯の盆地に位置し、乾いた地域が多いこの国では珍しく針葉樹に囲まれた風光明媚な観光地だ。
切り立った険しいマシェット山脈は人知を拒むが、万年雪をたたえた豊かな森で、長い年月をかけて砂礫層から染み出てきた清水が、この国の広範囲の命を育む水源となっている。
大陸のほとんどが深刻な水不足を抱える中、この国がここまで強大で在れるのは、複数ある水源を支配しているからだと言っても過言ではない。
すなわち水源の異常は国家の命運を左右するほどの重要案件であり、本来であれば国を挙げての調査が必要なはずなのだ。
「ほ、ほんとうに大丈夫なんですか」
真っ青な顔で従騎士に繰り返し質問しているのは、帝都にあるバスティン大学の地質学の教授だ。弟子を複数抱えているところから無能ではないのだろうが、まだ年若い。第一人者というにはほど遠い雰囲気の男だが、彼ぐらいしか竜籠に乗って現地調査に行ってくれる学者を見つけることができなかった。
「大丈夫ですよ! 問題ないです!!」
従騎士が笑顔でそう言っても、普段白亜の塔で研究に励む学者たちの不安はなかなか拭えない。
弟子の何人かが尻込みをして、特に女性は泣き出しはじめてしまって、やはり素人を竜籠に乗せるのが最大の関門だったなとため息がこぼれる。
幾度となく促され、教授が意を決した様子で竜籠に足を踏み入れる。
籠というよりも形状は箱馬車に似ていて、馬だと前に向かってついているシャフトの部分が真上に伸びている。シャフトと翼竜の脚とを固定して、大勢を一度に運ぶことができるようになっているのだ。
慣れてくれば高所の景観に感動する余裕も出てくるのだが、初めてだとどうしても二の足を踏む。
理解はできる。できるのだが……危険はないのでさっさと乗ってくれと言ってしまいたい。
もちろんロバートは黙ってお客さんが籠に乗り込むのを見守った。
ようやく最後の女性が抱きかかえられるようにして籠に乗り込み、いざ扉を閉めようかという段になって、ばさり、と大きな翼音がした。
これまで大人しく待機の姿勢でいた翼竜たちが、興奮したように頭を振り上げて上を見ている。
竜籠の中でお客さんたちが「きゃあ」と悲鳴を上げる声が聞こえる。「きゃあ」ってなんだ、最後の女性以外全員男だろうに。
タイミングの悪い来訪者に苦情を言おうと天空を振り仰ぎ、そこに見えた黒い巨体にはっと居住まいを正した。
現れたのは、特別な個体だった。
体が大きいわけでもない。色が特殊なわけでもない。ただ、竜騎士であればそのオスを見分けることができないものはいない。
「おい! 一番の発着所を空けろ!!」
強風に飛びがちなロバートの命令を、部下たちが伝言形式で伝えていく。
次々と「イエッサー!」の返答が伝わっていき、やがて上座の発着所に止まっていた赤茶色の翼竜がのそのそと脚で移動して場所を空けるのが見えた。
上空でホバリングしていた黒い翼竜が、優雅に翼を窄めて着陸態勢に入った。
「二番と五番もだ!!」
さっと空を見て付き従う翼竜の数を確認し、今すぐ移動できそうな個体に指示を出す。
四番には竜籠をセットしているのであれは動かせない。
三番にいるのはロバートの翼竜で、鞍に備品を積み込んでいる最中だったのでこちらも除外。
部下たちがテキパキと指示通りに場所を空け、予定外の訪問者たちは無事に着陸した。
ロバートは降りたった翼竜の巨大な翼がしっかり閉ざされるまで待ってから、一番の発着所に急いだ。
副官たちが転びそうになりながら背後からついてくる。
竜騎士の装備は独特で、騎乗用の固定具がかさばる上に重いのだ。幸いにもまだロバートは装着前だったので、一足先に飛び出すことができた。
一番の発着所では、担当の従騎士がひきつった表情で固定具の解除を補助している。
ブルルと首を振る黒い翼竜に宥めるように手を伸ばしかけ、躊躇い、やはり辛抱たまらんと言いたげにその首筋を撫でていた。
そんな従騎士の助けを借りるまでもなく、翼竜の背中から降りてくる一人の男。
竜騎士のみならず、誰もがその人物を知っている。
「どうしてこんな所に」
「本物か? まじか本物か」
「え? それにしては護衛が少なくないか?」
騒つく部下たちをかき分け、進む。
逆光の日差しが眩しくて、騎乗者の姿はよく見えない。
ロバートは、強風に負けじと大声を張って叫んだ。
「―――陛下!!」
陽光に、赤みを帯びた金髪がきらりと光った。
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