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⑧「オーラ」

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⑧「オーラ」
 希は、健と別れ自宅に戻った。不思議と昼に感じていた「死」への恐怖感は薄れていた。(「どうせ死ぬなら旨いもん食ってから死んだ方が得やろ!」か…。健さんの言うとおりやわな。今日は、串カツも土手焼きもホルモンも美味しかったよな。あと、ビールも熱燗もマッコリもな。お父さんに似て私も「酒仙」なんかな?いや、女やから「酒仙女」かな…?それにしても健さんって不思議な人やったよなぁ。「オカルトって好きか?」とか「月刊「メー」読んでるか?」って普通、二十歳の女の子に聞くか?
 おまけに私がお礼で「処女あげよか?」って言ったら「背中掻いてくれ」ってもったいないお化けがでるでなぁ…。)と思いながら「オカルト」、「月刊メー」に加えて、頭の片隅に残った「オーラ」と言う言葉を検索してみた。

 「オカルト」は、幅が広すぎてピンとくるものがなく、「月刊メー」は内容がニッチ過ぎてよくわからなかった。「オーラ」と言う言葉は、フリーの電子百科事典で調べると「オーラとは、生体が発散するとされる霊的な放射体、エネルギーを意味する。」とあった。(健さんが「オーラの色」って言ったんは、初めてのビールで感激したあと、こんな美味しいものをあと1年も楽しまれへんって頭の中で理解して気持ちが落ち込んだ時やったよな…。感情がオーラの色としてわかるっていう「女神様」が主人公の漫画があったけど、健さんにも私の感情の変化が見えたって言うことなんやろか…?)とさらに、パソコンでググってみた。

 「オーラが見える人」のキーワードでググると、いろんなホームページやブログが出てきた。いくつかのサイトを見て頭をまとめると、「他人の感情を言葉なしに理解できる。」、「優しい雰囲気を醸し出す」、「将来を見通す」能力を持つ人で、占い師や預言者に多いと出ていた。
 希が最初から健を受け入れた「優しい雰囲気」や健の「先読みする機転」はそれに当てはまるような気がした。複数のサイトで釈迦像やキリスト像の絵画や彫像の背後に描かれる後光や輝きを「オーラ」とするものもあった。有能な霊能者は、あらゆるもののオーラを読み取り、その行く末を予見できるとの記載も多数見かけた。

 (うーん、でも健さんは「神様」と言うより「ただの気のいい大阪のおっちゃん」って感じやな。「霊能者」や「占い師」って感じもないし…、健さん自身「よろず相談員」って言ってたから、人の話を引き出したり、それに対応するトークに慣れてるってとこかな。まあ、明日、ダイレクトに聞いたら答えてくれるかな…?)と思い、パソコンを閉じた。

 夜9時過ぎて、母親と父親から電話がかかってきた。健から、「今の時点で親に「白血病」の宣告を受けたことを話しても、不安にさせるだけなのでしばらく黙っておくように」と言うアドバイスが思い出され、「財布を落として手持ちがないので急ぎで1万円か2万円送ってほしいねん。」とごまかした。母親が、誕生日のお祝いと併せて3万円振り込んでくれることになった。「もうあんたも二十歳やねんから、落ち着いてええ女になるんやで!そんで、はよ働いてお父ちゃんとお母ちゃんを楽させてや!とりあえず成人おめでとな!」と言われ電話を切った。(あぁ、誕生日祝ってもらうんも、これが最後かもしれへんねんな…。お母ちゃん、恩返しできへんまま死んでしまうねんけどごめんな…。)少し憂鬱な気分になった。

 風呂を沸かし、今日半日を振り返った。20年生きてきた中で最も長く感じた一日だった。
 ベッドにもぐりこむと、また涙が溢れてきたが、入浴後の火照った身体と適度に残った酔いが自然に眠りに落としてくれた。夢の中で健が出てきて再び「どうせ死ぬなら旨いもん食って死なな損やし、死なんで済むにしても旨いもん知らずにおるのは人生の損失やろ!」と言い、一緒にお好み焼きを食べる夢を見た。夢の中では「死」を忘れて笑顔で健と一緒にビールを飲んでいた。

 翌朝、午前7時半、希は目が覚めると、テーブルに置かれた「なにわ国際がんセンター」の紙封筒で現実に戻された。寝ぼけた頭で洗面所にむかい顔を洗った。歯磨きをして、うがいをすると今回も吐いた水に血が混ざっていた、鏡で歯茎を確認すると下の歯ぐきから出血している。以前はそんなことは無かったのだがこの1週間出血が続いている。(あぁ、白血病の症状に「歯ぐきからの出血」っていうのもあったもんなぁ…。あー、憂鬱やなぁ…。)

 テレビをつけるといつもの朝のワイドショーではない番組が映っているのに気がついた。(あっ、今日は土曜日…。健さんもお仕事は午前中だけって言ってたから、お昼からでも会えるかな…?)と思い、ガラケーと健にもらった名刺を手に取った。
 名刺には、健の会社と思われる屋号と名前と住所と携帯の番号が記されていた。(へーえ、健さんの住所って浪速区なんや…。さてさて、携帯は繋がるかな?)と名刺に書かれた番号にダイヤルした。
「もしもし、おはようございます。昨日はごちそうさまでした。希です。健さん、今日もあってもらえる時間ありますか?」

 健は午前中だけ仕事が入ってるということだったので、12時に待ち合わせることになった。夢の中で健と一緒に楽しくお好み焼きを食べた話をすると、「十三でお好み食べたことあるか?」と聞かれたので「道頓堀でしかないよ。」と返事すると、強引に「じゃあ、十三西口に12時な。お腹すかしておいでや!」と言われ電話は切れた。
 希の状況を理解していて、昨日と変わらず明るく対応してくれる健の声を聞いて少し元気が出た。

 (あー、昨日の京橋もそうやったけど十三も「おじさんの街」ってイメージやけどどんなとこに連れていってくれるんかな。健さんの言う通り、同じ死ぬにしても美味しいものたくさん食べるっていうのはええかもな。)とパジャマからワンピースに着替えた。



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