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「波乱のデビュー戦」
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「波乱のデビュー戦」
朝から良く晴れ渡り、雪のない快晴のクリスマスイブを迎えた。中央体育館のある公演はほかのイベントも多数開かれていてたいそうな人出だった。
昨晩、ラマダを中心にウーピーとケイトも一緒に試合の予行演習をしてもらった。約10分のファイトで、デビュー祝儀で勝たせてもらうシナリオだった。掌にマジックで、「出す技」、「受ける技」の順番を書いて第1試合のリングに上がった。初めての観客の前でがちがちに緊張していたが、リングアナウンサーから、「アマゾンから来た新星姉妹」と紹介され、思わず笑うと少しリラックスできた。
アグネスが5.0ある視力で会場を見渡し、マチルダの耳元で言った。
「あちゃー!リンダとユング来ちゃってるよ!」
「大丈夫、私たちはアマゾンから来た謎のマスクマン姉妹よ!」と自らに言い聞かせるように返した。
「カーン」!ゴングが鳴り、ファイトスタートだ。セコンドに着いたラマダの声を聴き洩らさないように、ふたりは交互にリングに上がり、技を出し、技を受け、緊張の中、何とか試合の体を保っている。アグネスの後ろまわし蹴りも、マチルダの払い腰もウーピーとケイトがうまく受けてくれたおかげで会場は盛り上がっている。
「10分!」
とラマダが叫んだ。エンディングに向けた合図だ。マチルダの巴投げでリング中央に仰向けに倒れたケイトが立ち上がったところを、コーナートップロープからアグネスがドロップキックを決めてフォール勝ちするシナリオだ。何度もジムのリングでシミュレーションを繰り返したので失敗はないはずだった。
マチルダが予定通り、ケイトを巴投げして、コーナーでアグネスにタッチ!アグネスが素早くコーナーロープの最上段に上がり、周りの観客をあおった。会場は大いに盛り上がった!
(さあ、ラスト決めてね、アグネス!)とロープ上のアグネスを見上げて、マチルダは凍り付いた・・・・。
リング中央でフラフラと立ち上がったケイトがアグネスの方を向いた時、アグネスはリング中央に向けて飛ぶのではなく、リング下に飛び降り、客席の柵を飛び越え通路を走り出した。アグネスの奇行に会場が大きくざわめいた。アグネスはマチルダの方を振り返り、何か叫んだが会場のどよめきにかき消され誰もその言葉は聞こえない。
リング中央でおろおろするケイトが
「何があったの?」
とマチルダに聞いた瞬間、
「わかったわ!アグネス!」
誰にも聞こえないアグネスの声はマチルダには届いた。マチルダもリングを飛び降り、アグネスの後を追った。
「アグネス!マチルダ!リングに戻りなさい!」
ラマダが叫ぶが、2人は振り返ることなく走り続ける。アグネスが客席5列目を越えたところで、出口に向かいリングに背中を向け歩いている黒いジャケットの男の背中中央に渾身のドロップキックを見舞った!
男は前のめりにふっとんだ。アグネスはさっとリング方向を振り返り元来た方向へ走り出した。マチルダとすれ違い際にタッチし、客席3列目を右に入っていった。
フラフラと立ち上がった男を入れ違いに入ってきたマチルダが一本背負いで投げ飛ばし、仰向けに倒れた男に腕ひしぎ逆十字固めの体勢に入った。
「ぐあっ!」
腕を決められた男がバタバタと暴れる。リングではゴングが乱打されている。
ラマダとアレサが駆け付けようと走ってくるのが見えた。ラマダが着く前に、アグネスが初老の女性を連れてきた。切れ切れの息でアグネスは男のジャケットの内ポケットに手を入れた。
「あなた達、何してるの!!」
ラマダがマチルダとアグネスにつかみかかろうとしたとき、アグネスが青い女性ものの財布を男のジャケットから取り上げ、
「これ、あなたの財布ですね!」
と初老の女性に見せた。
「はい、確かに私の財布です。でも、いったい何が・・・。」
「(男を指さし)こいつが・・・あなたのカバンから財布を・・・盗むのが見えたんです。・・・何とか間に合って・・・よかったです・・・。」
アグネスは、息を切らせながら、女性に財布を手渡した。そのやり取りを聞いていたラマダとアレサが立ちつくしていたところ、警備員が駆け付けた。財布を盗まれた女性が警備員とラマダに手短に説明してくれたおかげで、すぐに「すり」の男は警備員に引き渡された。
ざわめく会場の中、ラマダに連れられ、アグネスとマチルダはリングにうなだれて上がった。リングアナからマイクを受け取ったラマダが
「お騒がせして申し訳ございません。試合はアグネス仮面、マチルダ仮面組のリングアウト負けとなりましたが、試合中に会場内で起こった窃盗事件を発見し、未然に防ぎ、犯人を確保したアグネス仮面とマチルダ仮面に大きな拍手をお願いします!」
と四方の客席に頭を下げた。
パチ・・・、パチパチ・・・。パチパチパチパチと大きな拍手が巻き起こった。
「アグネス仮面よくやった!」、「マチルダ仮面もかっこよかったぞ!」と声援がかかった。会場のスタンディングオベーションの中、巻き起こったアグネスコールとマチルダコール!リングに流れ込んできた先輩レスラー達に2人は胴上げされ、何度も宙を舞った。
朝から良く晴れ渡り、雪のない快晴のクリスマスイブを迎えた。中央体育館のある公演はほかのイベントも多数開かれていてたいそうな人出だった。
昨晩、ラマダを中心にウーピーとケイトも一緒に試合の予行演習をしてもらった。約10分のファイトで、デビュー祝儀で勝たせてもらうシナリオだった。掌にマジックで、「出す技」、「受ける技」の順番を書いて第1試合のリングに上がった。初めての観客の前でがちがちに緊張していたが、リングアナウンサーから、「アマゾンから来た新星姉妹」と紹介され、思わず笑うと少しリラックスできた。
アグネスが5.0ある視力で会場を見渡し、マチルダの耳元で言った。
「あちゃー!リンダとユング来ちゃってるよ!」
「大丈夫、私たちはアマゾンから来た謎のマスクマン姉妹よ!」と自らに言い聞かせるように返した。
「カーン」!ゴングが鳴り、ファイトスタートだ。セコンドに着いたラマダの声を聴き洩らさないように、ふたりは交互にリングに上がり、技を出し、技を受け、緊張の中、何とか試合の体を保っている。アグネスの後ろまわし蹴りも、マチルダの払い腰もウーピーとケイトがうまく受けてくれたおかげで会場は盛り上がっている。
「10分!」
とラマダが叫んだ。エンディングに向けた合図だ。マチルダの巴投げでリング中央に仰向けに倒れたケイトが立ち上がったところを、コーナートップロープからアグネスがドロップキックを決めてフォール勝ちするシナリオだ。何度もジムのリングでシミュレーションを繰り返したので失敗はないはずだった。
マチルダが予定通り、ケイトを巴投げして、コーナーでアグネスにタッチ!アグネスが素早くコーナーロープの最上段に上がり、周りの観客をあおった。会場は大いに盛り上がった!
(さあ、ラスト決めてね、アグネス!)とロープ上のアグネスを見上げて、マチルダは凍り付いた・・・・。
リング中央でフラフラと立ち上がったケイトがアグネスの方を向いた時、アグネスはリング中央に向けて飛ぶのではなく、リング下に飛び降り、客席の柵を飛び越え通路を走り出した。アグネスの奇行に会場が大きくざわめいた。アグネスはマチルダの方を振り返り、何か叫んだが会場のどよめきにかき消され誰もその言葉は聞こえない。
リング中央でおろおろするケイトが
「何があったの?」
とマチルダに聞いた瞬間、
「わかったわ!アグネス!」
誰にも聞こえないアグネスの声はマチルダには届いた。マチルダもリングを飛び降り、アグネスの後を追った。
「アグネス!マチルダ!リングに戻りなさい!」
ラマダが叫ぶが、2人は振り返ることなく走り続ける。アグネスが客席5列目を越えたところで、出口に向かいリングに背中を向け歩いている黒いジャケットの男の背中中央に渾身のドロップキックを見舞った!
男は前のめりにふっとんだ。アグネスはさっとリング方向を振り返り元来た方向へ走り出した。マチルダとすれ違い際にタッチし、客席3列目を右に入っていった。
フラフラと立ち上がった男を入れ違いに入ってきたマチルダが一本背負いで投げ飛ばし、仰向けに倒れた男に腕ひしぎ逆十字固めの体勢に入った。
「ぐあっ!」
腕を決められた男がバタバタと暴れる。リングではゴングが乱打されている。
ラマダとアレサが駆け付けようと走ってくるのが見えた。ラマダが着く前に、アグネスが初老の女性を連れてきた。切れ切れの息でアグネスは男のジャケットの内ポケットに手を入れた。
「あなた達、何してるの!!」
ラマダがマチルダとアグネスにつかみかかろうとしたとき、アグネスが青い女性ものの財布を男のジャケットから取り上げ、
「これ、あなたの財布ですね!」
と初老の女性に見せた。
「はい、確かに私の財布です。でも、いったい何が・・・。」
「(男を指さし)こいつが・・・あなたのカバンから財布を・・・盗むのが見えたんです。・・・何とか間に合って・・・よかったです・・・。」
アグネスは、息を切らせながら、女性に財布を手渡した。そのやり取りを聞いていたラマダとアレサが立ちつくしていたところ、警備員が駆け付けた。財布を盗まれた女性が警備員とラマダに手短に説明してくれたおかげで、すぐに「すり」の男は警備員に引き渡された。
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「お騒がせして申し訳ございません。試合はアグネス仮面、マチルダ仮面組のリングアウト負けとなりましたが、試合中に会場内で起こった窃盗事件を発見し、未然に防ぎ、犯人を確保したアグネス仮面とマチルダ仮面に大きな拍手をお願いします!」
と四方の客席に頭を下げた。
パチ・・・、パチパチ・・・。パチパチパチパチと大きな拍手が巻き起こった。
「アグネス仮面よくやった!」、「マチルダ仮面もかっこよかったぞ!」と声援がかかった。会場のスタンディングオベーションの中、巻き起こったアグネスコールとマチルダコール!リングに流れ込んできた先輩レスラー達に2人は胴上げされ、何度も宙を舞った。
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