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⑤「余命宣告」

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⑤「余命宣告」
 健は黙って、希の話を聞き続けた。その後の話を要約すると、なにわ国際がんセンターで受けた再検診で白血球数と血小板数はさらに減少している結果が出た。
 希自身、4日前に受けた血液検査の結果をもとに、インターネットで「白血球数減少」等、思い当たるキーワードを検索を繰り返していた。検索ワードを何度も変えたり、組み合わせ検索のパターンを変えて調べたのだが、最終的にたどり着くのは「白血病」という、見たくもない「ワード」だった。

 令和の時代になった今でこそ、白血病は「治る病気」という認識が出てきている。歌舞伎の十二代目「市川團十郎」氏や、俳優の「渡辺謙」氏、水泳女子アスリートの「池江璃花子」選手など、白血病を克服し、すっかり現役で活躍し続ける姿やその治療のドキュメンタリー番組などを見て、医療関係者でない一般市民も、最新の医学や治療方法についての知識もついてきている。
 しかし、15年前と言えば、2005年の歌手でミュージカル女優の「本田美奈子.」さん、2004年の落語の「桂文治」師匠、2000年の格闘家の「アンディ・フグ」選手と白血病で亡くなってしまった著名人が多く、「厳しい抗ガン治療の挙句に助からない病気」と言うイメージが蔓延していたころである。
 希自身、父親が大好きだったという、1985年に白血病で亡くなった、ブルーリボン賞女優の夏目雅子さんの母親が設立した「夏目雅子ひまわり基金」のドキュメンタリーで、夏目雅子さんの厳しい闘病生活や抗がん剤の副作用の状況を赤裸々に記録した番組を見ていたし、2007年には、23回忌を迎え母親が闘病生活をまとめた本をドラマ化したものも父親と一緒に見ていた。

 それらの希が持つ「白血病」のイメージが、どんどんと頭の中で肥大化していく中、今日の朝一番に受けた、なにわ国際がんセンターで受けた再検査の結果の「最悪」の宣告に打ちひしがれていたことを告白した。
 3週間前の献血での血液検査の結果から、先週受けた地元の病院での血液検査、そして今日受けたなにわ国際がんセンターでの検査結果で、2ステップで数値の悪化が短期間で進んでいることが分かり、がんセンターの若い専門医師からは「急性骨髄性白血病」と「このまま症状が進めば、余命は1年を切ることも考えられる」と宣告されたのだった。

 ショックを受けて、意識もはっきりしない状況で、新たに設置された「地域医療連携室」のCSW《コミュニティー・ソーシャル・ワーカー》の社会福祉士から、今後のケアについて約1時間の説明を受けた。
 抗がん治療の受けられる地元病院や地元に戻って治療を受ける場合の病院のリストが渡された。抗ガン治療に伴う、「脱毛」や「副作用」についても「知りたくもなかった」現実を突きつけられた。
 
 父親と母親に伝えようと電話をしたのだが、希の大学の学費と下宿代を稼ぐために共稼ぎの両親と連絡も取れず、頭の中は「悪い方向」にばかり向き、抗ガン治療で激しい苦しみを受け、それまで自慢だった美しいロングの黒髪が次々と脱毛していく自分を想像して震えが出た。抗ガン治療をしたとしても1年で死ぬということなら、きれいな自分のまま「自殺」することまで考え始めていたと希は健に語り続けた。
 初対面の健になぜそこまで話す気になったのかは、希自身は「とにかく、誰かに聞いてもらいたかった」と判断してのことだと話した。健に対して
「ごめんね、健さん。今日、会ったばかりなのに、重たい話聞かせちゃって…。でも、ありがとう。健さんに話したおかげで、お父さんとお母さんにもどう話すか、私の中ですこしはまとまったような気がするわ。」
と詫びた。

 健は、優しい表情はそのままで、
「ちょっとごめんやで。30秒、おでこに手をあてさせてな。」
と言い、希の額に右手を添え、目を閉じた。
 30秒後、健は希の額から手を離し、目をじっと覗き込みゆっくりと言った。
「ちょっと、その封筒の中身、見させてくれへんかな?」
 希は、黙って健に封筒を手渡した。健は封筒の中におさめられたクリアフォルダーの中から、最初に行った病院の医師名となにわ国際がんセンターの担当医の名前をメモを取った。続いて、最初に行った町医者とがんセンターの医師の風貌について尋ねた。
 ソーシャルワーカーから渡された、抗ガン治療を受けられる病院リストと「がん宣告を受けた患者様へ」と表紙に書かれた小冊子は封筒に戻し、医師の所見を繰り返し3度目を通した。
 その後、どこかに電話をして、ふたりの医師の名前を伝えて、いろいろと調べ事の指示を出していたが、それが何を意味するものなのかは、希にはわからなかった。しかし見ず知らずの健が希の為に一生懸命動いていることは感じることができたので、黙ってその様子を見守った。
 
 15分後、一本の電話が健の携帯にかかってきた。健はかかってきた電話に対して、何度も頷き、次の指示を出し電話を切り、希に尋ねた。
「希ちゃんは、「オカルト」とか信じる方か?」
「えっ、いきなりなんなん?「オカルト」って「お化け」とか「UFO」とかってこと…?うーん、どっちかって言えば、信じる方かな…。」
と健の勢いに押されて答えた。
「さよか。ならよかったわ…。」
と健は難しい顔をして頷いた。



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